892 / 1,861
新公爵
PHASE-892【この領地は大変そうだ】
しおりを挟む
――――ベルに見入っている中で、俺に誰何をした兵がはたとなり、
「あの……どちら様でしょうか?」
と、再度の誰何。
王様の列に自由に行き来が出来る立場から俺が位の高い人物と判断しての丁寧な問いかけ。
それくらいの事が出来るくらいには冷静にはなっているようだ。
もう拳骨はくらいたくないので、
「ええっと――どうも。新しく公爵になった遠坂 亨です」
立ち上がって今度は素直に名乗る。
「……はぁ?」
いいよその気の抜けた返事。
久しいよ。俺を勇者だと信じなかった時の連中と同様のリアクションだね。
慣れたくはないけど慣れてしまっているからメンタルは幾分か平気。
「本当だ」
ここで爺様が一言。
これによって沿道警備に当たっていた兵達も信じてくれる。
ざわつきが生まれる。それが静かになるまで待ってから――、
「このたびミルド領の新領主となった遠坂 亨です。トール・トオサカ・ゼハートとへんてこな名前になってますがよろしくお願いいたします。気軽にトールと呼んでください」
全体を見渡してから典雅な一礼にて挨拶。
公爵が一兵士と領民に一礼という光景。
この光景はあり得ない事なのか、皆して膝をついて顔を伏せてくる。
「そういうのはやめていただきたい」
俺に対してそこまでする必要性はないよ。そんな事をされるとこっちが困るというもの。
ナチュラルボーンな貴族ではなく、成り上がりの貴族って感じだからね。
恭しくされると困る。
「先の戦いでは貴方方にとって敵でした。敵として公爵軍の方々の命を奪うように直接命令も下しました。石を投げるなら王ではなく俺に恨みをぶつけてくればいいと思います」
「トールよ何を言う。最高責任者は私だ。私が恨みの矢面に立たねばならん」
すかさず王様。
「孫や甥よりも年長者である私に向けてほしい」
ここで爺様も馬車から降りて参加。
俺が俺がといった流れだ。どうぞ、どうぞと譲ることは無いので笑いが生まれる事もなく、三人で主張しあうだけ。
大陸にて人類が統べる領土の第一位と第二位、元第二位による謝罪を受ければ、大人たちは顔を見合わせる。
先ほどまで気が高ぶっていた子供も周囲の大人達の困惑さを身で感じたのか、高ぶりより困惑が勝ったことで落ち着いて来ている。
「下がっていい」
ベルが俺を下がらせる。
「今後はあの子のような残された者たちの為に力を発揮しなければならない」
「だったらここで宣言しとこうか。補償も伝えよう」
「やめとけ」
ゲッコーさんによる制止。
簡単に遺族には補償をするなんて言うものではないという。
そういったのは結果を出してから。
出せる段取りが整っていないままに公約などを行えば、公約を実行できなかった。もしくは遅延しているとそれが不満となって爆発する。
やることはしっかりとやり、それが人々の目に見えるような成果となって信頼を得てから公約や補償は出せということだ。
見たこともない少年が突如として公爵となっているだけでも領民は混乱する。収拾の後に生活に関しての保障や雇用を実行するのがいいそうだ。
先生もそう言いたかったのか、ゲッコーさんの発言に鷹揚に頷いていた。
――――。
「信頼を得てから実行ね~」
個室にて一人ソファーに座って独白。
現在の時間帯は夕方。
王様や公爵は一息入れて直ぐさま公都を目指して町から出立。
俺たちはククナルにて居を構える貴族の屋敷を借り受けて宿とさせてもらっている。
信頼を得るにしても、現状は遺族から恨まれる対象と言ってもいい。
そんな人々に受け入れてもらえるように励むにしても、何をすればいいのかは俺程度では脳漿をしぼっても妙案なんて生み出せない。
真っ先に思いついたのは、越後のちりめん問屋というネタを口にしたからか、この領地の世直し旅をするっていうものだった。
時間がかかりすぎるから全くもって現実的ではない子供じみた発想が俺の限界。
