異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
860 / 1,861
北伐

PHASE-860【デュラハン】

しおりを挟む
「死ねぃ!」

「だから俺じゃない」

「ぐえ!」
 躱して軽く顔を小突けば地面へと倒れ、顔を押さえて転がり回る……。

「どんだけ弱いんだよ……」
 おっさんの無様さに後ろに立つランシェルからは溜息が漏れていた。
 お気に入りのメイドの溜息に馬鹿息子はめっぽう恥ずかしいようだが、殴られた痛みの方が勝ったようで、痛みを紛らわせるように地面を転がる。

「リン。相手を呼んでやってくれ」

「お任せ」
 カッとハイヒールで地面を蹴れば、リンの足元にて魔法陣が顕現し回転。
 魔法陣が分裂するように更に顕現すれば、分裂した方がリンの前方に移動。

「さあ出てきなさい。元主のみっともない姿は見るに忍びないでしょうけど」

「もろあるふぃ?」

「主ってのはお前の事だよ」

「あるふぃ?」

「ライブ本数、日本史上最多記録のバンドじゃねえよ!」

「貴男は時折、本当に訳の分からない事を言うわね」

「まあそこは流してくれリン。というか中々に出てこないけど、本当に残念がってるって感じかな? 魔法陣の下で――」
 魔法陣の方を向いて話しかけてみると、

「……いやはや、本当に情けない……。勇者殿、ご迷惑をおかけしております」

「いいさ。俺なんてあんたに大きな迷惑をかけたからね。あの時、一緒になって俺たちを無事に帰してくれた征北の方々にも申し訳ないことをしたし。それもあって個人的にも殴りたかったし、四男――征北騎士団団長のヨハンとの約束でもあったからな。俺はもう十分。後は任せるよ――ミランド」

「感謝いたします」

「ミランロォ!?」
 お馬鹿な顔が更にお馬鹿に歪んでくれるじゃないか。

「お久しぶりですね」
 リンの前にある魔法陣より現れ、挨拶をするミランド。

「なじぇおまふぇが……。首を確かに刎ねたらろう……」
 馬鹿が言うようにしっかりと首と体が繋がった状態だ。
 しかも血色もいい。アンデッドではなく生者として甦ったように思える。

「ああ。確かに……首は刎ねられました……」
 ――……生者として甦ったとついさっきまでは思っていたさ……。
 ミランドが両手を顔側面に移動させなければね……。

「ひぃ!? ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!!」
 ここにきて一番の悲鳴を馬鹿が上げ、

「「「「お……おお…………」」」」
 と、闘技場内の光景に、オーディエンスからは驚きや動揺の声が上がる。
 至近で見る俺とランシェルは光景に一歩後退り。
 ミランドが頭を掴んで両手をぐっと上げれば――、ニチャァといった音がし、首が体から離れる。

「確かに……刎ねられましたよ……」

「あひゃぁぁぁぁぁぁ! 近づくな化け物ぉぉぉぉぉお!!」
 恐怖が原因で痛みが吹っ飛んだのか、滑舌がよくなってるじゃないか。
 完全に腰が砕けているけども、なんとか必死になってミランドから離れようと這って逃げる。

「リン。ミランドは――」

「デュラハンになってもらったわ。首を落とされた騎士といえばデュラハンでしょ」
 何を楽しげに言っているのやら……。
 リン同様に血色のいいアンデッドってだけでも首を傾げたくなるのに、血色がいいまま首を小脇に抱えるってのは恐怖だよ……。
 まだ青ざめた肌で小脇に抱えている方がそれっぽくて怖くないだろうさ。

「さあ、そのご自慢の剣で挑んでください。私も全力で戦わせてもらいますので」

「来るな無礼者ぉ! 汚らわしいアンデッドとなってまで俺に挑もうとするとは、愚者の極だ」

「極でよいので――さあ、戦いを!」

「来るな! 誰ぞこの不浄の存在を消し去れ! 報酬は意のままだぞ」

「阿呆!」

「勇者! その暴言は今回は許す! さっさとこのアンデッドを倒せ」

「やだ」

「報酬は欲しくないのか!」

「阿呆!」

「貴様っ!」

「何か勘違いをしている。お前はここで負けるの。その時点でこの要塞内の物は俺たちの物。お前が言ってる報酬も俺たちの物なの。それをしっかりと理解しろ」

「それでも勇者か!」

「だからお前の中ではエセなんだろ。さっさと諦めて戦え。勝敗は目に見えていて賭にすらならないけどな。絶対にお前の負け~」

「エセ勇者! 盗人め!」
 何とでも言え。お前は混乱するこの世界で更なる混乱をまき散らそうとした。
 王の座を奪おうと考えていた奴に盗人って言われても、まったくもって精神に痛痒を感じない。

 とにかく――、

「お前の負けぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 もの凄く上から侮辱するように言ってやった。
 ここだけを切り取って見れば、馬鹿の言うように俺は勇者には見えないだろうな。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...