異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,051 / 1,861
エルフの国

PHASE-1051【細身、細目でも美形】

しおりを挟む
 ――――さてさてさ~て。

 こっからは分かりやすくない時間になるって事なんだろうね~。

「なんだ? 随分と足取りが重いようだが」

「ベルも俺達と一緒になって国を見て回っていれば、同じような気持ちになっただろうさ」

「そうなっただろうな。あらましはコクリコから聞いたからな」
 階級制自体が必ずしも悪いってわけじゃないんだろうが、この国の場合ずっと変わらないから濁っていってるように思える。
 この国を訪れて一日程度の俺のようなお馬鹿さんでも理解してしまうんだからな。
 実際は俺の理解以上に濁ってんだろうな。
 
「勇者殿、あと少しで到着します」
 俺とベルの会話を先頭で耳にしていたルミナングスさんは複雑な表情を浮かべながら、謁見の間まであと少しと伝えてくる。
 
 ルミナングスさんの屋敷はドリルブロッコリーの一部でもあるので、屋敷から城内へと入れば、謁見の間まではさほど距離はなかった。

 ――流石と言うべきか、通路には等間隔でハイエルフからなる近衛の方々が立哨として警護に当たっている。
 でも俺が通る度に必ず会釈をしてくる。
 キリッとした表情をわずかに緩ませ、笑顔を俺に向けてくれる。
 やっぱり俺ってこっちでは人気者なんだよな。
 ダークエルフさん達とは反応が真逆すぎる。
 
 こりゃマジでエルフの美人さん達が俺を取り囲んでくるような嬉しいイベントも発生しそうだな。

「国を見て回った割には顔がゆるんでいるな。今からエルフの王と会うのだ。難しくても精悍な表情を作っておけ」
 難しいってなに? それは俺のルックスが勇者として残念フェイスと遠回しに言っているのだろうか……。
 もしそうだとしたら俺の精神世界アストラルサイドにかなりのダメージが入ってしまう……。
 
 ――が、

「指摘はありがたいけど……ベルも大概だぞ」

「――何処がだ?」

「何処って……抱っこしてんだろうが」

「にゃ~」
 まったくアンデッドの四足歩行愛玩動物め!
 羨ましいったらありゃしない。
 ベルのロケットおっぱいの中でぬくぬくとしやがって! アンデッドなのに! 体温がないアンデッドがぬくぬくってどうよ。ソコかわって!

「ミユキこそ預けろよ。エルフ王に会うんだから」

「出来るわけないだろう! まだ赤ちゃんなのだぞ!」

「はい。ごめんなさい……」
 怒気というか殺気をベルの声から感じ取った俺は、即謝罪のヘタレな姿を近衛の方々の前でさらしてしまった……。
 まだ赤ちゃんではなく、ずっとその姿のままなんだよ。アンデッドだからな――ってツッコミすら出来なかったよ……。

「二人とも会話はそのくらいにしておけ」
 背後のゲッコーさんが言うように、ここまでのようだな。
 廊下から次へと続く扉の側に立つ近衛の二人がその扉を開けば、同じ廊下の風景が続くのだが――一歩踏み入っただけで明らかに空気が変わったのを肌で感じとれた。
 
 森閑とした空間。自分たち以外は誰もいないといった錯覚を起こしそうになる。
 実際は先ほどまでの廊下にもいたように近衛がいるんだけど、この廊下から近衛の質が格段に上がっていた。
 壁に沿って立ってはいるが、そこにいるのにいないように思わせるほど気配の消し方が秀逸。
 近衛の中でも選りすぐりの実力者なのだろう。
 そんな実力者たちが守る廊下となれば、次の扉がいよいよって事か。
 
 そしてこの廊下から絨毯の質も上がった。
 王族や貴族のデザインセンスってのは種族が違えど似通っているようで、メインが赤。差し色が金色からなる絨毯のデザインは見慣れたものだった。
 絨毯は踝まで隠れるほどに毛足が密集して長く、その場で寝転がりたい衝動にかられるほど。
 半長靴の靴底から心地よさが体全体に伝わってくる。

「これはこれはルミナングス殿」

「プロマミナス殿。お久しぶりですな」

「あまり表にはでないので」
 と、次の扉の前で近衛と一緒に待機していた人物とルミナングスさんが会話を交わし、俺の後方では溜め息が漏れる。
 シャルナのものだった。
 目の前にいるプロマミナスなるエルフの存在に不愉快さを滲ませているのが分かる。
 
 ――長身痩躯の細目。
 他のエルフ同様に金髪碧眼。そして目を引くサークレット。
 ほのかに青みがかった輝きを発していることから、ミスリル製のサークレットだと思われる。
 サークレットの中央にはタリスマンか宝石と思われる赤色の石が埋め込まれている。
 服装は薄い緑色のローブ。
 身なりからして魔術師か文官といった感じか。
 お互いに殿と敬称をつけるあたり、このプロマミナス氏も氏族なんだろう。

「おお! これはこれは」
 プロマミナス氏の外見や発言から階級を推理していれば、その細目と目が合う。
 細身で細目であってもそこはエルフ。
 ぶれない美形である。
 そんな美形がツカツカとこちらへと歩み寄ってくる。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...