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北伐

PHASE-714【ギルドの馬小屋は宿屋並】

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「俺としては砦を間借りしている程度だったから、罪は無いと思うけど、無断で占拠って形になった場合は?」
 真っ先に目の合った伯爵に問えば、

「死罪が妥当」
 放置されていたとはいえ、国の防衛拠点を占拠したことは侵略に等しい。
 敵として判断するのが当然。
 これが名を轟かせるような英雄ならばまた話も違ってくるそうだが、そうでもないただのごろつき集団による占拠となれば、死罪で終わらせるのが手っ取り早いというドライな対応だ。

「俺が擁護するとなれば?」

「勇者殿に意見など出来ません」
 いや、出来るんですけどね。だって貴男は大貴族様なんだから。
 この場合、俺が擁護するとなれば、罪も不問とするって事なんだろう。
 この場での決定権を有する王様ですら鷹揚に頷くだけだし。

「どうする? 仲間たちを説き伏せて俺のとこで働くか?」

「安定できる場所となれば、仲間たちも喜んで働くだろうさ」

「よし! じゃあ決まりだな。新人冒険者たちだって最初は馬小屋スタートだからな。衣食住の住は馬小屋スタートだぞ」

「冷たい石材の上に比べれば天国だ。それに奴隷の時から慣れている」
 奴隷時の馬小屋と一緒にはしないでくれよ。
 内の馬小屋はすきま風なんて通さないしっかりとした建築だからな。
 藁にシーツを敷いた寝床だって用意するし、馬小屋周囲には新米さん達の為に、ちゃんと炊事場と体を洗う場所だってあるんだからな。

「だから、とりあえずラルゴ達が最初にやることは……体を洗う事だな……」

「距離をとるほどに臭うか?」

「内の最強さんが近づかないくらいにな」
 さっきからベルが大人しく、しかも距離を取っている理由は、ラルゴから漂うすえた臭いが原因なんだろうな。

「よき判断で」

「人足が一気に百も増えるのはいい事でしょう」

「ええ」

「雑用、兵士たちの助力とさっきは言いましたけど、何処に配属させるかは先生にお任せします」

「承知いたしました」
 でもこれからここいらも大変なんだろうな。

「牢屋に入ってた方が幸せだったと思うかもな」

「いや、今までが地獄だった。まともな生活が出来るというなら、今後の艱難は乗り切ってみせる」
 力強いことだね。
 胆力があるという事で先生もラルゴのことを気に入った様子。
 それに、これで砦群からのルートもスムーズになったから、イリー指揮する五千の兵も憂いなく移動出来るというもの。
 S級さん達の活躍で、予定より早く王都へと到着できるだろう。
 これで北の連中に集中できる――――。

「まずは、この地へと集った有志たちに感謝をしたい。解散後はゆっくりと休んでくれ」
 外様である貴族、豪族の面々に王様がお礼を述べる。
 本来なら臣下である貴族、豪族が王様へと足を運んで片膝を折るのだろうけど、王様が自ら足を進めて手を握り、礼を述べていく。
 あんな事をされれば、領地が狭く力のない方々は特に喜ぶってもんだ。
 中でも訛りのある兵士たちを率いた、この中で最も位が低いであろう豪族の人なんて有頂天だった。
 後ろにひかえていた兵士たちも、自分たちの主に対して、王様が頭を下げて礼を言っている姿に驚き、内の領主様は凄い人だったんだな~。と、自分たちの主を称えており、それを背中で聞く豪族さんは最高の気分だったようで、顔はほころんでいた。
 王様のこのやり方こそ、本物の人たらしって言うんじゃないのかな。

「ちょっといいかしら?」

「何やってたんだよ」
 人の多いところ――というか、人そのものが嫌いなんだろうから仕方ないんだろうけど。
 ようやくリンが合流。
 飛行魔法であるレビテーションにて音も無く俺たちの直上から舞い降りる。
 ゲッコーさんで鍛えられているから、俺はその程度の登場では驚かないので普通に返す。
 
 長く艶やかな黒髪美人の急な登場に、初見の方々から漏れる声がしっかりと耳朶に届いた。
 驚きの声ではなく、美しさが勝ったようで、漏れた声は吐息に近いものだった。

「で、もう一回聞くけど何してたんだ?」

「ちょっと懐かしくて王都を見て回ってたのよ」

「なんだよ。来たことあるのか」

「まあね」
 いつの時代なんだろうな。
 以前リズベッドが今の王から六代ほど前に活躍――って言っていたような記憶があるけど。
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