766 / 1,861
北伐
PHASE-766【似てるようで似てない】
しおりを挟む
――マイヤの偵察では、糧秣廠にも兵員の増強が施されたそうだが、傭兵たちは動いておらず、馬鹿息子と一緒に要塞に待機していると推測。
大軍を有して敵を簡単に倒せるからと高を括っているようだ。
やはり馬鹿だな。
砦には正規兵ばかりが動員されているそうで、傭兵たち同様に、麓の征北騎士団はまだ動いている様子はないようだ。
また大軍ゆえに行軍速度は遅いようで、俺たちが通常よりも一日遅れでウルガル平野に到着したが、そのちょっと前に相手も砦に兵を移動させたそうだ。
「本来なら戦巧者の者達を前面に出して戦うのですが、大言は吐いても小心者ということでしょう」
と、先生。
側には命令を容易く聞き入れる傭兵を侍らせるけども、一応は自分の足元――つまりは要塞のある山の麓には精兵を配置しておきたいということだろう。
本当ならば、征北騎士団なんかのように練度の高い者達に指揮をさせれば、砦への派兵ももっとスムーズになってただろうに。
団長補佐であるミランドと四人の騎士団の処刑による士気低下も、移動を鈍化させている原因の一つだろう。
「やっぱり馬鹿ですよね」
「その通りですね。主」
先生と二人して頷きあう。
馬鹿息子は攻め手の如く振る舞っていたのに、こっちから攻めるような格好になっているからね。
愚連隊程度の傭兵を重用した結果が浮き彫りになったな。
「士気も低いみたいだし、正面からぶつかって渓谷を抜けてやってもよいな」
「お待ちを。王よここは手はず通りに」
「であるな。荀彧殿の案通り、二手に分かれる」
――――分かっていたけど、瘴気に耐性がない方々は渓谷方向から。
俺のようにこの世界の住人ではない面子と、瘴気の影響を受けない面子で瘴気方面から進行。
ここで百人を超えるメイドさん達の半分は俺たちに随伴。
魔族だから瘴気の影響を受けないというのが強味だ。
もちろん戦意高揚と回復のために、砦側にも出向いてもらう。
男なんてもんは、美人が頑張ってと言いながら回復魔法をかけてくれるだけで、頑張れる単純な生き物だからね。
とくにサキュバスさん達は全員が美人だし色気もあるから、男達は地力以上の力を発揮するだろう。
色香に当てられすぎて、辛抱たまらないって事になっても、サキュバスさん達は一般の兵達よりはるかに強いから、力で無理矢理に組み伏せられるって心配をしなくていいのも有りがたい。
「では主。我々はこちらから。陥陣営殿、本気を出しつつも適度に攻めてください」
「理解した」
高順氏のユニークスキルである【陥陣営】で征東騎士団を突撃させれば、あっという間に向こうの砦を落とせるからね。
タイミングを合わせるためにも、高順氏には一気にやって欲しくないといったところだろう。
「リン殿も」
「分かってるわよ」
リンも渓谷サイドの攻め手に回る。
こりゃ砦攻めは余裕そうだな。
王侯貴族がいるから砦サイドの戦力は万全を期さないといけないしな。
――――王様達と別れて俺たちは瘴気サイド。
面子は多くない。
S級さん達にメイドさん達を入れて百を超えるくらい。
「でもよくよく考えるとおかしいですよね。公爵の砦って」
「陸の孤島ですからね」
と、先生は直ぐに理解してくれる。
象ほどあるヒッポグリフとスピットワイバーンは今は飛行せず、ダイフクと轡を並べての歩行。
ライム渓谷は王土であるウルガル平野にあるというのに、なぜか砦だけは公爵の勢力下にある。
本来はアルサティア川を境に王土と公爵領に別れているはずなんだけど。
理由は魔王軍が本格的な進行を始める前に遡るという。
その時代、馬鹿息子の父親である公爵と、病に伏した父親から王の座を引き継いだ若い時の王様との間に生まれた軋轢が、端を発しているとの事だった。
公爵としては、やはり王弟である自分こそが次の王という考えもあったようだけど、その考え通りにはならず、兄である前王は息子に王の位を譲る。
子に継承は当たり前なんだけども、公爵にも王になれるという自負があったようだ。
でも若くして賢君と呼ばれた王様に、正面から直接ぶつかるというのは避けていたそうだ。
それでも来たるべき時に備えて、前王が病で亡くなったと同時に、ライム渓谷に砦を無断で築いたそうだ。
この事はかなりの大問題になったそうだけども、いかんせん人間が大陸で有する領土の二割を持つ存在が実行したという事もあり、しかもそれが前王弟ということもあって、王様を始め諸侯も強く言えなかったというのが信実であるそうだ。
もちろん抗議はしたし、取り壊しの王命も出したけども、のらりくらりと躱されて今に至るという。
「実効支配に似てますね」
「言い続ければ嘘も本当になると言うことでしょうね。まあ王も、解決のための実力行使を考えていたそうですが、その前に魔王軍が本格的な進行を始めたとの事で、この問題は棚上げの状態だったそうですが、今回でそれも解決するでしょう」
「こちらが勝てば全てに方が付きますからね。にしても、昔は公爵もしっかりと野心を持っていたってことですね」
やはり馬鹿息子の親って事か。
