1,142 / 1,861
トール師になる
PHASE-1142【美人が台無しの笑みだよ】
しおりを挟む
「ルーシャンナルまで。どうしたのですか二人して?」
またも首を傾げる仕草。
何とも白々しいこって。
「――あんた誰だ?」
「冗談が過ぎますよ勇者様。私はリンファ・ファロンドです」
「嘘をつくなよ。ルーシャンナルさん」
「分かりました」
名を口にすれば、直ぐさま手にした弓に鏑のついた矢を番え、空へと向け――放つ。
ピュイィィィィィ――と独特な甲高い音を発しながら木々の隙間を縫うようにして鏑矢が天高く飛んでいく。
「これでこちらの増援があの防御壁から来る事になる。どのみち抵抗はさせないけどな。なので大人しくするように」
なんて言いつつ、なんか違和感を覚えてしまう。
「大人しくはしますが。なぜ私をそんなに警戒するのです?」
「霧の中では難儀するって事を言ったらアンタは肯定しただろう。なら警戒するさ」
「事実を述べただけですよ。アンタという言い方は乱暴です」
「じゃあ、もう一回聞くけど、俺だけでなくアンタも霧に包まれた先が見えないんだろう?」
「ええ」
「おかしいんだよ。あり得ないんだよ」
「何がでしょうか?」
ルーシャンナルさんと目を合わせると小さく頷いてきた。
間違いなく目の前の存在は脅威と判断していい。
「あのな、あの霧は――この国のエルフにとってはなんの効果も発揮しない。霧があろうとも視界は良好なんだよ。外の国の者や脅威となる者にのみ作用するんだそうだ。本物のリンファさんなら霧に覆われた場所だろうが見通すだろうし、何よりこの国の王族の側仕えがそんな事を知らないとかあり得ないだろうだ。また聞くぞ。お前――誰だ?」
――……。
静寂が支配する。
沈黙は正解って判断させてもらおうか。
残火の柄を絞るように握る中で、鏑矢の音に反応した防御壁にて待機していたエルフ兵が四名、樹上より降りてくる。
ルミナングスさんの部下なだけあって、現着の速さは素晴らしいの一言。
「勇者殿、それにルーシャンナル殿。どうされました?」
「侵入者です」
指さす先には王族の側仕えであり、自分たちの上司になるルミナングスさんのご息女の姿をした何者。
俺の発言に対してエルフさん達は首を傾げる――なんて事はしない。
即座に矢を番え、リンファさん――のような者へと体を向ける。
事実確認が必要だからかだろう、鏃をまだ向けることはない。
番えるだけで留まる。
「正気ですか。この私を射かけるとでも?」
「正気ですとも。城仕えのリンファ様がこの様な場所にいることが疑念を抱かせます。やましいことがないのならば、抵抗せず素直に指示に従っていただきたい」
「なんという不遜。我が父は貴方方の行為を残念に思うでしょう」
今の発言で些かたじろぐ兵士さん達。
「うるさいぞ偽物! それよりも本物はどうした!」
エルフさん達が言い返すのが難しそうだったので俺が代わりに発する。
しっかりと偽物という単語を入れて。
「ですから私が本物です」
「そんな必死の形相になっても手遅れだぞ。霧の内側は見えないって言質は取ってんだ」
追加で現着したエルフさん達に伝えるように発せば、即座に理解してくれたようで、構えは次の段階へと移行。キリリッと弦音が耳朶に届く。
もちろん鏃を向ける先は俺たちと相対する存在。
「あ~。まったくもってくだらないことで尻尾を掴まれたわね」
必死の形相だった対面する美人さんは、腕を組んでの余裕の佇みへとなって言葉を返してくる。
俺だけでなく、目の前で弓を構えるエルフ兵さん達もわずかだが足を後ろに下がらせてしまった。
美人は笑みを湛えていたが、口端は裂けるような勢いでつり上がっており、今までの淑やかさが一瞬にして消え失せた。
「捕獲しろ! リンファ様の事を聞き出す」
「無理、無駄」
相対する者が不気味な笑みのまま右足で地面を踏めば、それに合わせてエルフさん達の足元から硬化した泥の槍がいくつも現出し……全員が串刺しとなってしまった……。
串刺しにされた四人から声は上がらない。
瞬時に絶命。
泥の槍が地面へと戻れば、事切れた四人のエルフさんたちが横たわる――光景を見つつ、俺は即座にプレイギアから除細動器を召喚。
「インスタント蘇生でごめんなさいね」
四人となれば素早い蘇生が必要になるのでフルチャージではなく、パドルを一度だけすり合わせての蘇生。
ゲームプレイ時にセラが蘇生ポイントだけを稼ぐためにやる適当蘇生と同じやり方で申し訳ないが、串刺しにされて穴が空いた部分はなかったかのようにふさぎ、大きな深呼吸をすれば、上体を起こしてくれる。
「四人とも無事でなにより」
「な!?」
相対する美人の表情は不気味な笑みから驚きのものへと変わる。
「まさかその様に容易く蘇生ができるとはね。流石は勇者。不思議な物を持っている」
「どうも」
応じつつも、ふらつきながら立ち上がる四人の前へと立ち後退させる。
直ぐに回復箱をと動こうとするも、今度は俺の足元から鋭利な泥の槍が現出。
槍衾を思わせるけども――、
「今回の連戦で地面から出てくるのは嫌になるほど目にしてんだよ!」
抜刀した残火にてそれらを切り払う。
「お見事」
嘲笑によるお褒めの言葉を発する表情は、再び余裕のものへと変わってのもの。
嫌な笑い方を浮かべるけども、その笑みに見合った強さはあるようだ。
ミストウルフの時も感心したが、それ以上の存在である手練れのエルフさん四人をあっという間に仕留めるだけの実力を有した強者。
