異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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レティアラ大陸

PHASE-494【ショゴスの子】

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「指揮官たる者、他とは違うのは当然だろう」
 と、自慢げにベレー帽を外して見せてくる。
 認められた者だけが被ることを許された帽子だと、渋い低音の声の中には、嬉々としたものが混ざっている。
 ――長々と会話をしてくれる余裕に乗じて、俺はプレイギアで情報を得る。

【デスベアラー・フサルク・アンスール】
【種族・スモールゴーレム・ショゴスの子】
【レベル87】
【得手・膂力】
【不得手・――】
【属性・心酔】
 
 レベル87ってのは納得がいく。
 容易く吹き飛ばされたからな。
 膂力ってのが得手っていうのがね……。ゴリゴリの身体能力特化型だな。強化系だ。水見式だとグラスから水が溢れるヤツだ。
 こういうのって基本、魔法が使用出来ないタイプだったりするんだけど、正面からの攻撃にはめっぽう強いし、力量に差があれば、搦め手で仕掛けても無意味っていうのも通例だよな。
 単純だからこそ強いし、攻略が難しくもある。

「スモールゴーレムでショゴスの子。聖祚せいそとか言ってる時点で分かってたけど、ショゴスに作られたのか」

「ほう。勇者なだけはある。我の素性を得る力を有しているのだな」
 ゴーレムってことは、ショゴスの魔法によって作られた存在って事だな。
 流石は現魔王ってだけはあるよな。会話が可能なゴーレムを作れるんだから。
 しかも小型。
 機械技術においては、小型化させることこそが到達点の一つだからな。
 それに照らし合わせると、人型サイズのゴーレムを作るというショゴスの魔法技術は相当なものだな。
 技術の優秀な存在を捕食して得たんだろうが。

「だが許せん」
 ゾワリと背中に冷たいものが走る。
 無機質な語気ではあるが、しっかりとした怒りが伝わってくる。

「我が聖祚の名を容易く口にする。万死に値する」

「どのみち命を奪うつもりだろうが」

「その言は正しい」
 語り口に佇まいは武人だよな。
 などと思っているわけにもいかない。
 すでに眼界より姿を消している。次には攻撃が見舞われるわけだ。
 レベル87からなる、高レベルによる一撃は、もう受けたくない。

「イグニース」
 いつものように防御態勢。
 前面に亀甲を模した炎の盾を展開。後は左右に目を向ければいい。背中は壁なんだからな。

「ふん!」
 前面と左右に注意を払うだけでいいと考えていた俺が浅はかだった。
 といっても、上だって警戒はしていた。
 まさか門付近の壁の向こう側から攻めてくるとは、俺の予想範囲外だ。

「まったく、死んでいるぞ」

「ありがとう」
 気概溢れるベルのレイピアによるいなしで、壁より突き出てきた剣から難を逃れることが出来た。
 俺の残火と違って、壁をバターのように斬るのではなく、剛力に物を言わせて、破片を飛ばしながら分厚い岩の壁を無理矢理に断ち切っていく。
 得手が膂力なだけはある。
 いなされてこの威力。
 能力値を力に全振りしている火力型はおっかない。
 あまりの剛力に、護衛軍の面々も魅入っている。
 ガゴン。と、壁を拳で叩いて壊しつつ、通れる穴を作れば、強い足取りでそこから入ってくる。
 スリットになっている目の部分の奥では、二つの赤い輝きが、歩みに合わせて軌跡を描く。
 戦闘ロボットアニメの、アイカメラのエフェクトに似ている。
 歩みを止めて室内を見渡すデスベアラーは、

「なにを動きを止めている。戦え。お前達が動かないから、我は勇者を倒す機会を一つ失った」
 護衛軍がベルに攻撃を加えて、動きに制限をかければ、デスベアラーの刺突による一撃は、俺の体を貫いていた可能性があったのは事実。
 一つの機会を逸した事が敗北に繋がることもあると、兵達に解く。
 決して高圧的ではない。
 同じ護衛軍であるからこそ、苦言は述べても、横柄な物言いはしないといったところか。
 理想の上司像だな。

 魔王に対する忠誠もさることながら、指揮官であるデスベアラーに対してもそれは当然のようで、発言を受けることで、死すらも恐れないとばかりに目に力が宿り、一斉にベルへと向かって攻撃を仕掛けるために動き出す。
 
 後方からは魔法支援と矢。突撃する味方に当たっても構わないといったような攻撃方法は、先ほど通路で行った掩護方法とは真逆。
 命を捨てても敵を倒すという、死兵の戦い方に変わったようだった。
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