異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1124【逆境にこそ燃えるそうな】

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「リンファさん」

「すみません。殿下の私事までは流石に熟知しておりません」
 でしょうね。王族であるエルダールがウーマンヤールの族長と恋仲とか知っていたらまず俺たちに言ってくれるでしょうし、俺たちと同じようなリアクションはしないですよね。
 そもそも階級が違いすぎるのにどうやって出会ったの? 接点はどこ?
 
 考えれば考えるほど、目の前の恋する少女の妄想としか思えないんですが……。
 その妄想に侍女さん達が付き合っているとしか思えないんだけど……。
 でも怒気の混じる返しからするに、本当なんだろうな。

 ――……まあ、思い当たる節があるといえば――あったりする。
 そう、あれはルマリアさんとアルテリミーアさんをこのゲド集落に送り届ける時だったな。
 ファロンド邸を訪れたエリスの発言。
 自分も随伴すると言ったあの時だ。
 あの時エリスは、自分がついていけば何とかなると確かに言っていた。
 問うた時のあの動き、いま正に目の前の少女が見せるくねくねダンスのソレだ。
 あの時はあれ以上、聞いてはいけないという俺の野生の勘が囁いたので話題を反らしたのを覚えている。
 あの時は野生の勘だと思ったが……。そうか……。童貞の勘だったんだな……。

 ――……となれば――だ。

「本当に――恋仲なんだね?」

「はい!」
 おお、今までで一番元気のいい即答だったね。
 
 ――前略、お母ちゃん。
 俺、異世界で頑張っています。そしてエルフの子供たちの師匠になりました。
 弟子達に恥ずかしくない師匠であるために頑張る姿を見せたかったのですが、二番弟子にはあろう事か彼女がいたとです。
 師である俺は彼女もいなけりゃ童貞だというのに、弟子には彼女がいたとです……。
 
 ――…………。
 
 ――……。

「Nuts!」

「悔しさが思いっきり口から出ているぞ……」

「これは恥ずかしいところを」
 ゲッコーさんの指摘で負のトリップから正気に戻る。
 嫉妬に駆られ、声に出てしまったか……。
 あいつ彼女持ちとか羨ましすぎだろ。
 まあ王族だから、許嫁がいてもなんの問題もないけども――、

「まさかウーマンヤールの族長がその許嫁とはね……」

「とても光栄なことです」
 分かるよ。その喜びようからしてね。
 このまま放置すれば二人の出会いから話されそうなので止めさせる。
 階級差がある中での出会いは気になるところだが、現状それを聞くだけの余裕はない。
 そもそもが他人の恋愛話ほど聞いていてつまらないものはないからな。
 しかもエルフだ。うん百年単位での話なんてたまったもんじゃない。
 童貞である俺にうん百年単位のなれそめなんて苦行でしかない。
 長時間そんな話を聞かされるくらいなら、千日回峰行で阿闍梨を目指すね。
 物欲の塊である俺では絶対に阿闍梨は無理だけどさ。

「だが、ハイエルフとダークエルフの関係からすると周囲は大反対するだろうな。特に前者の方が」

「それは分かっておりますお髭の方」

「ドワーフのような言われ方だな」
 ゲッコーさんに笑みを湛えると、

「私もエリスヴェン殿下も逆境だからこそ燃えるのです。艱難辛苦を二人で乗り越えて素晴らしい夫婦になるつもりです」
 おお……。なんとも力強い発言でいらっしゃる。
 なんか……、聞いてるこっちの体がむず痒くなってくるぞ。
 侍女の皆さんは拍手喝采だけど。
 
 ルーシャンナルさんとリンファさんはなんとも言えない表情でそれを眺めているのが印象的だった。

「ですので私は殿下を救い出すために行動します。もちろん私達だけでは難しかったですが、ここに勇者様とお仲間様が来てくださったのは僥倖。私達と共に殿下を救い出し、流れなくていい血を止めなければなりません」

「はい」
 小柄なのに何とも胆力がある。
 肯定の一言でしか返せなかった。

「それでエリスヴェン殿下は建物のどの位置に囚われている?」

「間違いなく私の寝室だと思います」
 族長の屋敷。そしてその族長が使用する寝室ともなればこの集落において最も攻めにくい構造となっているとゲッコーさん。
 闖入者が入り込む箇所も限られいるだろうから、その箇所に立哨を置けば十分に対応できるということだ。
 これにはルリエールも首肯で返していた。
 ――とまあ、それは一般的な考えである。

「ゲッコーさん」

「居場所とルートが分かれば、屋敷を漂う霧となった狼たちを避けつつ屋敷へと侵入することも可能だろう」
 ステルスミッションの大天才――神が可能と発言してくれるのだから、エリスを救い出すの為の障害となるモノは障害にはならないというもの。

「さてルリエール嬢」

「なんでしょうかお髭様」

「お髭様……。まあいい。侍女の中で武に長けた者はいるかな?」

「もちろんです」

「それは屋敷にて立哨に当たるダークエルフよりも腕は立つかな?」

「並の者達では相手にならないのが一人おります。――ムシュハ」

「はい」
 壁に沿って立つ中から一人が応じると、鶯張りを思わせる軋む床を音を立てることなく歩き、ルリエールの側に立つ。
 170㎝はある長身の美人さん。
 佇まいからしてルリエールが言うように強者。
 前に立たれるだけで圧を感じ取ることが出来るからな。
 で、この美人さんで何か試したいことでもあるのかな? ゲッコーさん。
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