異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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死霊魔術師

PHASE-622【降って湧く】

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「本当にどう感謝を表せば良いのか分からぬほどの大恩……」
 と、肩と声を震わせる侯爵が、ライラに続いて頭を下げてくる。
 主である王の愛娘をヴァンピレス化へとさせてしまった失態。
 それを俺たちが解決した事は、死するその時まで忘れる事はないと言ってくれる。
 長く下げていた頭を起こし、次に侯爵がとった行動は、両膝をついて俺に縋るような姿となり、感謝を述べてくるというもの。
 ここまでされると、流石に対応に困るというもの……。

「もういいですから」
 と、言って侯爵を無理矢理に立ち上がらせる。
 こういう時、肉体強化のピリア、インクリーズは便利だ。

「入り用な物があるなら言ってください。我が財貨の中からならば、至宝であろうとも提供いたします」
 これは強力なパトロンが出来たと考えるべきだろうか。

「当然の事をしたまで。閣下には派兵を承諾していただきました。我々にとってはそれこそが報奨です」

「おお美姫よ。当たり前の事を報奨と言ってくださるとは。流石は勇者御一行」
 財貨は欲しかったけども、勇者が損得で動いては、生き様としては格好悪い。
 なのでベルに同調する。
 ギルド会頭という立場としては、パトロンになって欲しいけど。
 ま、それは追々、個別で話をしよう。

「感謝いたします」
 侯爵の一連の行動が終了したのを見計らって、姫もカーテシーにて俺とパーティーメンバーに挨拶をしてくれる。
 俺達に続いて姫が体を向けるのは――、

「リン様もありがとうご――」

「姫!」
 ビシリと大気に亀裂が入るかのような、裂帛ある声を発したのはライラ。
 リンに対して頭を下げようとした姫を制する。

「トール殿と御一行に対して頭を下げて感謝をするのは分かります。ですが、なぜ姫がこの様なアンデッドに頭を下げねばなりませんか。如何に英雄殿であろうとも、姫をアンデッドへと変え、この地を支配しようとした者に荷担した者ですよ」

「ライラ。少し落ち着いてはどうか」

「しかし侯爵!」

「いいわよ別に。その眼鏡ちゃんが言ってる事は正しいのだから」
 ヒラヒラと手を振って、リンが応接室から退出しようとしたところで、

「待っていただきたい」
 言ったのはコクリコだ。
 ――――コクリコが廃城と、その下に広がるジオフロントに関しての一切合切を説明した。
 なぜに姫をヴァンピレスに変えたのか。
 小を犠牲にしてでも大の生命を守るというリンの考え。
 いつでもヴァンピレスから戻せるからこそ、ゼノの話に乗った事もしっかりと伝える。
 まさかのコクリコからの擁護発言に、俺やベル。ゲッコーさんがコクリコの人間としての成長に感動してしまった。
 
「ですが!」
 話を耳にしても、自分にとっての主君である姫に害を為した存在をそう簡単に許す事は出来ない。
 忠臣の態度としては正道だから、ライラを諫めるというは難しい。
 怒りをぶつけられても仕方がないのがリンの立ち位置だ。
 例え人々の為に行動していたとしても、やはり理性よりも感情が勝ってしまうのは仕方がない事。
 姫様激Loveな忠臣なら特にだろう。

「ライラ」
 ライラのがビシリといった擬音なら、姫のはピシリといったところ。
 前者が放射状に広がる亀裂なら、後者は綺麗に縦に入る一本の亀裂といった感じ。

「リン様はこの世界の方々のために活動しているのです。私一人くらいがアンデッドになった程度で騒ぎ立ててはなりません」
 アンデッドになるのって、些事で片付けてはいい案件ではないとは思うけどな。
 ライラもその辺は俺の考えと同じようで、得心がいかないといった表情だけども、主からの強い視線を受けて、それ以上は何も言えないのか黙ってしまった。

「それに、偉大なる大英雄であるリン様が、トール様たちのお仲間になったのです。それを大いに喜ぶべきでしょう」

「「え!?」」
 ここは俺とリンが声を合わせる。
 仲間になるって話はどこから湧いて出たんだろう。

「なんと素晴らしい。戦史に燦然たる功績が記載された大英雄が、現在の大英雄と手を組むとは! めでたい! コトネ殿たちに早速、祝賀会の準備をさせましょう! 豪勢にいきましょう!!」
 なんて言いながら、侯爵が軽快に走り出して退出。
 リズベッドや魔大陸の亜人達も招待せねばと超ご機嫌。
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