油断怠りなく対応せねば。
またも首を傾げる仕草。
何とも白々しいこって。
「――あんた誰だ?」
「冗談が過ぎますよ勇者様。私はリンファ・ファロンドです」
「嘘をつくなよ。ルーシャンナルさん」
「分かりました」
名を口にすれば、直ぐさま手にした弓に鏑のついた矢を番え、空へと向け――放つ。
ピュイィィィィィ――と独特な甲高い音を発しながら木々の隙間を縫うようにして鏑矢が天高く飛んでいく。
「これでこちらの増援があの防御壁から来る事になる。どのみち抵抗はさせないけどな。なので大人しくするように」
なんて言いつつ、なんか違和感を覚えてしまう。
「大人しくはしますが。なぜ私をそんなに警戒するのです?」
「霧の中では難儀するって事を言ったらアンタは肯定しただろう。なら警戒するさ」
「事実を述べただけですよ。アンタという言い方は乱暴です」
「じゃあ、もう一回聞くけど、俺だけでなくアンタも霧に包まれた先が見えないんだろう?」
「ええ」
「おかしいんだよ。あり得ないんだよ」
「何がでしょうか?」
ルーシャンナルさんと目を合わせると小さく頷いてきた。
間違いなく目の前の存在は脅威と判断していい。
「あのな、あの霧は――この国のエルフにとってはなんの効果も発揮しない。霧があろうとも視界は良好なんだよ。外の国の者や脅威となる者にのみ作用するんだそうだ。本物のリンファさんなら霧に覆われた場所だろうが見通すだろうし、何よりこの国の王族の側仕えがそんな事を知らないとかあり得ないだろうだ。また聞くぞ。お前――誰だ?」
――……。
静寂が支配する。
沈黙は正解って判断させてもらおうか。
残火の柄を絞るように握る中で、鏑矢の音に反応した防御壁にて待機していたエルフ兵が四名、樹上より降りてくる。
ルミナングスさんの部下なだけあって、現着の速さは素晴らしいの一言。
「勇者殿、それにルーシャンナル殿。どうされました?」
「侵入者です」
指さす先には王族の側仕えであり、自分たちの上司になるルミナングスさんのご息女の姿をした何者。
俺の発言に対してエルフさん達は首を傾げる――なんて事はしない。
即座に矢を番え、リンファさん――のような者へと体を向ける。
事実確認が必要だからかだろう、鏃をまだ向けることはない。
番えるだけで留まる。
「正気ですか。この私を射かけるとでも?」
「正気ですとも。城仕えのリンファ様がこの様な場所にいることが疑念を抱かせます。やましいことがないのならば、抵抗せず素直に指示に従っていただきたい」
「なんという不遜。我が父は貴方方の行為を残念に思うでしょう」
今の発言で些かたじろぐ兵士さん達。
「うるさいぞ偽物! それよりも本物はどうした!」
エルフさん達が言い返すのが難しそうだったので俺が代わりに発する。
しっかりと偽物という単語を入れて。
「ですから私が本物です」
「そんな必死の形相になっても手遅れだぞ。霧の内側は見えないって言質は取ってんだ」
追加で現着したエルフさん達に伝えるように発せば、即座に理解してくれたようで、構えは次の段階へと移行。キリリッと弦音が耳朶に届く。
もちろん鏃を向ける先は俺たちと相対する存在。
「あ~。まったくもってくだらないことで尻尾を掴まれたわね」
必死の形相だった対面する美人さんは、腕を組んでの余裕の佇みへとなって言葉を返してくる。
俺だけでなく、目の前で弓を構えるエルフ兵さん達もわずかだが足を後ろに下がらせてしまった。
美人は笑みを湛えていたが、口端は裂けるような勢いでつり上がっており、今までの淑やかさが一瞬にして消え失せた。
「捕獲しろ! リンファ様の事を聞き出す」
「無理、無駄」
相対する者が不気味な笑みのまま右足で地面を踏めば、それに合わせてエルフさん達の足元から硬化した泥の槍がいくつも現出し……全員が串刺しとなってしまった……。
串刺しにされた四人から声は上がらない。
瞬時に絶命。
泥の槍が地面へと戻れば、事切れた四人のエルフさんたちが横たわる――光景を見つつ、俺は即座にプレイギアから除細動器を召喚。
「インスタント蘇生でごめんなさいね」
四人となれば素早い蘇生が必要になるのでフルチャージではなく、パドルを一度だけすり合わせての蘇生。
ゲームプレイ時にセラが蘇生ポイントだけを稼ぐためにやる適当蘇生と同じやり方で申し訳ないが、串刺しにされて穴が空いた部分はなかったかのようにふさぎ、大きな深呼吸をすれば、上体を起こしてくれる。
「四人とも無事でなにより」
「な!?」
相対する美人の表情は不気味な笑みから驚きのものへと変わる。
「まさかその様に容易く蘇生ができるとはね。流石は勇者。不思議な物を持っている」
「どうも」
応じつつも、ふらつきながら立ち上がる四人の前へと立ち後退させる。
直ぐに回復箱をと動こうとするも、今度は俺の足元から鋭利な泥の槍が現出。
槍衾を思わせるけども――、
「今回の連戦で地面から出てくるのは嫌になるほど目にしてんだよ!」
抜刀した残火にてそれらを切り払う。
「お見事」
嘲笑によるお褒めの言葉を発する表情は、再び余裕のものへと変わってのもの。
嫌な笑い方を浮かべるけども、その笑みに見合った強さはあるようだ。
ミストウルフの時も感心したが、それ以上の存在である手練れのエルフさん四人をあっという間に仕留めるだけの実力を有した強者。
油断怠りなく対応せねば。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる