768 / 1,861
北伐
PHASE-768【掴んでます】
しおりを挟む
「では我々も行きましょうか」
「うっす」
不敵な笑みを見せる先生は、ヒッポグリフに跨がったまま前へと動き出す。
スピットワイバーンもそれに追従する。
瘴気の中を悠々と、しかも大型の幻獣と竜を従えて進んでくる存在を目にすれば、相対する陣営の者達の心胆はどれほど冷え切っていることだろう。
「と、止まられよ!」
と制止を促してくるが――、
「嫌だと言ったら――どうされます?」
と、悪い笑みで返している。
「こちらは攻撃を行う!」
「まあ戦ですからね。こちらが宣戦を布告したことは承知しておいででしょう。ならばこちらは完全なる敵方となります。なので制止など促さす、攻撃してきてもよろしいのですよ」
挑発気味に先生が言うも、相手は怖じけている。
要塞内でのいざこざを耳にしているだろうし、傭兵たちとの折り合いを考えれば、むしろ俺たちに好感すら持っている面子もいるかもしれない。
とはいえそこは兵士。
「最後である。立ち去らなければ、その幻獣ごと射殺すことになる」
「ですから先ほどから言っているでしょうに」
「ええい!」
流石に余裕の笑みを湛えて挑発され続ければ、相手も怖じ気から苛立ちに変わるというもの。
「射かけよ! それがお望みだ!」
糧秣廠の前で展開している陣の中で、全身を金属鎧で装備した指揮官クラスがそう発せば、即座に矢が射かけられる。
やはり槍衾後方には弓兵が展開されていたようだ。
陣形の後方からザッと矢が空へと打ち上がる。
一定まで空へと向かっていき、重力と自重による落下を始める。
曲射による攻撃。
「防ぎなさい」
先生の声に合わせてヒッポグリフが地上で翼を大きく羽ばたかせる。
勢いよく落下してくる矢は、羽ばたきの突風によって勢いを殺され、ハラハラと木の葉のように地面へと落ちる。
「人馬一体ならぬ人幻一体ってところか。――語呂は悪いな」
王都防衛戦では驚異として相対し、こちらの矢による攻撃は、羽ばたきと厚い羽毛によってノーダメージだったな。
ゲッコーさんがスティンガーを使用したから対処が簡単だったけど、普通に戦うとなると苦戦する存在だよな。
味方となれば幻獣は頼りになる。
「無駄ですよ。無血をお勧めします。貴方方だって本当は戦いたくないでしょうに」
「だ、黙れ! 我らには大義があるとカリオネル様が言っておられた」
「それを信じてもいないのに口にするのは――空虚感に襲われませんか?」
「本当に黙れ! 次! 射線開け」
今度は魔術師たちも参加。
盾の壁の一カ所に穴が空くように陣が開けば、後方の射手が姿を見せる。
水平射と曲射に加えて魔法が先生へと一斉に飛来。
「イグニース」
「ありがとうございます主」
造作もない攻撃。
でも魔術師のファイヤーボールはよかった。
傭兵たちが使用したマジックカーブによる魔法よりしっかりとした威力――衝撃が伝わってきた。
「さてさて、正にその行動は、勇者に弓を引く行為ですね」
更に悪そうな笑みを浮かべる先生。
神に等しき四大聖龍の二龍を救い出した勇者に対する無礼。
間違いなく二龍による神罰を受けることになるでしょう。
天に食指を向ける先生の動きは大仰。動きとは正反対の冷たい語調に、相手側に動揺が走る。
三射目のために番えていた矢。でも弦を引くまでには移行しない。
中世レベルの時代だ。信心深い者達も多いだろう。とくにこの世界には魔法なんかのファンタジーな力もあるから、神罰ってのが本当にあってもおかしくないからな。
それに有事でない時は、田畑を耕す農民による編制の公爵軍。
田畑を耕すのが仕事なので、大抵は学舎に通った経験のない方々。
見聞が狭くなる分、狭い範囲で傾倒しやすい。
つまりは信心深くなりやすい――と、先生。
そこを攻めれば瓦解しやすいし、それをしやすくする為に、
「メイドの方々。笑顔で手を振ってあげてください」
先生がコトネさんへと伝えれば、コトネさんがメイドさん全体に指示を出し笑みを湛えて手を振る。
全員が美女――美少年もいるけども、五十余名の麗しき面々が、瘴気の中で淑女のように胸元で手を振れば、それだけで相手は見とれる。
弦を引くどころか、鏃はそろって地面に向けられる程に。
これに加えて、兵としては後で叱られる行動だろうが、「ランシェルさ~ん」ってのが壁上の方々から聞こえてきた。
増援された兵達からしたら何のことか分からないだろうが、元々、糧秣廠にいた面々は、ランシェルとマイヤによって胃袋と心をしっかりと掴まれてしまったからな。
ま、ランシェルは、インキュバスで立派な男ですけどね。
