異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,024 / 1,861
エルフの国

PHASE-1024【げえっ】

しおりを挟む
 ――――。
 
 マジョリカ達と別れ公都を離れ、ノクタスク平野を南下。
 ――――ブルホーン山の要塞へと到着。
 王様たちは雪中行軍ってのは慣れているから大丈夫とか言っていたけど、正直、大変だった。
 
 俺ではなく――、

「よくやったぞダイフク」
 褒めて首部分を撫でてあげれば、ブルルとご満悦。
 雪が深かろうがお構いなしに歩き続けることが出来るという気概が伝わってくる。

「ご苦労様でした」

「俺の名馬がね」
 門前で待ってくれていた要塞兵の中の一人が、俺達の雪中行軍を労いつつ、俺の発言でダイフクの方にも労いの言葉をかけていた。
 サラブレッドのような馬体からなるダイフクの足で、雪山を移動してきた事には心底おどろいていた。
 この辺の馬は農耕馬みたいな馬体からなる足が太いのばかりだからね。
 ダイフクとは真逆の馬体だもんな。

 俺達がここへと到着するのを待っていた要塞兵たちは、挨拶を済ませれば直ぐさま温かいスープを提供してくれる。
 その後、要塞内で暖を取りつつ歓待を受け、一日が経過。

 天が俺達の移動を見守ってくれているかのように晴れ渡り、爽快な青空の下を移動しようと要塞から出ようとしたところで、

「げえっ」
 と、JLTVの方から声が聞こえてくる。
 そのまま関羽と続きそうなリアクションの声を発したのはシャルナだった。
 車内を覗けば凄く嫌そうな表情を浮かべている。
 
 原因となったのは――、前日ノクタスク平野方向の門から入って、本日ウルガル平野へと続く開かれた門から出る時、そこで数人の人影を見たことによるもの。

 その人影は長く美しい金髪を靡かせている方々だった。
 雲一つない青空。地面の雪が日の光を反射し、美しい金髪が更に際立って輝いていた。

 人間の金髪とはまた違い、細い金糸を思わせる髪。笹の葉のような形をした長い耳が特徴。
 既視感があるのはシャルナと同じだからだろう。
 つまりは、エルフの方々。
 シャルナのげえっという美人が発してはならない残念な声もしっかりと耳朶に届いたようだった。
 その証拠に、目の前のエルフさんの長い耳がシャルナの発言に連動するように、ピクピクと動いていたからね。

「おいシャルナ。お客さんだぞ」

「分かってるわよ!」
 なんでそんな不機嫌なんだよ……。
 そう言えばコイツ、カリオネル討伐の時に協力してくれたエルフの皆さんに対しても嫌そうな感じで対応してたし、コソコソとしてたな。
 
 いいとこのお嬢様だってのは何となく分かっているんだけど、間違いなく跳ねっ返りで周囲を困らせるお嬢様なんだろうな。
 ――……二千歳ちかい年齢に対してお嬢様ってのも凄く違和感があるし、その歳で跳ね返りってのもなんだかな……。
 下車し、正面で待ってくれているエルフさん達の方向に足を進めて発した一言は、

「なに?」
 と、腰に手を当ててのぶっきらぼうな発言だった。
 この態度に、下馬して待っていたエルフさん達の肩がそろって落ちたのが見て取れた。

「シャルナ様……」

「「「「様!?」」」」

「後方、声を揃えて驚かない」
 いいとこの娘とは想像していたけども、様で敬称される立場なんだな。
 以前のエルフさんもシャルナ殿って呼んでいたし、かなりの権力を持った一族の娘なのかもしれん。
 王族って質問には否定で返してきたけど、それに近い存在とみた。

「それでなんの用なの? ルーシャンナル」
 と、呼ばれた中央に立つエルフさんが恭しく一礼。
 苦笑いを湛えつつもしっかりと礼をするあたり、シャルナはやはりお偉いさんのようだ。

「この地の戦いに参加されたカーミルト様に、近いうちに顔を出すと言っておられたそうで」

「――――記憶にないわね」
 お! 政治屋さんかな?

「ええ……」
 ルーシャンナルってエルフさんが苦笑いから困った表情に変わったので、

「言ってた。言ってましたよ」
 と、シャルナの後方から俺が援護射撃。
 すかさずシャルナが俺を睨んでくる。
 それに対して肩を竦めておどけてみせる俺氏。
 それに対して大きな舌打ちで返してくるシャルナ氏。

「新公爵様が証人となってくださいました。さあ、短い期間でもよいので国に戻ってください」

「ええ~」

「ええ……」
 こっからだとシャルナの背中しか見えないけど、ルーシャンナルさんの同音による返しと表情で、シャルナの表情は想像できる。
 シャルナのヤツ、本当に嫌な顔を作って、エルフさん達を見ているんだろうな。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...