異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-863【なんで片方ダルメシアン】

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「シャルナ」

「だからさ。お手軽に呼ばないの」

「このモドキの強さは本物に比べれば下でいいよな」

「当然!」
 と、即答。
 声には怒りも混じっていた。

「さっきのヒュドラーもそうだったけど、オルトロスも神聖であり近寄りがたい存在。纏っている気配がそもそも違う。こんなのはただの偽物。幻獣を手なずけているという錯覚した自己満足に浸りたいだけの命に対する冒涜。こんな事をするような馬鹿に伝説の幻獣は絶対に靡かない」

「うん。まったくもってその通りだな」
 同意でしか返せないね。
 にしても、俺たちの世界の神話だと怪物だけど、こっちだと神聖な存在なんだな。

「言ってくれる。美しくあっても俺のやることに難癖をつけるのは許されん」

「うるさい馬鹿。涙目で格好悪いし」

「な!?」
 端的に馬鹿を馬鹿と伝えられるシャルナのストレートなところ好きだよ。
 冷たい視線のシャルナに睨まれれば、根っからのヘタレは視線を逸らす。
 ミランドに吹っ飛ばされたが、涙目程度のダメージで割と元気だ。
 もっと全力で折檻すればよかったのに。
 元主ってことで、無意識に手加減したんだろうな。

「どいつもこいつも偉大なる俺を馬鹿にして!」
 あ、だからって俺を見て言うのはやめろよ。シャルナの眼力がそれほどに怖かったのか?
 まるで一番手に言うのは怖いから、二番手に言いましたみたいな感じが出てるぞ。

「そもそもが伝説的な幻獣であろうとも、それを超えれば新たなる本家となるのだ!」
 この馬鹿は嫌いだけど、その発想は嫌いじゃない。
 本家を超えればオリジナル。俺も同じような考え方を持ってるからな。

 でもこれは――、

「超えてないだろう」
 そもそも見た目に貫禄がない。
 片方の頭は茶色の毛並み。そいつが体の持ち主のようで、体全体も茶色の毛並み。
 で、もう一つの頭を体に取り付けたって感じだ。
 しかも選択しているのが――、

「ダルメシアンってどうよ……」
 なんで茶色の毛並みに、白い毛並みと黒い斑点からなるのを選択したんだよ……。
 毛の色は統一しろよ……。

「すごく違和感しかないぞ」

「この美が分からんとは所詮はエセ勇者。やれオルトロス」

「分かりたくもねえよそんなもん」
 馬鹿に従うオルトロスモドキの火炎による視界を奪う戦法。
 先ほど俺が対応できなかったからということで、再び同じような攻撃を取ろうとするわけだが、

「パターンだ」
 跳躍すればさっきまで立っていた場所で尻尾が空を切っていた。

「グルルル」
 当てられなかった悔しさからか、唸るダルメシアンの方が大口を開いて空中にいる俺に噛みつこうとする。
 巨大な犬歯に捕まれば、人間の体なんてあっという間に噛み砕かれてミンチだろう。
 でも――、

「ピリア増し増しの俺なら耐えられる!」
 下顎に蹴りを入れ、左腕は籠手を利用して上顎をグンッと上げ、無理矢理に口を開かせる。 
 大口を開いた口内では赤々とした光が発生。
 喉の部分から熱気が漏れ出す。
 炎系のブレスはこうやって発生するのかというのを目にすることが出来た。

「貴重な経験のお礼にコイツをくれてやろう」
 あえて残火を使用せず、雑嚢から右手で取り出すのはモロトフカクテル。
 口内に火種があるので着火の手間が省ける。
 奥歯部分に投げつければ瓶が割れ、ボフンと音を立てて爆発すれば、口内にブレスとは別の炎が発生。

「ギャン!?」
 痛みを感じた鳴き声。俺を吐き出すために首を大きく振れば、残った方は何が起こったのかと目を見開き驚きの表情。
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