異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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新公爵

PHASE-901【いざ成敗へ】

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「ですがお聞きください公爵様。今までこの商売は法によって成り立っていたんです。それをいきなり止めろと言われましても……」

「それを逃げ出す前に潔く言ってれば少しは心証も変わったんだろうけどな」

「私はちゃんとルールに則って」

「ルールは変わったんだよ」

「ならばちゃんと喧伝していただきたい」

「それは申し訳ないね。まだこの地に来たばかりだから」
 これを耳にすれば、攻め場所を得たとばかりに悪そうに笑みを湛える商人は、

「今回は不問にしていただきたいです。だってそうでしょう。いきなり変わると言われても無理があります。領地全域に高札を立ててから言ってください」

「でもね。そもそもが王命により奴隷制は違法なんだよ。他の領土では禁止なの。当然このミルド領でも禁止になってるの」

「ですが暫定公爵様の時は――」
 しつこいな。殴って解決したくなってきた辺り、俺は短気なのかもしれない。

「――とにかく私はこの地の法に則って奴隷売買を行ったのです。なにも悪くはありません」
 ここまで強気なのも、現状ではこの地の法に抵触していないからだろうな。
 でもそれは決定権も持ってないカリオネルが勝手に決めたことだからね。
 他では通用しない言い訳だよ。
 そうやってカリオネルの法を盾にして無理に攻めてくるなら、こっちも無理をするだけだよ。

「俺が駄目だと言ったらその時点で駄目だ。カリオネルの馬鹿には権限なんて一切無い。俺が法だ!」

「お、随分と強気な独裁者的発言だな」

「でしょ。でもそうでも言わないと堂々巡りで解決しませんからね」
 独裁的な発言であってもゲッコーさんは笑いながらツッコミを入れるだけで、俺の発言自体には賛同といったところ。

「でしたらちゃんと補償をしてください。そうすれば諦めもつきます」

「――そう」
 堂々巡りになるのに嫌気がさしたようで、側に立っていたマイヤが冷たさを纏ったのが分かった。
 シースナイフを取り出し、

「ここで会頭――公爵様の発言を聞き入れれば、貴男の命は保証されるけど」

「ひぃ!」
 結構ガチな脅しを行うマイヤ。
 商人の贅肉をつけた頬にナイフの先端を押しつける。
 血の出ない絶妙な位置で止めているのは匠の証拠。

「分かりました。諦めます! なのでご慈悲を」

「との事です会頭――公爵様」

「い、言いやすい方でいいよ……」
 ナイフを突きつけたままこちらに柔和な笑みを見せてこられると、ホラーを感じるよ。

「一応は拘束させてもらうから。珍妙団といたことも聞きたいし」

「珍妙団――ですか?」
 傭兵団のことだと伝えれば、傭兵団ならこの領地で商いをする者たちなら大抵が護衛につけているという。
 
 商人の話から思いの外この集団が手広く商売をしているってのが分かった。
 カリオネルがバックについていたこともあり、商人の護衛から代理戦争までなんでもこなしているようだ。
 お陰でこの領地の冒険者たちは自分たちの食い扶持を邪魔されている状況で、護衛などのクエストを受ける事が出来ず、素材採取や探索などに限定されてしまうそうだ。
 護衛に比べると採取探索はモンスターなどと遭遇するリスクがあり、新米冒険者には敷居が高いクエストが多いという。
 カリオネルが幅を利かせてからは新人冒険者の育成が上手くいっていないそうで、冒険者ギルドは人手が不足しているそうだ。
 これにより傭兵団が更に大きな顔をするようになったと商人は教えてくれた。
 ――このほかにもいろんな情報を与えてもらった。

 話を聞いている最中、ここでも遅れてきた警邏の兵士に商人と囚われていた奴隷さん達を任せ、倒れている珍妙団の拘束も指示。
 俺達が寝泊まりをする屋敷まで連れて行くようにお願いではなく――強めに命令した。
 兵士の人間性が分かっていない状況だからこその高圧的命令。
 
 これに加えてゲッコーさんがしっかりと顔と名前は覚えたぞ。と、脅しをかけてた。
 商人が途中で賄賂を渡し、それを受け取ったらどうなるか分かっているだろうなというのを暗に伝えている。
 ゲッコーさんに脅されれば首を縦に振って従順になるしかない。
 ダメ押しで、

「ゴロ丸」

「キュ!」

「お前も兵士たちについて行ってくれ。しっかりと監視を頼む。屋敷まで召喚時間は持ちそうか?」

「キュウ!」
 問題なしとばかりに力こぶのポージング。

「コイツ等が邪な事を考えたら――潰していいぞ」
 仄暗さを纏って言えば、それだけで兵士たちと商人は肝を冷やす。

「ギュゥゥゥゥゥゥゥウ!」
 俺に呼応してゴロ丸も凄んだ声を出すが、可愛さが勝っていた。
 ゲッコーさんに精神を攻められ、側ではミスリルゴーレムに監視される事になった兵士たちは、ギクシャクとした動きで商人と奴隷さん達を伴って屋敷へと向かう。

 ――さて、この町で奴隷制を許可している存在も商人から教えてもらった。

「いくら許可があるとはいえ、俺達がこの町に入った時点で普通はこういった事への取り締まりを強化するはずなのに。それをやらないとは肝が大きいのか、それとも鈍感なのか」

「知らぬ存ぜぬを通すつもりかもな。利益を得られるだけ得て、全てをカリオネルの許可証のせいにする。知らぬ存ぜぬが通用しないと分かれば、次はカリオネルに逆らうことが出来なかったし、制度がそのままになっていたからと弁明するんだろうな」

「真実が自分に迫ればゲッコーさんの言うような弁明をする。取り越し苦労で終わるならば万々歳。だから率先して俺達に豪華な本邸を提供し、自分は別邸。こういう内情を抱えているから、公都に出立するまでの間、敷地内から出ずゆっくりしてほしいと思ったんでしょうね」

「だろうな。そういった画策は出来ても、お前がお忍びで行動するという事までは考えがおよばなかった、お粗末な頭だったようだが」

「では、お粗末さんを成敗といきましょうか」

「そうだな」
 ――――俺を先頭に、親切ではなく自分の既得権益を守るために屋敷を提供してくれた貴族の別邸へと向かって歩き出す。
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