「うっす」
不敵な笑みを見せる先生は、ヒッポグリフに跨がったまま前へと動き出す。
スピットワイバーンもそれに追従する。
瘴気の中を悠々と、しかも大型の幻獣と竜を従えて進んでくる存在を目にすれば、相対する陣営の者達の心胆はどれほど冷え切っていることだろう。
「と、止まられよ!」
と制止を促してくるが――、
「嫌だと言ったら――どうされます?」
と、悪い笑みで返している。
「こちらは攻撃を行う!」
「まあ戦ですからね。こちらが宣戦を布告したことは承知しておいででしょう。ならばこちらは完全なる敵方となります。なので制止など促さす、攻撃してきてもよろしいのですよ」
挑発気味に先生が言うも、相手は怖じけている。
要塞内でのいざこざを耳にしているだろうし、傭兵たちとの折り合いを考えれば、むしろ俺たちに好感すら持っている面子もいるかもしれない。
とはいえそこは兵士。
「最後である。立ち去らなければ、その幻獣ごと射殺すことになる」
「ですから先ほどから言っているでしょうに」
「ええい!」
流石に余裕の笑みを湛えて挑発され続ければ、相手も怖じ気から苛立ちに変わるというもの。
「射かけよ! それがお望みだ!」
糧秣廠の前で展開している陣の中で、全身を金属鎧で装備した指揮官クラスがそう発せば、即座に矢が射かけられる。
やはり槍衾後方には弓兵が展開されていたようだ。
陣形の後方からザッと矢が空へと打ち上がる。
一定まで空へと向かっていき、重力と自重による落下を始める。
曲射による攻撃。
「防ぎなさい」
先生の声に合わせてヒッポグリフが地上で翼を大きく羽ばたかせる。
勢いよく落下してくる矢は、羽ばたきの突風によって勢いを殺され、ハラハラと木の葉のように地面へと落ちる。
「人馬一体ならぬ人幻一体ってところか。――語呂は悪いな」
王都防衛戦では驚異として相対し、こちらの矢による攻撃は、羽ばたきと厚い羽毛によってノーダメージだったな。
ゲッコーさんがスティンガーを使用したから対処が簡単だったけど、普通に戦うとなると苦戦する存在だよな。
味方となれば幻獣は頼りになる。
「無駄ですよ。無血をお勧めします。貴方方だって本当は戦いたくないでしょうに」
「だ、黙れ! 我らには大義があるとカリオネル様が言っておられた」
「それを信じてもいないのに口にするのは――空虚感に襲われませんか?」
「本当に黙れ! 次! 射線開け」
今度は魔術師たちも参加。
盾の壁の一カ所に穴が空くように陣が開けば、後方の射手が姿を見せる。
水平射と曲射に加えて魔法が先生へと一斉に飛来。
「イグニース」
「ありがとうございます主」
造作もない攻撃。
でも魔術師のファイヤーボールはよかった。
傭兵たちが使用したマジックカーブによる魔法よりしっかりとした威力――衝撃が伝わってきた。
「さてさて、正にその行動は、勇者に弓を引く行為ですね」
更に悪そうな笑みを浮かべる先生。
神に等しき四大聖龍の二龍を救い出した勇者に対する無礼。
間違いなく二龍による神罰を受けることになるでしょう。
天に食指を向ける先生の動きは大仰。動きとは正反対の冷たい語調に、相手側に動揺が走る。
三射目のために番えていた矢。でも弦を引くまでには移行しない。
中世レベルの時代だ。信心深い者達も多いだろう。とくにこの世界には魔法なんかのファンタジーな力もあるから、神罰ってのが本当にあってもおかしくないからな。
それに有事でない時は、田畑を耕す農民による編制の公爵軍。
田畑を耕すのが仕事なので、大抵は学舎に通った経験のない方々。
見聞が狭くなる分、狭い範囲で傾倒しやすい。
つまりは信心深くなりやすい――と、先生。
そこを攻めれば瓦解しやすいし、それをしやすくする為に、
「メイドの方々。笑顔で手を振ってあげてください」
先生がコトネさんへと伝えれば、コトネさんがメイドさん全体に指示を出し笑みを湛えて手を振る。
全員が美女――美少年もいるけども、五十余名の麗しき面々が、瘴気の中で淑女のように胸元で手を振れば、それだけで相手は見とれる。
弦を引くどころか、鏃はそろって地面に向けられる程に。
これに加えて、兵としては後で叱られる行動だろうが、「ランシェルさ~ん」ってのが壁上の方々から聞こえてきた。
増援された兵達からしたら何のことか分からないだろうが、元々、糧秣廠にいた面々は、ランシェルとマイヤによって胃袋と心をしっかりと掴まれてしまったからな。
ま、ランシェルは、インキュバスで立派な男ですけどね。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる