749 / 1,861
北伐
PHASE-749【勿体ない】
しおりを挟む
「放てぃ!」
声と素振りだけは一丁前だな。
取り巻きの傭兵たちが手にする弓とクロスボウ。それにファイヤーボールなんかによる魔法。
あれもマジックカーブってやつか。
「何という……」
馬鹿息子の愚行に嘆くミランドの声が聞こえる時には、矢は俺たちの所まで来ているわけだ。
「ま、意味ないけど。イグニース」
大の字を体全体で表現するようにして半球状の炎の壁を展開。
久しぶりに使用するね。
イルマイユの時は火龍装備じゃなかったし、それ以降は戦闘がなかったからな。
自分で気付いたのは地力が向上しているのか、半球の炎の壁が一回り大きくなった感じに思える。
元々の面子に、征北の面子も含めて全員を包むには十分の広さ。
飛翔してくる攻撃を全て防いでやった。
矢はともかくとして、ファイヤーボールが着弾しても衝撃は生まれない。
使用は出来るが、コクリコのものと比べれば威力は低い。
この程度ならそこいらのモンスターにダメージを与えるのも難しいだろう。牽制やヘイトを集めるのが関の山だ。
結局のところ使用者が努力しないと威力は向上しないようだな。
入れ墨のよる魔法術式は便利ではあけども、親からもらった体に入れたくはない。
入れたら間違いなく母ちゃんに殺されるからな……。
「おのれ! 第二射、続け――よ……」
馬鹿息子の息巻いた声をかき消す一発の乾いた音。
ミュラーさんの構えるタボールのマズルより白煙がうっすらと上がる。
一発の銃声が響けば、一人の命が奪われる。
「……!? ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
情けない声と共にここでも腰砕け。
またも漏らしてないだろうな。
にしても、
「いや、命を奪う意味は」
さっきは馬鹿息子一人をとは思ったけど、実際に人間の命が奪われる所を目の当たりにすると、背筋に冷たいものが走る。
「うん。ここで驚異と判断してもらうほうが犠牲も少ないからね。それに傭兵は戦死者にカウントされない」
いや……、俺たちの世界のルールをぶち込まれても。
ミュラーさんが淡々と返す発言に苦い顔になっているだろうけど、実際にこれで第二射はやんだ。
これ以上に続くならこっちも相応の反撃をする事になる。
ミュラーさんだけでなく三人のS級さん達も既に狙いを定めている状況。
これに傭兵たちが完全に呑まれてしまった。
見たこともない攻撃となればやはり恐怖が優先されるようだ。
ミュラーさんの言うようにここで攻撃が止まれば、一人の犠牲ですむのも正解ではあるんだろうな。
頭を打ち抜かれた傭兵に両手を合わせておく。
傭兵を撃った理由には、相手の動きの抑止と馬鹿息子を怖がらせる以外にも、この要塞にいる傭兵と正規兵達との確執が本当にあるのかの確認をするためでもあったそうだ。
――――傭兵の死に対して、正規兵たちは動かなかった。
俺たちに怨嗟に染まった視線を向けるという事もない。
不思議な武器に驚きはしているが、傭兵の死には思い入れはないようだ。
この要塞を攻めるとなれば、正規兵と傭兵の連係はほぼ無いと考えていいとミュラーさん。
流石はゲッコーさんと同等のステータスを有するS級さんの一人である。
頭の切れも素晴らしい。
けども。
「穏便がよかった」
「と、言える段階ではないね。それは優しいのではなく甘いだけだね」
俺では反論できない切り返し。
ミュラーさんの発言にただ頷くだけだ。
「では王都へと帰って戦支度ですな!」
これ以上は何もしてこないと判断したようで、ズカズカと名代である伯爵が肩で風を切って先頭を歩き出す。
苦々しさをこちらに向けつつも道を作っていく傭兵たち。
攻撃を防がれ、得体の知れない攻撃に警戒し手詰まり状態。
一発の音と共に命を奪う不思議な武器は恐怖を植え付けるには十分だった。
何より腰を抜かしたまま立てない馬鹿息子が指示を出せないでいるから、こちらはただこの要塞より悠々と立ち去っていくだけだ。
「さあ馬です。糧秣廠まで送らせていただきます」
征北騎士団五人が馬車と俺たちの馬を用意してくれれば、直ぐさま馬上の人となって要塞を後にした。
――――麓へと到着。
要塞から先行してくれた征北の一人からの連絡を受けた麓の騎士団が横隊で待機。
分厚い十重二十重にて俺たちを待っている。
手に武器は持っていないことから迎え撃つのではなく、ただ待ってくれているという表現が正しいだろう。
指呼の距離まで接近すれば、中央が開かれる。
通り道の完成。
行きと違って槍旗でってのはない。
会談も上手くいかず、死者を出しているのだからね。そんな中で俺たちに礼儀に則った見送りをする訳がない。
ただ、俺たちの行為は麓の騎士団の溜飲を下げたことは確かなようで、笑みは湛えてはいないけど柔らかな表情。
敵対者に向けるような険悪さは皆無だった。
あの馬鹿息子には似つかわしくない騎士団だ。
あいつの下ってのが可哀想であり、勿体ない。
