異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1116【耳に届くイケボ】

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「おのれ! ふざけた小娘だ! 何よりもミスリルの使い方が気に入らん!」

「何を言いますかね。使い方が気に入らないと言いながらも、貴方方の矢は我が得物に叩き落とされているわけです。となれば――それは負け惜しみというものですよ」
 手にするミスリルフライパンを肩に当てつつ、クツクツと強者としての嘲笑を樹上へと向ければダークエルフさん達は即エンレージ。
 次々と樹上から矢を放ち、それに合わせて接近担当たちが着地という連携。
 接近担当たちは手にした利器を構えつつ、魔法攻撃も行ってくる。
 間違いなく全てが中位魔法以上。
 
 矢と多彩な魔法がコクリコへと一斉に放たれるも――、

「脆弱な魔法ね」
 と、俺の後方からリンがそう発せば全てを障壁で防いでくれる。
 中位以上からなる魔法を脆弱呼ばわりし、尚且つ全てを容易く防ぐ。
 これを目にすると、接近担当であるダークエルフさん達はコクリコへと迫る勢いが一気に削がれてしまい、足の運びが鈍くなる。
 
「別に必要はなかったのですがね」
 強者スタイルのコクリコはそれらを躱して迎撃するつもりだったようだ。

「それは失礼。私のセンスを馬鹿にした事にちょっと苛立っちゃったから」
 ダークエルフさん達のミスリルフライパンに対する否定的な発言に、元持ち主はご立腹だったようだ。

「リンはエルダー達と一緒にサルタナを頼む。あと全体のフォローを」
 
「お任せ」
 コクリコが開始して直ぐにサルタナも合流。
 肩で息をしつつも、戦いが始まっていることにパニックにはならず、しっかりと状況を把握するように全体を見渡すだけの冷静さがあった。
 我が弟子として誇らしい。

「――さて」
 リンが全体を見てくれるので、俺たちも安心して前に出られるというものだ。

「よっしゃ! ワシらも嬢ちゃんに続くかの」
 巌のような手とバトルアックスの柄に、口に含んだ酒を吹きかけてから絞るように持ち、ドスドスと威圧しつつ前へと出るギムロン。
 その一動作だけで相手の勢いが削がれる威風堂々さ。

「ドワーフなんぞに呑まれるな! 放て!」

「ハッハー! こりゃいいわい」
 樹上からの矢はリンのプロテクションによって全てが防がれる。
 遠距離からの攻撃は脅威なしと判断すれば、ギムロンは樽のような体で一気に接近戦へと持ち込んでいく。

「勇者殿」

「ルーシャンナルさんは隊伍の真ん中で前衛後衛のサポートをお願いします」

「分かりました」
 さて、さっきは残火を抜いての戦いだったけども――、

「相手に対して負の感情は湧かないんだよね」
 佩いている残火を鞘ごと外してから手にする。
 この方々の今までの生活環境を考えれば同情もする。甘々な思考なのは自分でも分かってはいるけど――、ここは不殺による制圧を選択させていただく。
 今後の交渉の為でもあるしな。
 死者が出るのと出ないのでは大きく印象も変わるからね。

「優しいの~会頭は。相手にするならワシよりそっちを狙った方がいいぞ。ワシはこの蛤刃を容赦なく頭蓋に叩き込んでいくからの!」
 目を剥いて立派な髭に覆われた口端を吊り上げ、バトルアックスを構えての威圧。
 ネクレス氏よりもギムロンにジャック・トランスを見たね。
 
 ――……ギムロンの威圧は大したもんだよ。直ぐさまダークエルフさん達の視線が俺に集中するからね。

「まったくギムロンめ!」
 そういった俺にばっかり対応させようって考えはスパルタ二人だけで十分なんだよ!

「はぁっ!」

「遅いっす!」
 俺に注がれる視線の中で殺気を宿した一人が槍による刺突。
 一切迷いがない穂先は俺の顔面に向けてのもの。
 
 上半身を傾けて躱しつつ一歩踏み込み、お返しとばかりに鞘による突きを腹部に打ち込む。
 革と金属のハイブリッドなブレストプレートは腹部までは装備がしっかりとは行き届いておらず、くの字になって倒れてくれる。
 本来は鎖帷子とかと併用するんだろうね。
 やはり装備は最低限で調えるのが精一杯か。

「おらっ! 次ぃ! お前たちに稽古つけてやんよ」

「上から目線だな! 短命種風情が!」

「よいしょ」
 お怒りのまま迫ってくるロングソードの上段の構えに対して、こっちは抜き胴で対応。
 これまた一撃で倒す。
 立て続けにラピッドを使用して一気に接近し、樹上から降下してきた前衛に鞘を打ち込んでいく。
 
 ――うん。
 
 ダークエルフさん達、動きは素晴らしいけど今の俺なら十分に対応できる。
 実力的にはポルパロングのところにいた正規兵よりちょい上ってところかな。
 苦戦するって事はない。

「といって油断はしないけど――ねっ!」
 側面から迫ってくる相手には蹴りを一撃。
 蹴りを受ければ体勢を崩しながら後退り、その後ろには――、

「ダウンで宜しく」

「おうよ!」
 と、樽型ボディーが軽快に跳躍すれば、拳骨を頭部に一発。
 巌のような拳による一撃により、白目となって力なく地面へと倒れる。
 蛤刃を叩き込むなんて脅しながらも、しっかりと非殺傷で対応してくれるのがいいね。

「さあ、さあ、さあ! どうしました。もっと私を滾らせてくださいよ!」
 なんとも調子に乗ってるね~。
 よくよく考えたらブレーキ役の二人が今回は別行動になっているからな。コクリコの調子の乗り方は天井知らずとなるだろう。
 俺がしっかりと抑え役にならないといけないのだろうが、あいつが俺の言うことを聞くことはないからな。
 派手にという観点からすれば、むしろ最高の仕事をしてくれてはいるけどね。
 挑発するコクリコ。そして刃を抜くことなく鞘で戦う俺。必然的に隊伍の中でタゲ取り役になってしまう。
 
 次々と俺とコクリコに迫ってくるダークエルフさん達。
 樹上から着地し、第二波――第三波とウェーブが続くけども、しっかりと対応は出来ている。
 
 ――――そんな最中に――、

『なんとも派手じゃないか』
 耳元に渋い男前な声が聞こえてきたのは吉兆。
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