異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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北伐

PHASE-784【西に動きあり】

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 俺の乾いた笑いから察してくれたご様子。
 勇者であっても無敗の存在ではないと分かったのか、

「日々の鍛錬か」
 って、俺に少しは親近感を持った様子。
 日々の鍛錬も大事だろうけど、

「強者に死地に叩き込まれるのも大事さ」
 と、親しい感じでため口に変更。

「それは手厳しいな」

「手厳しいのしかいないのが俺のパーティーだよ」

「苦労しているようだ」

「だと思うなら少しは手伝ってよ。囚われの身ってポジションで動かなくていいなんて事にはならないからな」
 ここで手伝えば、たとえ駄目な主だろうとも弓を引くことになるという事で、堅物の兵士長はやはり首を縦に振らない。
 駄目な主だってのはしっかりと認識してんだな。そもそもが虜囚として働かされるって事だから、弓は引くことにはならないだろうに。
 
「まあいいさ。でも食べろよ。無駄にすることこそ不義だぞ。なんたってこの麦粥の材料はここの廠のものだからな」
 公爵サイドの物を口にしないことこそ不義。
 とってつけたような言い様だったけども、

「ならば仕方なし」
 素直になれない兵士長はこれでようやく口に運ぶ。
 体は正直なようで、一口運べば、次々と口に運んでいった。
 腹減りすぎだろ。

「名前はなんていうの」

「マンザート。マンザート・アルカス」

「じゃあマンザート。それを食い終わったらメイドさん達と一緒になって、同じ立場の面子と廠内の掃除を頼むぞ」

「ぬぅ……」

「ここはお宅等の拠点なんだろう」

「然り。ならば奪還後に直ぐさま機能するよう、今は勇者の言葉に乗ってやろう」
 なんとも素直じゃない堅物だ。
 でも、こういった人物は裏切らないから信頼も出来る。
 あの馬鹿息子の為に未だに反骨心を見せるのはむしろ好感を持てる。
 是非とも味方にしたい人材だ。

「ああ、そうそう。サボったらコトネさんの蹴りがあるからな。二度も蹴られたくないだろ?」

「ぶっ!? ぶふ……。理解した……」
 よほどあの蹴りは衝撃だったのか、麦粥を吹き出しつつの返答だった。
 でも悪いね。ここを奪還するって事は叶わないよ。
 それどころか、これから先、王軍はドンドンと北側に展開していくことになるからね。


 
 さらに二日が経過したけども、未だに馬鹿息子は兵を新たに送り込んでくることはない。
 どうしたのかな?
 こっちとしては廠内を整える事が出来て大助かりだけども。

「よほどの自信があるのだろうな」
 本日は壁上にてベルと一緒になって要塞方向を眺める。

「自信の元は、ロイドルの話にあった小屋サイズの木箱だろうな」

「そうだろう」

「確か五箱前後だって話だけども」

「見た者が運ばれる最後尾の物だけを見たということも想定した方がいいだろう」

「それは俺も思った。基本、悪いことは予想以上に考えるから」
 対面した時、予想以下でよかったとほっとするために、あえて多く考える性格。

「あまり大きく見すぎれば、畏怖してしまうこともあるぞ」

「だから適度に予想するさ。十くらいって考える」
 これで木箱が十あったら嫌だけども……。

「ん?」

「どうした?」
 急にベルが今まで見ていた方向から西側を見やる。
 西――つまりはライム渓谷の方角。
 俺たちが糧秣廠を占拠している事は、メイドさん達が瘴気ルートから伝えてくれている。
 つまりは――、

「どうやら大きな動きがあったようだな」
 感知能力に優れたベルがそういうのならそうなんだろう。
 その証拠に、西側から濛々と黒煙が上がり始めるのがビジョンを使用しなくてもはっきりと見える。

「トール」
 ここでゲッコーさんが手招き。
 場所は廠中央に設営した、通信機器が設置されたタープテントから。
 壁上から跳躍して目標地点に着地。
 一足飛びで移動出来る便利な体になったもんだ。

『HQ』
 俺の着地のタイミングに合わせたように、スチュワートさんからの連絡が入る。
 ――――先生が対応。
 報告内容は、やはりというべきか、ライム渓谷にある砦より公爵軍の撤退が確認されたというものだった。
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