551 / 1,861
死霊魔術師
PHASE-551【ネクロマンサー】
しおりを挟む
大貴族で広大な領土を統治する人物なんだから、苛烈さもあって当然だろうけど、理性より感情が先行しているのは統治者としてどうなのだろうか。
だとしても、五万を動かせるってのは王都から考えたら凄い事だけど。
もちろん実行すれば各地の防衛力はそれだけ低下するから、本来、実行するのは難しいだろう。
最低限の防衛力を配置して五万の派兵って事だから、五万ってのは総動員に近いと考えていい。
そうなると各貴族や豪族に対して兵の派遣を要請しないといけないし、その時の兵糧、物資を何処が出すのかでも揉めそうな気がする。
実際に動員できるのは、動員しないと領地全体が危機に陥ってしまうって時くらいじゃないと、総動員という選択肢は実行できないだろう。
となれば、やはり現実的じゃない。
「感情のままに兵を動員すれば大きな損害が出ますよ」
ゲッコーさんが冷淡に具申する。
用兵も卓抜した人物からの発言。冷ややかな声に熱が下がってきたのか、侯爵は口を真一文字にして苦い表情。
勢いで発言した感情と、踏みとどまろうという理性が頭の中でせめぎ合っているようだ。
「ゲッコー様の言うとおりですエンドリュー候。多くの派兵を実行しても被害は大きくなると思います」
「負けると?」
「それは分かりませんが、被害は大きいでしょう。その間に姿をくらますことも考えられます」
「負けなくとも時間はかかる相手ということですか? 廃城にそのような大多数の者達がいるという報は入っておりませんが」
いくら廃城とはいえ、近隣の町や村にもちゃんと兵を配置し、バランド全体を監視させているから、大規模な動きがあれば耳に入ってくる。
「個であり衆でもありますから」
リズベッドの言い様はなぞなぞのようで皆して首を傾げてしまう。
分かることは、廃城を塒にしている存在が強者ということだろう。
リズベッドが記憶しているマナとなると、
「魔王軍のどこの所属なのかな? リズベッドの派閥なら話せば解決しそうだけど」
「彼女は魔王軍ではありません」
彼女――、廃城の主は女か。
「魔王軍ではないとしても、ゼノの言い分を聞き入れているから人間サイドとは敵対関係と考えるべきだよね。となると第三の勢力?」
「どうでしょうか、単純に自分に関わってほしくないから、それを条件に協力したと考えた方がいいかと。喧騒を嫌いますから」
「――――リズベッドは完全にその人物のことを知っているよね」
「ええ、怜悧な人物です。生前はこの大陸で活躍されていたのですよ」
もはや過去のこと。
でも、現在も存在するような言い方から察するに、死者であり自らの意思で活動が可能な人物。
ゼノのようなヴァンパイアと同じ高位のアンデッドということになる。
「生前の活躍っていつ頃の話なの?」
「今の王から遡って六代ほど前でしょうか」
――……大体、二世紀くらい前って事かな? 先王達の天命にもよるけど。
「当時は今ほど人々と魔族との間に大きな争いはなかったのですが、その……、人の驕りが原因で、亜人達との間で大きな戦いになったこともありまして」
「あった、あった」
と、ここでシャルナだけが話に乗れるという状況。
驕った人々に対して、エルフやドワーフの面々は自重を求め、この時の亜人との戦いに対しては人類に味方をする事はなく、戦いを早期停止するように、双方の説得に努めたそうだ。
が、それでも双方が戦いを止めることはなかったそうだ。
で、人間、亜人に多大な損害が出る無益な戦いを絶大な力で収めたのが、
「現在、アンデッドのその女性か」
「そうです。偉大なるネクロマンサー。リン・クライツレンです」
「なんと!? 彼の大賢者であるリン・クライツレンですか。その方がこの地にいらっしゃると!?」
「マナの痕跡が確かなら」
驚きの侯爵。
歴史上の大英雄だそうだ。
練兵所などの学舎において、戦史教本に必ず出て来る名前らしい。
かなりのページ数で彼女のことが紹介されているという。
ネクロマンサーは魔術師職で最上位の存在だそうだ。
ゲームなんかでもお馴染みの最上級ポジションだよな。
捏造も辞さない姿勢で、自伝を書くのに一生懸命な、なんちゃってロードウィザード様とは違い、ガチで凄い魔術師。
ネクロマンサーと聞けば、確かに大軍勢にて派兵すれば、損害も大きくなりそうだ。
俺の知るネクロマンサー同様に、この世界のネクロマンサーも死者を使役して戦わせるそうだ。
個にして衆とリズベッドの言っていた理由が分かった。
下手したら無尽蔵にアンデッドの軍勢を使役できるかもしれない存在。
戦死者が出れば、その人がアンデッドの兵に変わる事だって考えられる。
しかも最上位の魔術師でもあるのだから、一発で形勢を逆転させられる大魔法だって使用出来るだろう。
リズベッドはオブラートに包んだんだろうな。
正直、精兵とはいえ通常装備の五万の兵では太刀打ち出来ないだろう。
魔法付与の装備とかなら話は別だけど、五万が五万とも魔法付与の装備で身を固めるなんて事は、如何にこの潤沢な地であっても無理だろう。
