異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-704【王と魔王】

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 ライラの怒気が何に対してのものなのか理解している王侯貴族の面々は、何とも申し訳なさそうだった。
 侵攻は止まっているけど、南からは魔王軍の驚異。
 北からは正に戦火の足音が聞こえてくる状況。

「これならばドヌクトスに残っていた方が……」

「ライラ」
 彼女を静かに出来るのは姫だけ。

「どのみち、根源を絶たねば真に平和と呼べる場はないよ」
 と、侯爵。
 体を乗っ取られ、姫はアンデッドにもなっていた。
 そんな事が二度と起こらないようするには、立ち向かい勝利するしかないとも説く。
 ――――勝利。
 侯爵が述べた二文字に皆が大きく頷く。
 その後、なぜか衆目が俺に集まる。
 皆の視線に後退りしそうになってしまう俺。
 俺なんかに何を求めているのだろう? 場を仕切るような統率力も弁舌も有していないというのに……。

「あ~、我々は一致団結して、全ての驚異に当たっていくだけです」
 て、当たり障りのない発言しか出来ない。

「当たり障りのない言い様は、如何にもトールですね」
 分かってはいたけども、やはりここでヤジを飛ばしてくるのは背後に立つコクリコ。
 緊張で口を開けなくなっていた昔と違い、今となってはお偉方がいてもお構いなしだ。

「団結は大事だろうが。だからこそ、ここに来てもらっているわけだしな」
 と、言い返すのが関の山。
 俺へと向けられている視線もそらせたいから、コクリコと一緒の列に立つ一人に、俺は視線を向ける。

「申し訳ない。初めてお目にかかる方々もいらっしゃるというのに、内輪だけで話を進めてしまい」

「お気になさらず。まずは知った者通しでお話しした方が、話も円滑に進むものです」
 白いワンピース姿のリズベッドは、王様の謝罪に対して微笑む。
 庇護欲をかりたてる笑みの側には、二メートルはありそうな身長のヴィルコラクのガルム氏。
 忍び装束のような出で立ちのゴブリンのアルスン翁。
 今回は王の御前ということもあり、忍び装束に合わせた竹田頭巾のようなかぶり物はしておらず素顔だ。

「トールよ。紹介を頼みたい」

「私からもお願いいたします」
 王様と魔王の間に立つ勇者という図。

「王様、こちら魔王であるリズベッド――リズベッド……」
 ううんと……、何だったっけ? フルネームが横文字勢は長くて覚えにくいんだよな。
 お偉いさんの名前をちゃんと覚えられてないのはいただけないな。
 申し訳ないリズベッド。
 猛反してしっかりと覚えます。

「リズベッド・フロイス・アンダルク・ネグレティアンと申します」
 気にしてないとばかりに俺に笑顔を向けつつ、片足を斜め後ろに移動させ、もう片方は膝を軽く曲げてから、スカートの裾を摘まんでのカーテシーによる挨拶。

「「「「魔王」」」」
 自己紹介に対する臣下の皆さんのリアクションは、落ち着きのある声。
 だが表情は警戒。
 玉座側にて直立不動の近衛四名。
 彼らが手にする槍の穂先がピクリと動くも、穂先は天井を向いたまま。
 過剰な動きは見せない。

 対するリズベッドの側にいる二人も不動のまま。
 何があっても動かないように。と、リズベッドからの命令一下でもあったのだろうが、本当に危機が訪れればそれを無視して動く方々。
 ここで動かないのは、近衛同様に動く必要がないと判断したんだろう。
 
 なので俺も援護射撃――というより、誤解を生んだので訂正。

「すみません。語弊がありました。魔王の頭には前がつきます。前魔王のリズベッド――さんです」
 結局、今回はフルネームが言えない残念な頭が恨めしい。
 
 ――――フルネームは言えなかったけども、俺がしっかりとリズベッドとの経緯を説明。
 臣下の方々は当初は警戒もあったけど、王様も含めて皆さん、俺たちが魔大陸に行って地龍と魔王を救い出すというプランを先生から聞かされていたようで、順応は早かった。
 
 むしろ本当に少数で敵の本拠地と言ってもいい魔大陸まで移動し、地龍と前魔王を救い出したことを大業だと絶賛される。
 それにリズベッドが魔大陸と呼ばれるレティアラ大陸を四大聖龍リゾーマタドラゴンから任されていた存在だと知れば、それだけで王侯貴族の信頼を得ることが出来た。

「本当はまだ紹介したい人物もいたんですがね」
 あいつは何処に行ったのやら。
 この謁見の間には俺のパーティーとプリシュカとライラ。リズベッドと御付きの二人。
 新しくパーティーに加入したリンの姿はなかった。
 俺たちに訳も話さずの単独行動。
 まあ、単独行動されるのは慣れてるけどさ。
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