異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-728【マッチポンプ剣舞はもう嫌……】

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「ゲッコーさん」
 半眼になっていたであろう俺の視線を受けたゲッコーさんは、案内された木造平屋建ての広間にて煙草を楽しむ。
 今回は煙草を煙たがるパーティーの女性陣がいないことをいいことに、断りもせずに紫煙を楽しんでいた。
 分煙マナーを守らないダメなおっさんが俺の前にいるわけだ。
 楽しんでいる中で、俺が何を聞きたいのかを理解はしているようで、

「まあ、あれだ。下見だよ」

「何の下見です」

「奇跡だ」
 また訳の分からん。

「奇跡と言えば一つしかないだろう。勇者の――」
 ――…………それで分かったよ……。
 S級さん達は現在テレビ業界で言うところの特殊効果こと特効の準備をしてんだな……。

「あの時よりは刀も振れるようになっているからな。美しい剣舞でも見せてくれ」
 うわ~……。凄く嫌だ……。
 今回は大勢の前でへっぽこダンスをしないといけないのかな……。
 選択授業でダンスを回避する目立たないポジション勢の俺の踊りを大勢が見るとか罰ゲームでしかない。
 演じ手も見る側もどっちも罰ゲームだよ……。
 
 なので――、

「是非とも平和的な解決で話が進めばいいですね」
 頼りになるのは侯爵と伯爵のマグナートクラス。
 中でも冷静な侯爵の方に期待したい。
 伯爵は戦いたくてたまらないようだしな。

「相手の出方しだいでしょう。まあ、平和的な解決が一番ですけどね」
 鞘からオリハルコンのロングソードを抜いて、剣身を眺めながら言われても何の説得力もないですよ侯爵。
 やっはりこの人も伯爵と一緒で好戦派か……。
 適材適所の神である先生が人選した名代なだけあって、全ては先生の思い描いた方向へと進んでいくようだな……。

「さて今晩はここで休みますが、どうなんでしょうな。夜襲などを考えるべきでしょうか?」

「その様な事は決してありません!」
 冗談口調の伯爵の発言に、同室する使者は焦りながら返答した。
 現在この部屋で公爵サイドの人間はこの使者――ロイドルしかいない。
 征北騎士団のミランドはあまり関わり合いたくないのか、翌日の案内役を担当する事と、後で身の回りの世話をする者達がここに来るとだけ伝えれば、足早に去っていった。
 
 ミランドの退出する後ろ姿をロイドルは何とも言えない表情で見送っていた。
 心細さと、俺を一人にしやがって! という怒りが入り交じっていたんだろうな。
 一人でここにいる面子の相手をするのは大変だろうね。
 早いところ世話係が来ないと、胃がエメンタールチーズみたいにボコボコになってしまうことだろう。

「この平屋から出ることは許されないのかな?」
 優しい口調の侯爵からの質問を受けたロイドルは、ビクリと肩を震わせる。
 口調は優しくても、手にした真鍮色の剣身は未だ抜き身の状態。
 ロイドルには剣身の輝きが邪悪なものに見えたことだろう。
 だからかこそ恐怖は最高潮だっようで、

「移動きゃのうな区画は限られるでしょうが、この辺り一帯ならば、もも問題ないきゃと、と」
 口が上手く回らないようだ。
 区画が制限されるのは当たり前。軍事施設だからな。
 いくらお偉いさんが頼み込んだとしても、馬鹿息子の許可がない限り、立ち入ってはいけない場所もあるわけだ。
 
 残念なことに、今ごろそんな所もしっかりと見て回っている三人がいるんだけどね。

「一帯を見て回ったところで得るものは無いだろうからな。ゆっくりさせてもらうか」
 吸い殻を携帯灰皿に入れながら白々しくゲッコーさんがそう言えば、ミュラーさんが肯定の首肯。
 
 得るものが無いどころか、絶賛、破壊準備用のプレゼントを設置しているんでしょうけどね……。
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