469 / 1,861
レティアラ大陸
PHASE-469【フェスティナ・レンテ】
しおりを挟む
「ではリズベッド様の事を頼む」
ガルム氏が深々と頭を下げれば、集落の皆さんもそれに続く。
長居すれば、もしかしたら翼幻王の奴らがここにくる可能性もあるからと、俺たちはお礼を述べて、ガルム氏の期待に応えられるような返答をして、集落を足早に後にする。
ベルはモフモフ達と別れる事が寂しかったようだが、そんなモフモフ達から声援を受ければ、任せてもらおうと、強気の発言。
モフモフ達からお願いされれば、ベルは世界を簡単に救ってくれそうな気がする。
――――新しいハンヴィーを召喚して俺たちは西を目指す。
魔大陸北東にあるラッテンバウル要塞。
北東といっても俺たちが上陸し、集落でお世話になった場所よりも内陸部に位置するそうで、西というよりは南西に向かっての方が正しい。
「ガルム氏も言っていたけど、翼幻王の連中はやる気がないよな」
隣に座るランシェルへと問えば、クロウスを始め、謎めいた面々が多いということだ。
主であるベスティリス・バルフレア・エアリアスもよく分からない女性らしいが、サキュバスさん達に対しては優しく接してくれた事もあったそうだ。
真意を窺い知ることが出来ない立ち居振る舞いは、例えるならば雲のように掴み所のない人物だったそうだ。
ドヌクトスで俺がクロウスに嘘をついたけど、あの時、サキュバスさん達が命を落としたという嘘発言を耳にして、寂しい表情になったのは、自分の主が懇意にしていたという経緯があったからこその表情だったのかもな。
そう考えると、蔑ろというか、道具あつかいしていたゼノとは違い、好感が持てるタンガタ・マヌだな。
この魔大陸での翼幻王の軍は秩序維持の仕事は適当みたいだし、悠々と先へ進めそうだ。
ハンヴィーに揺られて一日が経過。
野生の生物は見ても、ガルム氏たちのような強者に会うことはない。
一応は翼幻王のテリトリーってこともあって、上空に気を付けていたけど、やはり適当なのか、鳥は飛んでいても、翼の生えた人型を見る事はなかった。
首が無駄にこってしまっただけだ。
「トール様。ここよりは気を引き締めた方がよいです」
こった首を回して、コキコキと小気味の良い音を鳴らしている横で、ランシェルからの警告。
神妙な面持ちからして、本当にやばい領域に入ったようだ。
引き締めた方がいいと言うだけあって、前方は晴れ渡る青空とは別に、久しぶりと言ってもいい紫色の世界が広がっている。
「濃密な瘴気だな」
「あの先にラッテンバウル要塞は存在します」
いよいよ魔王護衛軍の中でも精鋭といわれる、レッドキャップスが鎮護する要塞が近づいて来たか。
知らず知らずにゴクリと唾を飲んでしまう。
ランシェルの隣へと目を向ければ、普段は自信に満ちあふれたコクリコも肩に力が入っているし、シャルナも表情が引きつっている。
斜め前を見れば、ベルはいつもの如く落ち着いた無表情。
ゲッコーさんもきっとそうだろう。
「ここからは歩いた方がいいかも」
一言発せば、ハンヴィーが止まる。
「よし、行こう」
止めて直ぐに降車するゲッコーさんが周辺を警戒。
問題ないとのことなので、俺たちも続く。
緑が広がる美しい光景を禍々しくする瘴気の空。
まだここは綺麗な空気だけど、しばらく歩けば瘴気が蔓延した世界になるだろう。
隆起した大地を利用し、体を隠しつつの徒での移動。
発見される確率を下げるためとはいえ、障害物になる場所を選びながら歩くというのは、けっこう体力を消費する。
真っ直ぐに歩くって事が出来ないからな。
目立たないように、ゆっくり素速くがメインの移動。
「まさにゆっくり急げだな」
「そういう事だ。いい結果を生み出したいなら、焦らずに行動する事だ」
返事をくれるゲッコーさんが大木のある場所で停止。小休止だ。
「――――ふぅ」
「やっぱり緊張するよな」
大きめの嘆息をコクリコが漏らす。
水筒に入った柑橘水を注いでやれば、呷るように飲み干した。十三歳とは思えぬ、剛気な飲みっぷり。
将来、酒を覚えたら大変なことになりそうだな。
皆して喉を潤し、体をほぐしてから再び歩く――――。
「これは助かる」
「ですね」
先頭を行くゲッコーさんに相槌を入れる。
眼界は、草原から新しい光景へと変わる。
若草色から深い緑。
今までは木々が少ない草原だったが、緑生い茂る丘陵地帯が俺たちを迎えてくれる。
小山になだらかな起伏。背の高い木。姿を隠しながら進むにはもってこいだ。
だが、霞がかかったように瘴気も立ち込めてきた。
「二人はガスマスク着用な」
言えば直ぐに装備。つけるのも様になってきたな。
「う~……久しぶりですね。この独特な臭い……」
「だよね……」
手早く装着は出来ても臭いはきついと、くぐもった声のように、コクリコとシャルナのテンションが下がる。
臭いは我慢してもらうしかない。行動不能になったあげくに暴れられても困るしな。
というか、コクリコはダークサイド感が溢れるガスマスクが、お気に入りだっただろう。
