異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
390 / 1,861
極東

PHASE-390【偏見は許さないマン】

しおりを挟む
 理由を聞いてこちらは脱力だ。ただでさえ今日は朝の起床時からしんどいのに、ここにきて更なる脱力に襲われた。
 
 宗教の違い。肌の色の違い。どうでもいい差別的な理由で争いがおこる俺の元いた世界も大概だから、偉そうな事は言えないけど。
 だが、あまりにも安直すぎる。

「そういう根拠のない内容で判断するな」

「根拠は昔から言われている。魔王軍に属するゴブリンにも黄色い目は多い」

「コボルトだって瞳の色は様々だったぞ」

「あの亜人達は無害だ。魔王軍に与している者たちで言っている」

「だとしても、黄色ばかりじゃない。それが根拠とか、最初から崩壊している言いがかりだな」

「しかし!」

「しかし! じゃないよ。根拠もなく言われる身にもなれよな。目が黄色だからってなんだ。人は人だろうが。俺はこの黄色い瞳は凄く綺麗だと思うぞ」

「トール様」
 ――……街中でもベルとシャルナに言ったが、俺いま、サラッと男前だけが言うことを許された台詞を口にしたような気がする。
 本当に自分自身が言ったんだろうか? と思ってしまう台詞を語末で言ってしまったな。
 言ってなんだが、凄く恥ずかしい。顔真っ赤になっていると思う。

「だが!」
 しかしに、だがにとうるさい美人だな。そこまでしてランシェルちゃんを目の敵にする理由を知りたいよ。
 やはりこの世界はいまだに中世だな。
 ちょっとした行き違いとかで、魔女狩りなんて最悪の事態になりかねない。
 こういう凝り固まった考え方の人間が増えれば、暗黒時代が到来する可能性もある。
 これは魔王討伐と同じくらいに大事な関心事としなければ。
 勇者として、偏見の壁をぶっ壊してやる。
 俺の後ろに立つ、愛らしい顔を悲しみに染めさせないように。
 ――――ここまでの事を女の子の前で口に出せれば、俺も一人前なんだろうな。

「もういいだろう。イリー殿」
 ここまで傍観を決め込んでいたベルが間に入る。
 長い付き合いである。そろそろ仲裁に入ると思っていたよ。
 長身の美人様がイリーの前で立ちふさがる姿は迫力だ。
 夕陽に当てられた白い髪が、以前の完全チートの頃を彷彿させるような紅色に――――、ん?
 ゴシゴシと目を擦り、細めて眺める。

「なんだ?」

「いや。なんでもない」
 気のせいか。
 髪が本当に赤く見えたが、夕陽が原因だったようだな。俺の視線に気付いて振り返ったベルの髪は、やはり白髪だ。
 
 俺のせいでやり取りが些か中断したが、ベルが再度イリーを見る。
 エメラルドグリーンの瞳は強い視線なのだろう。流石の騎士団団長も後退る。

「瞳程度の色の違いで判断をするのは、トール同様に反対です。イリー殿は見聞を広げるべきです」
 ベルの発言には俺と違って説得力があるのか、イリーは顔を伏せる。
 そのままぺこりと頭を下げて、俺たちが来た道に向かって歩き出す。
 すれ違い様に――、

「言い過ぎた。すまない」
 と、ランシェルちゃんに一言つげて、兵舎の方向へと去っていく。

「ふぃ~」
 体を弛緩させる。
 なんだかんだで、佩剣している人間に対して意を唱えるのは勇気がいるね。
 刃傷沙汰なんてないだろうが、絶対とは言えないからな。

「トール様」
 先ほどまでの弱々しい声とは違って、安堵と優しさの混ざった声。
 スカートを揺らしながら至近まで近寄れば、深々と一礼。
 ここに来てから、ランシェルちゃんの一礼ばかりを目にする。
 メイドだから当然なんだけど。
 ちらりとエントランス方向に目をやれば、コトネさんも心配だったのか来ていたようで、他のメイドさん達と一緒になって、俺に対して感謝を示すようにカーテシーにて挨拶をしてくれる。

「私ような存在を対等に見てくださり感謝します」
 顔を上げれば、嬉しそうな笑顔。
 でも、なんか寂しそうでもある。
 あれだけ痛烈な発言を受けていたんだから仕方ないか。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...