声と素振りだけは一丁前だな。
取り巻きの傭兵たちが手にする弓とクロスボウ。それにファイヤーボールなんかによる魔法。
あれもマジックカーブってやつか。
「何という……」
馬鹿息子の愚行に嘆くミランドの声が聞こえる時には、矢は俺たちの所まで来ているわけだ。
「ま、意味ないけど。イグニース」
大の字を体全体で表現するようにして半球状の炎の壁を展開。
久しぶりに使用するね。
イルマイユの時は火龍装備じゃなかったし、それ以降は戦闘がなかったからな。
自分で気付いたのは地力が向上しているのか、半球の炎の壁が一回り大きくなった感じに思える。
元々の面子に、征北の面子も含めて全員を包むには十分の広さ。
飛翔してくる攻撃を全て防いでやった。
矢はともかくとして、ファイヤーボールが着弾しても衝撃は生まれない。
使用は出来るが、コクリコのものと比べれば威力は低い。
この程度ならそこいらのモンスターにダメージを与えるのも難しいだろう。牽制やヘイトを集めるのが関の山だ。
結局のところ使用者が努力しないと威力は向上しないようだな。
入れ墨のよる魔法術式は便利ではあけども、親からもらった体に入れたくはない。
入れたら間違いなく母ちゃんに殺されるからな……。
「おのれ! 第二射、続け――よ……」
馬鹿息子の息巻いた声をかき消す一発の乾いた音。
ミュラーさんの構えるタボールのマズルより白煙がうっすらと上がる。
一発の銃声が響けば、一人の命が奪われる。
「……!? ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
情けない声と共にここでも腰砕け。
またも漏らしてないだろうな。
にしても、
「いや、命を奪う意味は」
さっきは馬鹿息子一人をとは思ったけど、実際に人間の命が奪われる所を目の当たりにすると、背筋に冷たいものが走る。
「うん。ここで驚異と判断してもらうほうが犠牲も少ないからね。それに傭兵は戦死者にカウントされない」
いや……、俺たちの世界のルールをぶち込まれても。
ミュラーさんが淡々と返す発言に苦い顔になっているだろうけど、実際にこれで第二射はやんだ。
これ以上に続くならこっちも相応の反撃をする事になる。
ミュラーさんだけでなく三人のS級さん達も既に狙いを定めている状況。
これに傭兵たちが完全に呑まれてしまった。
見たこともない攻撃となればやはり恐怖が優先されるようだ。
ミュラーさんの言うようにここで攻撃が止まれば、一人の犠牲ですむのも正解ではあるんだろうな。
頭を打ち抜かれた傭兵に両手を合わせておく。
傭兵を撃った理由には、相手の動きの抑止と馬鹿息子を怖がらせる以外にも、この要塞にいる傭兵と正規兵達との確執が本当にあるのかの確認をするためでもあったそうだ。
――――傭兵の死に対して、正規兵たちは動かなかった。
俺たちに怨嗟に染まった視線を向けるという事もない。
不思議な武器に驚きはしているが、傭兵の死には思い入れはないようだ。
この要塞を攻めるとなれば、正規兵と傭兵の連係はほぼ無いと考えていいとミュラーさん。
流石はゲッコーさんと同等のステータスを有するS級さんの一人である。
頭の切れも素晴らしい。
けども。
「穏便がよかった」
「と、言える段階ではないね。それは優しいのではなく甘いだけだね」
俺では反論できない切り返し。
ミュラーさんの発言にただ頷くだけだ。
「では王都へと帰って戦支度ですな!」
これ以上は何もしてこないと判断したようで、ズカズカと名代である伯爵が肩で風を切って先頭を歩き出す。
苦々しさをこちらに向けつつも道を作っていく傭兵たち。
攻撃を防がれ、得体の知れない攻撃に警戒し手詰まり状態。
一発の音と共に命を奪う不思議な武器は恐怖を植え付けるには十分だった。
何より腰を抜かしたまま立てない馬鹿息子が指示を出せないでいるから、こちらはただこの要塞より悠々と立ち去っていくだけだ。
「さあ馬です。糧秣廠まで送らせていただきます」
征北騎士団五人が馬車と俺たちの馬を用意してくれれば、直ぐさま馬上の人となって要塞を後にした。
――――麓へと到着。
要塞から先行してくれた征北の一人からの連絡を受けた麓の騎士団が横隊で待機。
分厚い十重二十重にて俺たちを待っている。
手に武器は持っていないことから迎え撃つのではなく、ただ待ってくれているという表現が正しいだろう。
指呼の距離まで接近すれば、中央が開かれる。
通り道の完成。
行きと違って槍旗でってのはない。
会談も上手くいかず、死者を出しているのだからね。そんな中で俺たちに礼儀に則った見送りをする訳がない。
ただ、俺たちの行為は麓の騎士団の溜飲を下げたことは確かなようで、笑みは湛えてはいないけど柔らかな表情。
敵対者に向けるような険悪さは皆無だった。
あの馬鹿息子には似つかわしくない騎士団だ。
あいつの下ってのが可哀想であり、勿体ない。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる