異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-702【北の連中がちょっかい出してきた】

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「エンドリューよ。どういった経緯があったにせよ卿は無事である。そして我が娘も無事である。ならばそれでよい。こうやって私の下に馳せ参じてくれたことに対し、私が頭を下げたいのだから」

「何をおっしゃいますか! 下臣として当然のこと。だからこそ罰は受けねばなりません。そうでなければ他に示しがつきません」

「ハハハハ――――」
 豪快に王様が笑う。
 急に笑う王様に真剣に述べている侯爵は目が点になり、口をあぐあぐさせること数回。
 思考が追いついたところで、

「王よ。なぜに笑うのです」

「おかしいからだ。候がまったくもって意味の分からないことを述べるのでな」

「私は真剣でございます」

「いやいやおかしいぞ。なぜに罪を犯していない臣下を罰せねばならん。それを実行する者は暗君、暗愚ではないか。それとも私がそういう者だと遠回しに伝えているのだろうか。もしそうなら受け入れなければならないな。実際に私は暗君であったのだから」

「王が暗君なものですか!」
 いやいやと首を左右に振り侯爵の発言を否定。
 自分の犯した罪は大きい。
 無辜の民を犠牲にしてきたのだから。
 だから暗君と思われても仕方がないと言えば、侯爵はそれを全力で否定し、姫を守れなかった自分の不甲斐なさを吐露するが、王様はその謝罪を受け入れようとはせず、自分の罪を述べるだけ。
 双方の謝罪で堂々巡りしている謁見の間。
 他の臣下の皆さんは、謝罪の応酬を首を忙しく左右に動かして眺める状況。

「お父様、侯爵様。もういいです」
 よい時宜とばかりにプリシュカ姫が間に入る。

「では我が娘プリシュカに聞く。候に落ち度はあったのか?」
 問えば、打てば響くとばかりの、

「いいえまったく」
 という即答。

「常に私のことを考えてくださり、ライラと共に健全に過ごせました。アンデッドになったのは人生の経験としては良い思い出です」
 二の句を継ぐ姫は笑顔でそう言う。

「ならばなんの問題もない。むしろアンデッドならば永遠の時を過ごせたのではないのか?」

「そうですね。それもよかったかもしれません」
 などと冗談を言い合う父と娘。

「だから涙を流すな。男の涙など見て喜ぶ男はいない。女の涙こそ武器よ。それは候が誰よりも理解しているだろう」

「しかり。エンドリュー殿は無類の女性好き。美女の涙のためなら死地にでも飛び込みます」
 ここでナブル将軍が参加すれば、他の貴族達も談笑しながらその言は正しいと続く。

「いい主と臣下だ」
 ゲッコーさんが感心。
 王様と臣下。皆が皆、出会った頃とは違って有能さんに超進化している。
 ナブル将軍は出会ったときから気骨ある人だったけど。一体、他の皆さんに何が起こったのやら。

「して候よ。候が動いたのだ、竜騎兵に征東騎士団にも動いてもらっていれば嬉しいのだが」

「寡兵でございますが精鋭五千にて」

「「「「おお!」」」」
 謁見の間が沸き立つ。
 以前、俺たちがホブゴブリンとぶつかった時は、万に対して三桁の兵数だったよな。
 現在の王都の兵力を確認していないけど、この喜びようから察するに、五千という数は多いということだろう。
 まだまだ王都の兵力規模は小さいというのが現実のようだ。

「さて、帰還の途上でもメンバーに出会い話を聞きましたし、現在の街道も目にしました。そしてここに来るまでに先生からも話は聞きました」
 感動もいいが、そろそろ話を本題に戻したい。
 ここで俺は継ぐ、

「北からの――つまりは公爵領からの侵攻がありそうなのですか?」

「――――うむ。まず間違いなく」
 鷹揚に頷きながら王様が肯定。
 俺たちが地龍を救い、その地龍が浄化を行う事によって大陸の瘴気が減少。
 王都北である王土ウルガル平野からも大部分の瘴気が浄化されたという。
 それを待っていたとばかりに、公爵領ネグラスカル山脈はブルホーン山より兵達が南に移動を開始。
 王土であるウルガル平野に構造物を建て始めたそうだ。
 これに対して使者を送り問えば、魔王軍に対する防衛援助のための兵糧拠点の建設と見え透いた虚偽が返ってきたという。
 
 王様に指示を仰ぐこともせずに、王土で勝手な拠点建設は度を超えた行い。
 謀反の疑いがあると見られても仕方がない行為である。
 
 物見による逐次報告によれば、確かに兵糧も運ばれているそうだが、完全武装の兵達が拠点周辺に展開されていることから、まず間違いなく侵攻の準備だということだった。
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