戦いとなれば、ジリ貧になって、数の利が逆転する未来しか見えない。
だとしても、五万を動かせるってのは王都から考えたら凄い事だけど。
もちろん実行すれば各地の防衛力はそれだけ低下するから、本来、実行するのは難しいだろう。
最低限の防衛力を配置して五万の派兵って事だから、五万ってのは総動員に近いと考えていい。
そうなると各貴族や豪族に対して兵の派遣を要請しないといけないし、その時の兵糧、物資を何処が出すのかでも揉めそうな気がする。
実際に動員できるのは、動員しないと領地全体が危機に陥ってしまうって時くらいじゃないと、総動員という選択肢は実行できないだろう。
となれば、やはり現実的じゃない。
「感情のままに兵を動員すれば大きな損害が出ますよ」
ゲッコーさんが冷淡に具申する。
用兵も卓抜した人物からの発言。冷ややかな声に熱が下がってきたのか、侯爵は口を真一文字にして苦い表情。
勢いで発言した感情と、踏みとどまろうという理性が頭の中でせめぎ合っているようだ。
「ゲッコー様の言うとおりですエンドリュー候。多くの派兵を実行しても被害は大きくなると思います」
「負けると?」
「それは分かりませんが、被害は大きいでしょう。その間に姿をくらますことも考えられます」
「負けなくとも時間はかかる相手ということですか? 廃城にそのような大多数の者達がいるという報は入っておりませんが」
いくら廃城とはいえ、近隣の町や村にもちゃんと兵を配置し、バランド全体を監視させているから、大規模な動きがあれば耳に入ってくる。
「個であり衆でもありますから」
リズベッドの言い様はなぞなぞのようで皆して首を傾げてしまう。
分かることは、廃城を塒にしている存在が強者ということだろう。
リズベッドが記憶しているマナとなると、
「魔王軍のどこの所属なのかな? リズベッドの派閥なら話せば解決しそうだけど」
「彼女は魔王軍ではありません」
彼女――、廃城の主は女か。
「魔王軍ではないとしても、ゼノの言い分を聞き入れているから人間サイドとは敵対関係と考えるべきだよね。となると第三の勢力?」
「どうでしょうか、単純に自分に関わってほしくないから、それを条件に協力したと考えた方がいいかと。喧騒を嫌いますから」
「――――リズベッドは完全にその人物のことを知っているよね」
「ええ、怜悧な人物です。生前はこの大陸で活躍されていたのですよ」
もはや過去のこと。
でも、現在も存在するような言い方から察するに、死者であり自らの意思で活動が可能な人物。
ゼノのようなヴァンパイアと同じ高位のアンデッドということになる。
「生前の活躍っていつ頃の話なの?」
「今の王から遡って六代ほど前でしょうか」
――……大体、二世紀くらい前って事かな? 先王達の天命にもよるけど。
「当時は今ほど人々と魔族との間に大きな争いはなかったのですが、その……、人の驕りが原因で、亜人達との間で大きな戦いになったこともありまして」
「あった、あった」
と、ここでシャルナだけが話に乗れるという状況。
驕った人々に対して、エルフやドワーフの面々は自重を求め、この時の亜人との戦いに対しては人類に味方をする事はなく、戦いを早期停止するように、双方の説得に努めたそうだ。
が、それでも双方が戦いを止めることはなかったそうだ。
で、人間、亜人に多大な損害が出る無益な戦いを絶大な力で収めたのが、
「現在、アンデッドのその女性か」
「そうです。偉大なるネクロマンサー。リン・クライツレンです」
「なんと!? 彼の大賢者であるリン・クライツレンですか。その方がこの地にいらっしゃると!?」
「マナの痕跡が確かなら」
驚きの侯爵。
歴史上の大英雄だそうだ。
練兵所などの学舎において、戦史教本に必ず出て来る名前らしい。
かなりのページ数で彼女のことが紹介されているという。
ネクロマンサーは魔術師職で最上位の存在だそうだ。
ゲームなんかでもお馴染みの最上級ポジションだよな。
捏造も辞さない姿勢で、自伝を書くのに一生懸命な、なんちゃってロードウィザード様とは違い、ガチで凄い魔術師。
ネクロマンサーと聞けば、確かに大軍勢にて派兵すれば、損害も大きくなりそうだ。
俺の知るネクロマンサー同様に、この世界のネクロマンサーも死者を使役して戦わせるそうだ。
個にして衆とリズベッドの言っていた理由が分かった。
下手したら無尽蔵にアンデッドの軍勢を使役できるかもしれない存在。
戦死者が出れば、その人がアンデッドの兵に変わる事だって考えられる。
しかも最上位の魔術師でもあるのだから、一発で形勢を逆転させられる大魔法だって使用出来るだろう。
リズベッドはオブラートに包んだんだろうな。
正直、精兵とはいえ通常装備の五万の兵では太刀打ち出来ないだろう。
魔法付与の装備とかなら話は別だけど、五万が五万とも魔法付与の装備で身を固めるなんて事は、如何にこの潤沢な地であっても無理だろう。
戦いとなれば、ジリ貧になって、数の利が逆転する未来しか見えない。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる