異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-869【老いても目力は強し】

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「お元気なご様子」

「そう見えますかな?」

「はい。ここまで騎乗してきたのでしょう」

「無論です」
 やはり馬で遠乗りも出来るだけの体力はあると思われたいようだね。
 
 未だに片膝をつく王様に家臣団。
 なので俺も真似をする。

「だからあまりいじめないでくだされ」
 と、公爵。
 名代に対しての俺の発言が意地悪みたいであったことと、王様の恭しい所作。
 位階では王の下に位置する公爵に対して恭しく行えば、慇懃無礼なようで意地が悪いということだろうな。

「下馬したい。誰ぞ手を」
 直ぐさま側の騎兵が公爵を手伝う。
 遠乗りは出来ても、降りるのには一苦労といったところ。

「ふぅ」
 と、下馬するだけで息を漏らすくらいだからな。

「お体の調子がよくないようで」

「その前に立ってくだされ殿下」

「分かりました」
 王様が立つのを待ってから、

「年を取ると途端に体が駄目になるというのは嘘ですな」
 と、発言。

「……はあ?」

「その実、寝たきりになると駄目になる。足を使わねば一気に老いが背後まで迫ってくるというもの」

「……? そのようで」
 疑問符を浮かべつつも返答する王様に、杖をつきつつ歩み寄る。
 奢侈な作りを佩剣する馬鹿と違い、質素な作りによる杖。握る手はやはり弱々しい。
 手に沿って全体を見る。
 ブロンドの髪は白髪交じりが原因で薄い色に見える。
 年の割にはしっかりと毛量があるので、伯爵からしたら羨ましいところだろう。
 体に纏っているローブも質素だ。唯一、腰帯の金細工の作りがしっかりとしており、中央のルビーと思われる赤い宝石は目を引く煌めき。

「公爵様。恐れ多いのですがその杖の確認を」

「せずともこれは仕込み杖だよバリタン伯爵。中身はミスリル製だ」
 一瞬にして場に緊張が走る。
 ゆらゆらとした足取りとはいえ、王様に接近を許すわけにはいかないと、家臣団が王様の前に立つ。
 といっても相手は公爵。強気に出るのはやはり難しいようだ。

 しかたがないので俺が代わりに手を挙げる。
 それに合わせてタレットや胸壁にて準備をしているS級さん達の銃口が公爵に向けられる。
 狙っているというのを伝えるかのように、緑色のレーザーサイトが公爵の上半身に点々と現れる。
 貴族と違って俺は貴族階級にそこまでしがらみがないからね。こういった行き過ぎた行為も出来たりする。
 問題にはなるだろうけど。

「これは勝てんはずだ。あの愚息では特にな――」
 壁上を見やる公爵。
 S級さん一人一人と目を合わせるようにしてからそう発した。
 そして、最後に俺へと目を合わせると、

「彼らに指示を出す勇者殿の目力も大したもの」

「どうも」

「が、指示を出す立場であるようだが、目力は壁上の者達ほどではありませんな」

「どうも……」
 ご理解が早くて助かるよ。
 実力は俺以上の面子ばかりだからね。

「心配無用。これは自衛の物であり、ここでは使用しませぬ。不安ならば別の杖を用意してください」

「別に私は構いませんよ叔父上。そのままお使いください」

「ありがとうございます殿下」
 王様としては、もし抜かれるような事があっても、対応は出来るといったところ。
 先ほどまで片膝をついていたのが嘘のように肩をそびやかして公爵の前に立つ。
 しかも杖の間合いにワザと入ってみせていた。

「それにしても冷えますな」

「これは配慮が足らずに申し訳ありません。さあ中へ」
 王様と並んで俺の横を通り過ぎる時の公爵の目は、老いた体からはかけ離れたものだった。

「中々にくえない爺さんだな」

「然り」
 ゲッコーさんと先生が俺の左右で語り合う。
 気になったのは、通り過ぎる時に公爵は俺たち――というより先生に軽く会釈していた。
 間違いなく先生にだったんだろう。先生も会釈で返していたし。
 何か関係性があるのかは後で先生に聞くとして、

「目力とか言ってましたけど、あの爺さんの目力だって相当でしたよね」
 と、俺も素直に感想を口にする。

「ああ。確かに老いで力はないようだが、野心というか、向上心はまだ現役といったところだな」

「老いてなお盛んと言ったところでしょうな」
 俺へと二人が返してくる。
 
 俺たちも王様と公爵の後に続く。
 公爵サイドで要塞内に入れたのは数人の征北騎士団だけ。
 こちらに対して無用な警戒を抱かせないためだろうし、抵抗もしないという表れだろう。
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