ガルム氏が深々と頭を下げれば、集落の皆さんもそれに続く。
長居すれば、もしかしたら翼幻王の奴らがここにくる可能性もあるからと、俺たちはお礼を述べて、ガルム氏の期待に応えられるような返答をして、集落を足早に後にする。
ベルはモフモフ達と別れる事が寂しかったようだが、そんなモフモフ達から声援を受ければ、任せてもらおうと、強気の発言。
モフモフ達からお願いされれば、ベルは世界を簡単に救ってくれそうな気がする。
――――新しいハンヴィーを召喚して俺たちは西を目指す。
魔大陸北東にあるラッテンバウル要塞。
北東といっても俺たちが上陸し、集落でお世話になった場所よりも内陸部に位置するそうで、西というよりは南西に向かっての方が正しい。
「ガルム氏も言っていたけど、翼幻王の連中はやる気がないよな」
隣に座るランシェルへと問えば、クロウスを始め、謎めいた面々が多いということだ。
主であるベスティリス・バルフレア・エアリアスもよく分からない女性らしいが、サキュバスさん達に対しては優しく接してくれた事もあったそうだ。
真意を窺い知ることが出来ない立ち居振る舞いは、例えるならば雲のように掴み所のない人物だったそうだ。
ドヌクトスで俺がクロウスに嘘をついたけど、あの時、サキュバスさん達が命を落としたという嘘発言を耳にして、寂しい表情になったのは、自分の主が懇意にしていたという経緯があったからこその表情だったのかもな。
そう考えると、蔑ろというか、道具あつかいしていたゼノとは違い、好感が持てるタンガタ・マヌだな。
この魔大陸での翼幻王の軍は秩序維持の仕事は適当みたいだし、悠々と先へ進めそうだ。
ハンヴィーに揺られて一日が経過。
野生の生物は見ても、ガルム氏たちのような強者に会うことはない。
一応は翼幻王のテリトリーってこともあって、上空に気を付けていたけど、やはり適当なのか、鳥は飛んでいても、翼の生えた人型を見る事はなかった。
首が無駄にこってしまっただけだ。
「トール様。ここよりは気を引き締めた方がよいです」
こった首を回して、コキコキと小気味の良い音を鳴らしている横で、ランシェルからの警告。
神妙な面持ちからして、本当にやばい領域に入ったようだ。
引き締めた方がいいと言うだけあって、前方は晴れ渡る青空とは別に、久しぶりと言ってもいい紫色の世界が広がっている。
「濃密な瘴気だな」
「あの先にラッテンバウル要塞は存在します」
いよいよ魔王護衛軍の中でも精鋭といわれる、レッドキャップスが鎮護する要塞が近づいて来たか。
知らず知らずにゴクリと唾を飲んでしまう。
ランシェルの隣へと目を向ければ、普段は自信に満ちあふれたコクリコも肩に力が入っているし、シャルナも表情が引きつっている。
斜め前を見れば、ベルはいつもの如く落ち着いた無表情。
ゲッコーさんもきっとそうだろう。
「ここからは歩いた方がいいかも」
一言発せば、ハンヴィーが止まる。
「よし、行こう」
止めて直ぐに降車するゲッコーさんが周辺を警戒。
問題ないとのことなので、俺たちも続く。
緑が広がる美しい光景を禍々しくする瘴気の空。
まだここは綺麗な空気だけど、しばらく歩けば瘴気が蔓延した世界になるだろう。
隆起した大地を利用し、体を隠しつつの徒での移動。
発見される確率を下げるためとはいえ、障害物になる場所を選びながら歩くというのは、けっこう体力を消費する。
真っ直ぐに歩くって事が出来ないからな。
目立たないように、ゆっくり素速くがメインの移動。
「まさにゆっくり急げだな」
「そういう事だ。いい結果を生み出したいなら、焦らずに行動する事だ」
返事をくれるゲッコーさんが大木のある場所で停止。小休止だ。
「――――ふぅ」
「やっぱり緊張するよな」
大きめの嘆息をコクリコが漏らす。
水筒に入った柑橘水を注いでやれば、呷るように飲み干した。十三歳とは思えぬ、剛気な飲みっぷり。
将来、酒を覚えたら大変なことになりそうだな。
皆して喉を潤し、体をほぐしてから再び歩く――――。
「これは助かる」
「ですね」
先頭を行くゲッコーさんに相槌を入れる。
眼界は、草原から新しい光景へと変わる。
若草色から深い緑。
今までは木々が少ない草原だったが、緑生い茂る丘陵地帯が俺たちを迎えてくれる。
小山になだらかな起伏。背の高い木。姿を隠しながら進むにはもってこいだ。
だが、霞がかかったように瘴気も立ち込めてきた。
「二人はガスマスク着用な」
言えば直ぐに装備。つけるのも様になってきたな。
「う~……久しぶりですね。この独特な臭い……」
「だよね……」
手早く装着は出来ても臭いはきついと、くぐもった声のように、コクリコとシャルナのテンションが下がる。
臭いは我慢してもらうしかない。行動不能になったあげくに暴れられても困るしな。
というか、コクリコはダークサイド感が溢れるガスマスクが、お気に入りだっただろう。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる