異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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エルフの国

PHASE-1030【ご家族の方のようで】

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「この木々を取り囲む闇は――霧でしょうか?」
 陽の光を受けないから漆黒に見えるけども、見慣れてくると闇が動いているようにも見える。
 生き物みたいだと思ってしまったのもそれ故だろう。

「その通りです。ビジョンであっても先は見えないでしょう」

「ええまったく。ただの霧じゃないんでしょ」

「この霧は透視、遠隔からの監視を無効化させる力が宿っています」

「エルフの力ってヤツですか?」

「エルフの力と知恵によるものと答えさせてもらいます」
 長い年月により培ってきた知識から、自然に存在するマナを上手く利用するのがエルフの営み。
 自然界のマナを使用し、国の外周に霧を留めて循環。
 そこにマナの一つであるネイコスをエルフが施すことで、霧の内側を見えないようにしているそうだ。
 また、この霧によって瘴気も防ぐ事が可能だという。
 
 心の友であるダンブル子爵が統治するナムセスから、領民達がこの国に避難したということだったけど、この霧の結界によって瘴気の脅威から守られていたわけだ。

 俺達のように余所から来た者たちはこの霧から先を見通すことは出来ないそうだけども、この地に住まうエルフさん達の目ならば霧の先もしっかりと見えているという。

「こりゃここに住まうエルフさん達がいないと道に迷ってしまいますね」

「ええ。なのでしっかりと付いてきてください」
 ルーシャンナルさんの誘導で俺達は霧の中へと入っていく。
 入った先は暗闇そのもの。指呼の距離程度しか離れていなかった先頭のルーシャンナルさんの姿は完全に見えなくなる。
 前方からの声に素直に従って、ダイフクには進んでもらう。
 ダイフクに、コクリコが乗る爺様にもらった馬車を引く馬たちは優秀で助かる。
 視界を奪われる暗闇の中でも恐れることなく足を進めてくれるんだからね。
 ゲッコーさんも声を頼りにするけど、それはルーシャンナルさんや随伴するエルフさんの声ではなく、同乗するシャルナの声。
 当然といえば当然だが、シャルナもこの霧の中をしっかりと見通せるようだ。

「もう心配ないですよ」
 と、ルーシャンナルさん。
 発言どおり、程なくすれば優しいあかりがポツポツと視界に入ってくる。
 幻想的な青白い輝きはミスリルを思わせるもので、闇に負けないその輝きが一帯を照らしていた。
 
 一つの光の大きさは蛍程度だけども、小さくても力強く、この霧の影響を受けることのない光の恩恵で、誘導の必要がなくなった。
 この光はこの国に対して友好的な者達が訪れた時に灯されるそうで、有事となった場合はこの灯りがつくことはないそうだ。
 つまりはこの霧に敵性勢力が侵入した場合、視界を奪われる霧の中で抵抗できないまま倒されるという事になるんだろう。

「――コイツは凄いね」
 自然のままに生えていた木々から、整然と生える木々。
 それに続いて出てきたのは、巨木と巨木がくっつくようにして防御壁を象っている光景。
 綺麗に揃った木々の高さは百メートルはある。
 木の中心部分にはうろを目にすることも出来る。
 等間隔に洞が同じ高さにある事から、天然ではなく人工的なもののようだ。
 その証拠に、洞の中からは光が漏れていた。
 洞は見張りの休憩室だったり狭間さまとして活用されているんだろう。
 木の枝を利用したタレットもある。
 自然を利用し、防御壁とするエルフの技巧。
 優しい灯りも相まって、

「何とも神秘的で神々しい」

「まったくじゃの。流石はエルフじゃ」
 外に出て深呼吸をしつつ巨木の壁を見上げるギムロンは、凝った腕や腰を捻りながら返してくる。
 コキコキという小気味のいい音ではなく、ゴキゴキからなる豪快な音は如何にもドワーフ然としていた。
 馬車と比べて安定感に勝るJLTVでの移動だったが、流石に疲れたご様子。

 対して、

「まだ門まで到着しないのですか? 流石に空腹ですよ」
 馬車に乗っているコクリコは疲れよりも空腹の方が勝っている模様。
 さっきゴブリン達にレーションをやっていたのを目にしたから余計に腹が減っているようだ。

「神秘的なのは何よりだけども、息苦しくないかしら?」

「霊に囲まれた古城の主であるアンデッドにはこの空気は合わないようね~」
 シャルナの挑発に、

「そんなおばあさまは力の間では肩で息をしていたわね~。寄る年波には勝てないようで」

「はぁぁぁぁぁぁあ!」
 結局リンの挑発にいつも乗ってしまうシャルナが負けるって感じだな:……。
 リンも人間から見たら五百年の歳月を過ごしているけども、その約四倍のシャルナがリンの挑発に毎度毎度のるのもどうかとは思う。

「よ~し。そこまでに――」

「相変わらず直上な跳ねっ返りだ。家族として恥ずかしいぞ……」
 俺が止めようとしたところで、俺の発言が止められる。
 聞いたことのない声は、巨木からなる防御壁の方向から。
 届いた途端に車内にいたシャルナの長い耳がピンと横になったのが見えた。
 まるで緊張とか怖い状況に陥った猫のイカ耳のようだ。

 樹上からふわりと音も無く降り立つ人物。
 降り立つ人物は間違いなくシャルナのことを家族と発言した。
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