異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ミルド領

PHASE-996【セブンとゼロより多いね】

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「戦いの最中ですが、トールが変態に見えます」

「いいから目の前の相手に集中しなさい!」
 コクリコの発言は俺の心にズンッときたし、そのフォローをしているシャルナとマイヤが俺を少しだけど残念な目で見ているような気がした……。
 
 いや、その視線はおかしいよね。
 
 これは戦いであって、しかも必死になってマウントまで取ったのに、なんでそんな目を向けられるのだろう。
 生死をかけた戦いなんだから、そこに男も女も関係ないからな。
 もしかしたら、俺の心の声である【ぐへへ】が聞こえたのかもしれんが、俺はこの戦いをしっかりと勝利するためにも、優位である膂力でしっかりと押さえつけてから勝利者となる予定なんだよ。

 なので――、

「絶対にどかない。ここで抵抗力を奪って――」

「バーストフレア!」

「まだ喋ってる途中でしょうが!」
 俺の下方から燦燦とした赤い輝きが顕現。
 目にしたことのある連鎖爆発を発生させる、上位の炎爆魔法。
 ウォーターカーテンを唱え、跨いでいたマジョリカからバックステップで距離をとりつつ、更にイグニースを自分の前面に展開。
 連鎖爆発は、俺のウォーターカーテンに触れて爆ぜる。
 つまりはマジョリカの目の前で爆発したことになる。
 間違いなくダメージを被っている事だろう。

「そこまでして俺を引き剥がしたかったのか」
 男に対する嫌悪を感じ取ることが出来たよ。
 決して、俺個人に対しての嫌悪じゃないことを祈りたい。
 イケメンならマウントをとり続けてもいい。って事ではないと強く祈りたい。

「戦いの中で私を押し倒すまで追い込んできたのは、お前が初めてだぞ」
 爆煙の中からゆらりと立ち上がる影。
 爆煙の向こうから聞こえてくる声は激しい怒りを感じさせる。
 よほど押し倒されたのが嫌だったようだ。
 影は右手で何かを取り出す仕草を行い、顔を上に向けていた。
 ポーション系の回復アイテムを顔にかけているといったところか。
 
 一気に距離を縮めて爆煙の先に向かうよりも――、俺が投げたマジョリカの愛刀を収める鞘と、マジョリカとを繋げる線上を遮るように立つことを選択。

「ふぅ」
 マジョリカが息を一つ行えば、それに呼応したかのように北の地に風が吹く。
 バーストフレアによって生じた爆煙が風に流される様は、次の幕が開くかのようだった。

「顔は大丈夫なようで」

「戦いの最中に相手への心配か? やはり女だとみて侮っているのか?」

「女を侮るなんて考えた事もねえって言ってんだろ」
 女だからとかいちいち反応している時点で、性別を気にしてんのはそっちなんだよな。
 
「男というのは下手したてに出てから女を油断させる」

「そんなテクニック持ってたら活用してるわい!」
 出来ねえからこちとら童貞なんだよ! なめんな!
 って、もの凄く説得力のある発言を大音声で返したかったが、それを実行すると俺に対する信頼度――特に野郎たちからのが急落しそうだから言わない。

「くだらん話に乗っかってくれて助かる。時間を得られた」

「お、そうだな。でもそれはお互い様だろ」
 しっかりと傷が癒えたご様子。
 早い回復からして、使えば即効果が出て来るハイポーションってところか。

「この様な時間を与えてくれて感謝する」

「いえいえ」
 余裕の姿で返しとく。
 本音は回復させないために、一気に追撃に出るべきだったと後悔。
 後悔の原因となったのは、やはり俺の後方にある鞘。
 この鞘によるマジックロンパイアによって死にかけたってのもあるから、こっちを警戒することに傾倒してしまった。

「さて、醜悪な鞘だが家宝なのでな――回収させてもらう」

「なんなら好みのデザインにしてから後で返してあげるってのはどうだろうか? ここには俺のギルドで優秀なドワーフの職人もいることだし」
 そういえばギムロンはここには来てないな。
 しっかりと公爵家の宝刀であるウーヴリールの修繕に従事してくれているようだな。

「ならば貴様の首を代金として、そのドワーフに修繕させよう」

「俺の首が代金になるかよ」

「なるさ。トップの死を目にして怯え、こちらの言うとおりに動くだろう」
 ハッ!
 つい笑っちまったぜ。

「なにがおかしい?」

「アホか。俺のギルドメンバーをなめんなよ。俺がもし命を落としたとしても、その程度で精神が揺らぐかよ。むしろしっかりと報復してくれるね」

「その通りですよ会頭!」
 ガラドスクと筋肉のぶつかり合いをする最中に俺に返してくれるカイル。
 双方いい勝負である。
 カイルと良い勝負するんだから、ガラドスクってやっぱり強いんだな。

「信頼されてなによりだな」

「お宅もな」

「では鞘を回収する」

「その前にまたマウントとってやんよ」

「もう訪れることはない! サーバントエッジ」
 発するとマジョリカの鎧胸部のデザインだったと思っていたモノが一斉に空中に放たれる。

「なんだよそれ!?」
 肋をイメージしたデザインだと思っていたが、それも武器かよ!

「ずるいぞ! アイスラッガーだって一つ。ゼロスラッガーでも二つなのに、一気に十二も操るとか! 俺じゃなくてベリアル軍団を倒してこい!」

「そういった妄想話は一人の時だけにしておけ。妄想が得意な分、一人寝室でも励めるだろう。経験のない勇者殿」
 ――……童貞だってバレバレじゃねえか……。
 馬鹿にした笑みを向けてくるなよ……。大人の美人のお姉さん。

【そんなテクニック持ってたら活用してるわい!】なんて発言をしなければよかった……。
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