異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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新公爵

PHASE-919【継承式】

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「どうだろうか?」
 青年のような見た目だが、俺より一つ下の少年はこの名を受け入れてくれるだろうか。伝記の内容に躊躇もあるみたいだけど。
 そもそも見た目に身長、どっちも違いすぎるからな。
 ただ強い存在の名前ってだけで思いついた人物を選択しただけだからな。

「ありがとうございます。その偉大なる英雄の足元には及ばないでしょうが、それでもその方の名をいただけるのですから、その方に恥じぬような振る舞いと修練に励みます」

「よく行った。私も手があけば相手をしてやろうリーバイ」

「はい!」
 ベルを最初に相手にすると挫けそうな気もするが、教えるのは上手いから問題はないか。
 でも当分は、

「ラルゴ達に集団戦を教わるんだな」

「分かりました!」
 冒険者ではなく兵を目指すなら、個の武より集による連携が大事だからな。
 ラルゴもみっちり鍛えてやると乗り気。
 元奴隷という共通点もあるからな。結束力は強いものになるだろう。
 奴隷から自由を得た者たちの目には力が宿っている。
 俺達のところで励むことで、希望を持てるようになった事は喜ばしいことだ。

「めでたいな。我が孫トールに新たなる忠義の士が誕生するのは実に喜ばしい。我が孫トールの名付けたリーバイに乾杯だ」
 俺が名付ける事は大変に名誉のある事だと言い、爺様は深い皺を更に深めた破顔で音頭。
 なんにでもめでたいと理由をつけて楽しむのがある意味、貴族なのかもしれないな。
 
 ――――なんたって俺がこの屋敷に足を踏み入れ、正式に屋敷の主となったという理由だけで一週間のどんちゃん騒ぎだったからね。
 コクリコは大いに楽しんでいたし、先生が苦言を発しなかったことから、この時間の浪費は問題はないという事だったんだろう。
 ともすれば、この一週間は休息に当てるというのが先生の考えだったのかもしれない。

 俺達が騒いでいるこの一週間の間に公都全体に新たなる公爵が誕生したことを流布し、公都の住民全てにパンと酒を振る舞ったという。
 なんかパンってしょぼいなとも思ったけど、公都の現在の人口は四十万を超えるというので、パンと酒だけでもとんでもない金が飛んでいくという事実を知って足がふらついた。
 
 公爵である俺が有する資産からとんでもない額で消え去ったとなれば、庶民精神がしっかりと残っている俺の精神世界アストラルサイドへのダメージが大きかったのは言うまでもない。
 別に俺のポケットマネーではなく税収が使用されるんだけども、だとしても足に来るね……。
 そして――、この一週間を利用して各地より諸侯がこの公都へとやって来る。

「公爵継承おめでとうございます。トール様」

「ありがとうございます」
 諸侯を代表してミルド領内の何処ぞの伯爵殿から挨拶をいただく。

 ――……継承式が始まり、爺様と王様の二人により俺が紹介される。
 公爵家の敷地――屋敷より二キロほど離れた位置にある迎賓館にて挨拶は行われる。
 会場となる大広間の壇上に立たされれば、大広間より衆目を浴びて恥ずかしい事この上ない。
 見渡す限り煌びやかな礼服にドレス。装身具がよく目立つ。
 目立つ理由は式典を派手なものにせず、厳かにをコンセプトにしたから。
 カリオネルとは正反対の存在であるというのを式典の内容でも伝えたかったからな。
 それもあって内装よりも来場者が目立つという結果になった。
 しかし派手な諸侯と令嬢たちだ。彼らの服装で目がチカチカする俺はやはり庶民なんだろうな。
 一部分だけがチカチカしないのでそこを見て目を休める。
 派手さはなく、貴族たちと比べて質の落ちる礼服を着ているのは、このミルド領にて活躍する冒険者ギルドの代表者たち。
 先生の考えで貴族や豪族だけでなく、ギルドの方々もゲストとして呼んでいるそうだ。

「ふぃ~……」
 お披露目が終わってからが辛い……。
 挨拶ラッシュが凄かった。
 どんだけの人数から挨拶を受けたことか……。五十を超えた辺りから数えるのをやめた。
 近寄ってくる大半の笑顔の湛え方がレンググ領の男爵に近いものがあった。つまりはすり寄ってくる人間って事だろ。
 裏では何をしているか分からない人間って事だな。
 
 俺の横では先生と荀攸さんが笑顔を貼り付けた表情で諸侯たちを選別をしていた。
 この二人の力を借りなくても今回は俺でも分かるくらいだったよ。
 二人の意見もほぼ同じ内容だった。
 
 やはり腹に一物ある奴ってのは分かるもんだ。俺もこの世界でいろんな人間たちを見てきたからかな。
 人相でも分かるようになってきた。
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