異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-800【魔王軍に比べると、ねえ~】

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「私としては自由に生活が出来るので四男でも構いませんがね」
 すっと被っていたグレートヘルムを外して素顔を見せる。
 兜の下からは、お約束とばかりの金髪青眼のやや垂れ目の美丈夫。
 同じ垂れ目の馬鹿息子とは違って、微笑むだけで女性に喜ばれそうな顔だった。羨ましいね!
 羨ましいので、

「自由に生活――ね~。のわりには、そっちの主に蔑ろにされて、自由もなく肩身が狭いようだけど」

「耳が痛い」
 素直に認める爽やかイケメンさんだな。
 なんか俺がみみっちくなるから、その笑みを向けないでほしい。

「はっ!」

「おっと」
 調練されているだけあっていい突きだな、征北騎士団の某さん。話し合っている最中に文字通りの横槍とはね。
 騎士道精神よりも勝利を渇望するようだな。
 四男坊も叱責しないということは、容認しているようだな。
 でもまあ、敵じゃない。
 突きは速いけど、それは一般的な者と比べてのもの。魔王軍――護衛軍と比べるなら遅いくらいだ。
 現在の俺なら見切れる。
 名台詞である【踏み込みが足りん】と口から出かかったくらいだ。

「単身でこの大軍に飛び込んで来る勇気は蛮勇でしょうか?」

「俺、勇者だから。蛮勇ではないよ。それに大軍って言うけど、現状ではこっちの方が数では勝ってるぞ」

「まあ、確かに」
 と、四男坊。
 二万と二万。
 こっちは現在二万。対してそっちは一万もいないだろう。
 麓担当の傭兵団は逃げたし、要塞からの援軍も来ないみたいだし。

「ですが三下がいなくなった分、数では劣りますが戦力は向上しています」

「それは理解できる。足枷がいたら動きが悪くなるからな。でもさ、俺にばかりに目を向けては駄目だぞ」

「なめるな!」
 更なる征北の某さんによる穂先の一突きを躱せば、続けとばかりに征北だけでなく、イグニースの驚異から距離を取っていた正規兵たちも体勢を整え、俺へと利器を向けて迫ってくる。
 遁走していた時とは別人だな。
 
 しかし大人数って面倒だな。こんな時にコクリコのアークディフュージョンが使えれば便利なんだけどな。

「アークディフュージョン」

「そうそれ」
 俺の周囲でバタバタと倒れる正規兵。
 俺にばかり目と矛先を向けていた結果だぞ。
 だが流石は征北騎士団。精鋭なだけあって、少々のスタン系だと顔を歪ませる程度のダメージ。
 動きに支障はないようだ。

「ほほう。我が魔法に耐えますか。まあ、ミッターとオスカーは使用してませんでしたからね~」
 強者のポジションで語るね~。チコの上で未だガイナ立ちは維持したままだし。
 ポージングを維持するより本気を出せ。
 
 相手を見下ろす位置にいるのは気持ちいいのか、余裕の笑みというよりは、恍惚の笑みのコクリコ。
 チコとコクリコの存在によって、俺に迫っていた相手方の攻めが止まり、後退りするもんだから余計にそれが気持ちいいようだ。

「立っているだけでは格好の的だぞ」
 と、しっかりとベルに説教されるまでがお約束なのかな。
 黒馬から跳躍しての華麗なる着地。
 絶世の美女の登場に、相手方は後退った足を前へと進めていた。

「ほう挑むか。その気概やよし」
 軍人さんは自分の美貌が原因で歩みを見せたとは思わないようだ。

「皆、気を引き締めよ。逆立ちしても勝てない強者だ。連携して当たれ」
 ここでしっかりと気を引き締めるように号令を出すのは有能な証だな。イケメン四男坊。
 信頼も厚いようで、一言でしっかりと背筋を伸ばして構える兵達。

「うむ良い」
 相手の規律ある動きに喜ぶベルは、

「周囲は対応しよう」
 そう言って俺同様に鞘ごとレイピアの柄を握る。
 ここでは可能な限り命は奪わないといった感じかな。

「く……ひゅ……」
 一瞬にして間合いへと入り込んでの突きだった。
 鎧なんて関係無いとばかりの衝撃貫通により、一人がくの字になって倒れ、それを見て一瞬にして相手側に戦慄が走る。
 相変わらずベルはチート。
 素でアクセルが使えるんだもん。
 ストレンクスンとビジョンを併用したところでベルの動きは見えやしない。
 俺とベルってどれだけの差があるの……。

「何という強者……それに」
 四男坊が見渡す。
 俺のパーティーがベルに続いて参戦。
 ゲッコーさんが次々と麻酔銃でヘッドショットを決めていき、接近すれば投げで相手を戦闘不能に追い込む。
 
 シャルナはアッパーテンペストの手加減バージョンを使用。
 地面からの急な突風に、鎧を着込んだ男達が簡単に舞い上がる光景。
 でも騎乗している者は狙わない。馬に被害を出さないために。
 動物保護に携わるシャルナらしい行動。
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