したたかさと剛胆さは、息子には遺伝していないみたいだけどな。
大軍を有して敵を簡単に倒せるからと高を括っているようだ。
やはり馬鹿だな。
砦には正規兵ばかりが動員されているそうで、傭兵たち同様に、麓の征北騎士団はまだ動いている様子はないようだ。
また大軍ゆえに行軍速度は遅いようで、俺たちが通常よりも一日遅れでウルガル平野に到着したが、そのちょっと前に相手も砦に兵を移動させたそうだ。
「本来なら戦巧者の者達を前面に出して戦うのですが、大言は吐いても小心者ということでしょう」
と、先生。
側には命令を容易く聞き入れる傭兵を侍らせるけども、一応は自分の足元――つまりは要塞のある山の麓には精兵を配置しておきたいということだろう。
本当ならば、征北騎士団なんかのように練度の高い者達に指揮をさせれば、砦への派兵ももっとスムーズになってただろうに。
団長補佐であるミランドと四人の騎士団の処刑による士気低下も、移動を鈍化させている原因の一つだろう。
「やっぱり馬鹿ですよね」
「その通りですね。主」
先生と二人して頷きあう。
馬鹿息子は攻め手の如く振る舞っていたのに、こっちから攻めるような格好になっているからね。
愚連隊程度の傭兵を重用した結果が浮き彫りになったな。
「士気も低いみたいだし、正面からぶつかって渓谷を抜けてやってもよいな」
「お待ちを。王よここは手はず通りに」
「であるな。荀彧殿の案通り、二手に分かれる」
――――分かっていたけど、瘴気に耐性がない方々は渓谷方向から。
俺のようにこの世界の住人ではない面子と、瘴気の影響を受けない面子で瘴気方面から進行。
ここで百人を超えるメイドさん達の半分は俺たちに随伴。
魔族だから瘴気の影響を受けないというのが強味だ。
もちろん戦意高揚と回復のために、砦側にも出向いてもらう。
男なんてもんは、美人が頑張ってと言いながら回復魔法をかけてくれるだけで、頑張れる単純な生き物だからね。
とくにサキュバスさん達は全員が美人だし色気もあるから、男達は地力以上の力を発揮するだろう。
色香に当てられすぎて、辛抱たまらないって事になっても、サキュバスさん達は一般の兵達よりはるかに強いから、力で無理矢理に組み伏せられるって心配をしなくていいのも有りがたい。
「では主。我々はこちらから。陥陣営殿、本気を出しつつも適度に攻めてください」
「理解した」
高順氏のユニークスキルである【陥陣営】で征東騎士団を突撃させれば、あっという間に向こうの砦を落とせるからね。
タイミングを合わせるためにも、高順氏には一気にやって欲しくないといったところだろう。
「リン殿も」
「分かってるわよ」
リンも渓谷サイドの攻め手に回る。
こりゃ砦攻めは余裕そうだな。
王侯貴族がいるから砦サイドの戦力は万全を期さないといけないしな。
――――王様達と別れて俺たちは瘴気サイド。
面子は多くない。
S級さん達にメイドさん達を入れて百を超えるくらい。
「でもよくよく考えるとおかしいですよね。公爵の砦って」
「陸の孤島ですからね」
と、先生は直ぐに理解してくれる。
象ほどあるヒッポグリフとスピットワイバーンは今は飛行せず、ダイフクと轡を並べての歩行。
ライム渓谷は王土であるウルガル平野にあるというのに、なぜか砦だけは公爵の勢力下にある。
本来はアルサティア川を境に王土と公爵領に別れているはずなんだけど。
理由は魔王軍が本格的な進行を始める前に遡るという。
その時代、馬鹿息子の父親である公爵と、病に伏した父親から王の座を引き継いだ若い時の王様との間に生まれた軋轢が、端を発しているとの事だった。
公爵としては、やはり王弟である自分こそが次の王という考えもあったようだけど、その考え通りにはならず、兄である前王は息子に王の位を譲る。
子に継承は当たり前なんだけども、公爵にも王になれるという自負があったようだ。
でも若くして賢君と呼ばれた王様に、正面から直接ぶつかるというのは避けていたそうだ。
それでも来たるべき時に備えて、前王が病で亡くなったと同時に、ライム渓谷に砦を無断で築いたそうだ。
この事はかなりの大問題になったそうだけども、いかんせん人間が大陸で有する領土の二割を持つ存在が実行したという事もあり、しかもそれが前王弟ということもあって、王様を始め諸侯も強く言えなかったというのが信実であるそうだ。
もちろん抗議はしたし、取り壊しの王命も出したけども、のらりくらりと躱されて今に至るという。
「実効支配に似てますね」
「言い続ければ嘘も本当になると言うことでしょうね。まあ王も、解決のための実力行使を考えていたそうですが、その前に魔王軍が本格的な進行を始めたとの事で、この問題は棚上げの状態だったそうですが、今回でそれも解決するでしょう」
「こちらが勝てば全てに方が付きますからね。にしても、昔は公爵もしっかりと野心を持っていたってことですね」
やはり馬鹿息子の親って事か。
したたかさと剛胆さは、息子には遺伝していないみたいだけどな。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる