異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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レティアラ大陸

PHASE-472【手なずけた】

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 鈍くなった動きで生じた隙に、残火の柄に手を添える。
 可能ならば苦痛を与えることなく、一太刀で終わらせたいところ。
 痛みに耐えつつも引く事を考えないところは、野生の獣とはやはり違うようだな。
 俺が刀を抜くよりも早く、蠍の終体の形状からなる尻尾を大きく振り回す。
 毒による攻撃ではなく、鋭利な先端による刺突だ。
 どのみち刺突を見舞われれば、そこから毒が注入されるんだろうけど。
 鞭のように撓った尻尾の動きは、とてつもなく速い。
 ビジョンで視力を強化していないと、追い切れない速さだ。

「ふん!」
 鞘に装飾された金槌部分にある、緑色の宝石を押せば、鞘から刀がせり上がり、鍔が六花を象ったように六方向に広がる。
 そのまま抜き出し、迫る尻尾の先端を斬る。
 抜刀術の要領での一振りは成功。
 マンティコアの切断された尻尾の先端が、俺の横を通り過ぎていく。

「ぎゃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 割れ鐘のような猫の鳴き声といった感じだった。
 本当は一太刀で終わらせたかったが、自分へと迫る攻撃をまずは迎撃することが大事だったからな。

「終わらせてやる」
 尻尾を切断されて、痛みでのたうち回る姿を見ながら、残火を両手でしっかりと持ち、大上段で構えて、振り下ろすタイミングを窺う――――。

「待て」
 静かで凛としたベルの声。
 とはいえ戦いの最中である、大上段で構えた姿勢を崩すわけにはいかないので、そのままの体勢で固まる俺は、

「どうした?」
 と、返す。

「もういいだろう」
 もういいと言っても、引くことをしないからな。
 立ち上がられたら困るんだけど。
 まあ、そもそもはコクリコの馬鹿が悪いわけだけども。

「――――うん。ベルの言うとおりだな。お前、もういいぞ。抵抗はするな」
 頼むから挑もうとしないでほしいと願いながら、マンティコアに対しての攻撃を中断するように威圧。
 俺の威圧は効果があるとは思えないが、

「ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
 体勢を整えたマンティコアは身を低くする。
 再び俺へと飛びかかろうとしているのか、平伏しているのか分かりづらいけど、鳴き声からして戦いを求めているとは考えにくい。
 引くことは出来なくても、降参はしてもらいたいね。
 警戒は怠らずに接近。
 
 火龍の装備で守られているから、攻撃が有ったとしても何とかなるだろうという考えもある。
 
 一般的なゴブリンやモンスターに比べれば脅威ではあるが、拳の一撃で後退させられる今の俺の実力なら、どうとでもなる相手だ。
 その余裕が俺に自信ある歩みを行わせている。
 
 俺の気概に当てられたのか、マンティコアは先ほどまでの咆哮はなく、大人しくなっている。ゴロゴロと猫が喉を鳴らすような音を出しながら。
 これが威嚇なのか、降参なのかは生態が分かっていない以上、油断は出来ない。
 残火を握っていない左手をすっと鼻の前に出してみる。
 猫に対して指先をゆっくりと近づけるのに似ている。
 がぶりと噛まれないことを祈っていれば、スンスンとにおいを嗅ぐ仕草。

「に゛ゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛」
 何というだみ声による鳴き声。象みたいにでかいし、可愛げはない。
 明らかに先ほどより大きくなったゴロゴロ音。
 リラックスしているようだが、尻尾部分には痛みがあるだろう。

「シャルナ、ランシェル。回復魔法を唱えてやってくれ」

「分かった」

「分かりました」
 同時に返事をもらい、ファイヤーボールの軽症部分にランシェルがファーストエイドを唱え、シャルナが尻尾と前脚部分にヒールを唱えれば、瞬く間に回復する。

「回復でも欠損部分は治らないんだな」

「当然だよ。リジェネレーションでも使用しないとね」

「出来る?」

「出来ない。光魔法。聖光魔法とも言われる大魔法は習得してない」
 そうか、二千年近く生きてても出来ないか~。

「なに? その目は」

「いや別に」
 二千年近く生きているエルフでも使えないんだな。と、思っただけなのにな。

「ま、無い方が悪さしないだろう。自然界では不利になってしまうけど」

「そうだね」
 俺とシャルナは、大人しくなったマンティコアを前にして語り合う。
 そこにランシェルも参加。三人でわざとらしい大きな声で歓談。
 歓談しつつチラチラと後方を見る俺たち。
 
 後方ではガッツリと正座をさせられたコクリコが、目力ハンパないって! と、言いたくなるチート二人に、ガチ説教を受けていた。
 
 珍しく涙を浮かべているあたり、本気で怖がっていると理解できる。
 たまには本気で怒られないと分からないからな。
 子供には優しくしても、甘やかしてはいけないのだ。
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