「あの……どちら様でしょうか?」
と、再度の誰何。
王様の列に自由に行き来が出来る立場から俺が位の高い人物と判断しての丁寧な問いかけ。
それくらいの事が出来るくらいには冷静にはなっているようだ。
もう拳骨はくらいたくないので、
「ええっと――どうも。新しく公爵になった遠坂 亨です」
立ち上がって今度は素直に名乗る。
「……はぁ?」
いいよその気の抜けた返事。
久しいよ。俺を勇者だと信じなかった時の連中と同様のリアクションだね。
慣れたくはないけど慣れてしまっているからメンタルは幾分か平気。
「本当だ」
ここで爺様が一言。
これによって沿道警備に当たっていた兵達も信じてくれる。
ざわつきが生まれる。それが静かになるまで待ってから――、
「このたびミルド領の新領主となった遠坂 亨です。トール・トオサカ・ゼハートとへんてこな名前になってますがよろしくお願いいたします。気軽にトールと呼んでください」
全体を見渡してから典雅な一礼にて挨拶。
公爵が一兵士と領民に一礼という光景。
この光景はあり得ない事なのか、皆して膝をついて顔を伏せてくる。
「そういうのはやめていただきたい」
俺に対してそこまでする必要性はないよ。そんな事をされるとこっちが困るというもの。
ナチュラルボーンな貴族ではなく、成り上がりの貴族って感じだからね。
恭しくされると困る。
「先の戦いでは貴方方にとって敵でした。敵として公爵軍の方々の命を奪うように直接命令も下しました。石を投げるなら王ではなく俺に恨みをぶつけてくればいいと思います」
「トールよ何を言う。最高責任者は私だ。私が恨みの矢面に立たねばならん」
すかさず王様。
「孫や甥よりも年長者である私に向けてほしい」
ここで爺様も馬車から降りて参加。
俺が俺がといった流れだ。どうぞ、どうぞと譲ることは無いので笑いが生まれる事もなく、三人で主張しあうだけ。
大陸にて人類が統べる領土の第一位と第二位、元第二位による謝罪を受ければ、大人たちは顔を見合わせる。
先ほどまで気が高ぶっていた子供も周囲の大人達の困惑さを身で感じたのか、高ぶりより困惑が勝ったことで落ち着いて来ている。
「下がっていい」
ベルが俺を下がらせる。
「今後はあの子のような残された者たちの為に力を発揮しなければならない」
「だったらここで宣言しとこうか。補償も伝えよう」
「やめとけ」
ゲッコーさんによる制止。
簡単に遺族には補償をするなんて言うものではないという。
そういったのは結果を出してから。
出せる段取りが整っていないままに公約などを行えば、公約を実行できなかった。もしくは遅延しているとそれが不満となって爆発する。
やることはしっかりとやり、それが人々の目に見えるような成果となって信頼を得てから公約や補償は出せということだ。
見たこともない少年が突如として公爵となっているだけでも領民は混乱する。収拾の後に生活に関しての保障や雇用を実行するのがいいそうだ。
先生もそう言いたかったのか、ゲッコーさんの発言に鷹揚に頷いていた。
――――。
「信頼を得てから実行ね~」
個室にて一人ソファーに座って独白。
現在の時間帯は夕方。
王様や公爵は一息入れて直ぐさま公都を目指して町から出立。
俺たちはククナルにて居を構える貴族の屋敷を借り受けて宿とさせてもらっている。
信頼を得るにしても、現状は遺族から恨まれる対象と言ってもいい。
そんな人々に受け入れてもらえるように励むにしても、何をすればいいのかは俺程度では脳漿をしぼっても妙案なんて生み出せない。
真っ先に思いついたのは、越後のちりめん問屋というネタを口にしたからか、この領地の世直し旅をするっていうものだった。
時間がかかりすぎるから全くもって現実的ではない子供じみた発想が俺の限界。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる