異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ミルド領

PHASE-948【維持力の謎】

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 ネポリスの門を潜って最初に驚いた車輪のない馬車もだけど、ここも驚きだ。
 今まで見てきた世界観とは違う。
 この世界でも魔術を追求していけば、こういったデザインからなる室内になるのかな。
 他と比べて未来的だ。

「中身は空ですね」
 俺の側に立つと、コクリコはカプセルを近くで眺める。カプセルの材質を調べるかのようにワンドでコツコツと叩きながら。
 薄紫の液体が底に溜まっているあたり、カプセルの中身は取り出された後だと考えるべきだろう。
 
 カプセルの高さは、その前に立つコクリコと変わらないくらいの140㎝ほど。
 大人や大きな生物を保管していたとは思えない。小型の生物でも入っていたのだろうか?
 
 ――再度、室内全体を見渡す。

「ふむ。あのデカいムカデヤスデが巣くっていた割には、あんまり散らかっていないな」
 あれだけの巨体が動き回れば、色々と倒したり破壊したりするだろうけど、あまりそういった状態にはなっていない。
 ベルが来るまで暗いこの室内で眠っていたのだろうか?
 起こされてジャンパーから出てきたという感じかな。

「トールこっちだ」
 一つのカプセルの前でゲッコーさんが手招き。
 応じて向かえば、他と違ったカプセルがあった。
 しっかりと液体が満たされたカプセル。
 液体の中には小さな影が浮いており、しっかりと影を注視すれば――、

「コイツは……マンティコアですかね?」

「姿形からしてそうだろう」
 薄紫の液体の中ではマンティコアが眠るように入っていた。
 ただ俺達の知るチコたちと違い、カプセルの中に入っているのは小型犬ほどのサイズしかない。
 こうなると愛玩だよな。

「愛らしいが……」
 俺達に続いてそれを目にするベルの声は仄暗い。
 どうやらこのマンティコアは眠ってはいるが、目覚めることのない永眠のようだ。

「マンティコアってこうやって生み出すんでしょうね」

「だろうな。最初から象みたいにデカいなんてありえないだろうからな」
 返してくるゲッコーさんは既に別の場所を物色。
 引き出しなんかを探っていた。

「それにしてもこの亡骸は腐敗していないな。今にも目を開きそうなくらいに生気を感じるのに。この液体の効果なのかな?」

「メインテインって魔法を知ってる?」

「知らない」
 リンに即答すれば、現状維持を可能とする中位魔法だと教えてくれる。
 この場合は、亡骸が腐らないために使用されているんだろう。
 
 本来は大きな怪我に対し、回復魔法、アイテムで治療する時の補助魔法として使用されるという。
 大きな怪我となれば回復を上回るダメージによって、治癒が間に合わず死に至る可能性がある。
 怪我のダメージの進行を止めて現状維持させ、回復の成功率を高めるのだそうだ。
 でもそれだと謎も残る。

「その魔法自体の維持はこんなにも続くのか? この魔法を発動してどのくらい経過してんだろう?」

「ざっと半年だろう」
 机なんかに積もった埃の具合からゲッコーさんが推測。
 お礼をいいつつリンに体を向けて、

「半年も魔法発動を維持できるもんなのか?」
 
「難しいわね。まあ私なら出来るけど」
 と、サラッと自慢。
 でも有り難い指標でもある。

「リンに出来てもそれ以外では難しいか」

「私は出来ますよ」

「うん、まずはこの魔法を覚えてからそう言った事は言わないと説得力がないぞ」

「こんなしょっぱい魔法を私が覚えるとでも? 攻撃魔法以外に興味はないです」
 なにを自慢げに言ってんだか。
 出来もしない事を自信を持って言えるコクリコはスルーしつつ、リンに再度問えば、

「出来る存在は探せば出てくるでしょうけど、探す方が大変よ」
 リンほどのクラスを探せって無理があるもんな。

「シャルナ」
 ならばここは長命で様々な魔法を扱えるエルフという種族はどうだろうかと質問。

「う~ん出来るかもしれないけど、この場に留まらないで離れた位置からずっとここにメインテインを唱え続けるとかってのは……」
 だよね……。
 
 一度の魔法使用による持続時間ってのがどのくらいかは術者によって違うだろうが、半年もメインテインの発動、しかも遠隔でってのはどう考えても無理があるよな。
 となるとこの液体に付与されたメインテインという魔法がずっとその効果を発動しているって事か?
 リンにそれも質問するけど、返ってきたのは首を左右に振る動きだけ。
 
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