異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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エルフの国

PHASE-1047【逆テーパー】

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 ――恐怖から安堵へと変わったようで、子供二人の足取りが軽快になる。

「ふぃぃぃ……」
 対して緊急時の動きが嘘だったかのように足取りが重くなったギムロンは、酒を飲みつつ最後尾をついてくる。
 まあいいですけど。
 警戒が緩い状態になるってことは、周辺に危険がないという長年の経験からの判断なんだろう。
 ――しばらく下生えを踏みしだきながら進んで行けば、

「あの、もうこの辺りでいいので」
 と、ハウルーシ君。
 いやいや危険だからしっかりと集落まで連れて行くからと伝えると、とても喜んだ顔を見せてくれる。
 なんだろう……。
 人に優しくされるという環境下ではないのかな……。
 やはり辛い生活をしているのかもしれない……。

「ですがやはり……」
 と断りを入れてくるから、

「いや最後ま――」

「とまれ!」
 集落まで連れて行こうと再度つたえようとしたところで樹上から強い語調。
 明らかに怒りが混じったモノだ。この国に入ってからこんな声を向けられるのは初めてだな。
 ここでギムロンが上を見上げつつ即座に俺の横に立って構える辺り有能さんだよね。
 しかも横に立つってのが嬉しい。
 前に立つとなれば、俺を守る=まだまだ頼りないって思われているとなるけど、横となれば対等な存在として見てもらっているということ。
 俺の成長を認めてくれているようで嬉しい。
 ミストウルフの時も俺に前衛を任せてくれたし。

「それに比べて……」
 コクリコは狼の時と違って前衛。
 コイツの場合はただただ目立ちたいからってやつだろうが……。

「さあ、降りてきなさい。それとも私達が怖くて降りて来られませんか?」

「なんだと!」
 おっと別方向からの声。
 しかも背後の樹上から。
 となると、俺達は囲まれている状況だろうな。
 気配を消すのが上手いね。

「ん、人間――!?」

「こんな所に来るとは! 愚かな迷い人め!」
 一人が降りてくる。
 有無も言わさず手にした棍棒で狙ってくるのは、挑発じみた発言のコクリコではなく俺。
 なんで俺――と思いつつ、自衛のために、

「ていっ!」

「がっ!?」
 振り下ろすタイミングに合わせて手首を掴んで投げる。
 手心のために地面に触れる瞬間にこっちに引っ張って衝撃を緩和。
 力量の感想としては、大したことないし、何より体が軽い。

「貴様よくも!」

「まって。正当防衛だろ」

「やめてください!」
 ここで俺達の前に立って小さな体で大の字を書くのはハウルーシ君。

「なぜ人間やドワーフといる。ハウルーシ!」

「この方々に命を救ってもらいました」

「――コイツ等に?」
 言いつつ俺達を囲むように降りてくるのは、ハウルーシ君と先ほど俺が投げ飛ばした人物と同じ肌、髪、瞳の色からなる者達。
 即ちダークエルフ。
 服装に煌びやかさはなく、穴の空いた部分なんかは別の生地を使用したアップリケ。
 生活の辛さが伝わってくる身なりだった。
 ハウルーシ君と違ってぎらついた紫色の瞳は明らかにこちらに敵意を抱いている。

「助けてくれたことには感謝する。サルタナも無事なようだ」
 ハーフエルフの子供が無事だった事の方に安堵の声を漏らす辺り、ルミナングスさんが言うように、もしサルタナ君に何かあったらハイエルフを中心とした者達から報復を受けると思っているようだ。
 安堵の声ではあるが、俺達に向ける警戒感は一切解除されない。
 
 弓を作ることや利器の使用を禁じられた者達。
 己が身を守るために手にすることが許されるのは、聞いたとおりの棍棒のみ。
 警戒のためにこちらに先端を向けてくる棍棒は逆テーパー形状で、先端からグリップエンドまでの長さは四十センチほどだろう。

 使い手が有能なら棍棒も脅威にはなるが、周囲を取り囲む者達の弱々しく痩せこけた体だと脅威を感じる事は出来ない。
 実際、投げた一人も軽かったしな。
 
 この国に入る時に出会ったゴブリン達が手にしていた尖頭器の方が立派。

「勇者様。本当にここまででいいので。これ以上ここで騒ぎが大きくなると監視者の方々も来られますし……」

「あ、うん」
 ハウルーシ君が発する監視者という言葉よりも、先に出た勇者という単語にダークエルフの大人達は強く反応。
 目つきが一層険しいものに変わったのが見て取れた。
 どうやら俺の好感度はここでは低い模様。
 国の中央にいるエルフ達と相対するような方々だからな。考え方も正反対なんだろうな。

 一人を戦闘不能にしてしまったし、これ以上、刺激するのもよくないだろう。
 何よりハウルーシ君が言うように、監視の連中が来れば大事になる。
 向こうサイドは俺に対して好感度が高いからな。
 俺を理由にされて悶着が起こるのも困るというもの。

「ではハウルーシ君の事をお願いします」

「当然だ! 用件が済んだのならさっさと去れ!」

「ネクレスさん……その様な言い方は……」
 ハウルーシ君が呼んだ、リーダー格と思われるネクレスなる人物から怒気による返事を投げつけられる。
 やはりダークエルフさん達からの好感度は低いね。
 ハウルーシ君はその中では希有なのかもな。

 そんなネクレスなる人物と俺との間にハウルーシ君が立ち、俺に対して頭を下げてくる。
 出来たお子さんである。
 エルフとしてはまだまだ幼い少年のこの姿と、氏族であるルミナングスさんが重なってしまった。

 板挟みで胃をやられないように願いつつ、俺達は相手側の言い分に従ってサルタナ君を連れてその場から離れた。
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