異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ミルド領

PHASE-945【余裕のマナだ、魔力が違いますよ】

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「もしかしたら隠し通路があるとかなのかな?」
 物は試しにと、かろうじて残っている床部分で足踏み。
 音の反響などは当然だがない。

「うちの連中はそれも考慮してこの辺りの調査はやっているんだがな」
 ですよね。S級さんの実力なら見逃すことはない。
 それはゲッコーさんの自信ある返答からでも分かるし、俺がゲーム内で苦労して集めたS級兵士がそんなミスはしないという思いも強い。

「だとするとここには――」

「有るわよ通路」
 俺の発言に割って入るのは――リン。

「周到に隠しているけどね」

「有るの」

「有る」
 自信に満ちたリンの返答。
 ゲッコーさんを見れば、首を傾げている。
 S級さんだけでなく、ここにてゲッコーさんも床などを調べていたようだけど、それらしいものは見つけられていない。

「リンよ、ゲッコーさんでも難しいんだぞ。本当に分かるのか? そもそもなんか感じたら教えてくれと言ったのに、なんでその時は何も言わなかったんだよ」

「貴男は脅威になるものと言ったの。隠し通路的なものとは一言も言っていないでしょう」
 嘲笑を浮かべつつの切り返し、確かに俺はそう言った。
 なので、

「ぐぬぬぅ……」
 と、悔しさを漏らすだけ。
 ていうか、脅威じゃなくても教えてくれればいいだろうに。
 まあ、人を嘲るのが好きなリンらしいといえばリンらしい。

「じゃあ、隠し通路的なものを教えてくださいよ!」

「仕方ないわね。一般レベルなら難しいでしょうけど、私ほどにもなれば簡単」
 随分と自信満々ですね。

「じゃあどの辺りに隠し通路なんかがあるんだ?」
 ゲッコーさんが質問する。
 スニーキング、探索ならばリンには負けないという自負もあるからか、ちょっとムキになっているような気がする。

「まあ、貴男では見つけられないわよ」
 おっとここで俺だけでなくゲッコーさんにも嘲笑による対応。
 これにはゲッコーさんも目つきがきつくなる。

「まあそんな目で見ないの。別に貴男の探索能力を疑ってるわけじゃないわよ。実際、貴男の能力が高いのは理解しているから」
 リンがそう言えばゲッコーさんは頤に手を当てて、しばらく考え込む姿になる。

「――なるほどな」
 と、理解したご様子のゲッコーさん。

「ゲッコーさん」
 分かったならば教えてほしいといった感じで名前を発せば、

「確かに俺は異分野だな。これはリンやシャルナが適任だろう」

「私? 私は分からないんだけど」

「おばあさまだから仕方ないわね」

「はあ!」
 いつものようにシャルナとリンのやり取りが始まる。
 殆どはシャルナが長い耳を立てて顔真っ赤で怒り、それを嘲りながら見るリンといったのがテンプレート。
 合わせて二千四百歳くらいになる、二人の喧嘩漫才のようなやり取りを一通り見てから――、

「リン。解決法を」

「はいはい」
 側で騒ぐシャルナを横目に、すっと右手を胸元の位置まであげ、拇指と中指によるフィンガースナップ。
 パチーンと小気味の良い音が一回響けば、

「おお!?」
 俺の眼前に突如として黒い穴が現出する。
 大人一人がスッポリと入れそうな楕円形の穴。
 真っ暗な穴だが、中央に向かって黒い気流が集束しているように見える。

「これなに?」

「ジャンパーという魔法よ」

「名前からして別の場所に瞬時に移動する魔法みたいだな」

「そう。上位の転移魔法ね」
 俺やコクリコが、リンが造ったダンジョンで転移したアレかな?

「でも魔法陣とかは出なかったな」
 あの時は石棺の内部を覗き込んだら、見計らったように円形の白い魔法陣が現れ、それを四方で囲むような菱形の魔法陣が顕現したのを覚えている。

「ああ、アレはゲート。大魔法だから」

「なるほど」
 流石はリン。
 こっちのは上位。リンは大魔法。規格が違う。

「ちょっと待ってください。ジャンパーにゲート。凄い名前が出てますが!」
 ここで魔導討究会の代表が、興奮しながら俺達の会話に体ごと割って入ってくる。

 当たり前のように上位魔法や大魔法。しかも転移となれば闇魔法だということで、上位の中でも上に位置する魔法が現在、自分の目の前に突如と出てきた事により、興奮しつつも頭が混乱しているご様子。
 加えて大魔法であるゲートを俺達が経験しているような会話も耳にしたものだから、更に混乱しているようだった。

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