異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1185【すぐ邪魔する!】

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「ですがシッタージュ殿が有していた力が削がれるとなれば、この国の力も削がれるのと同じでしょう」

「心配はご無用です。美姫殿」
 指示に従った私兵達は従った時点で造反あつかいになる。
 だがエリスがダークエルフさん達を庇うために集落での行いは無かった事にしたし、それ以前のポルパロング邸での戦闘もなかった事にしてくれた。
 
 フル・ギルの支配下が原因の戦闘とはいえ、氏族を他国の――しかも公爵が手に掛けたという事が公になれば外交問題となる。
 問題として大事にしないためにも、私兵達には今回の罪を無かったことにする代わりに、箝口令を敷くという事になったそうだ。
 さっそく俺は王になったばかりの弟子に迷惑をかけているね……。 

 罪を負わないですむとなれば素直に私兵達は従ったそうで、氏族筆頭であるカトゼンカ氏の指揮下に入る事になった。
 細目ながらもしっかりとした監視をしてくれるだろう。
 もし何かしらの行動に打って出たとしても、驕兵だから脅威は少ないだろうし。
 
 正式に指揮下に置いて、驕兵を性根がしっかりとした強兵に変えてやりましょうとカトゼンカ氏。
 ルミナングスさんの部隊との共同演習も行って、みっちりとしごくということだった。

「削がれるどころかこの国の力は向上しております」
 と、カトゼンカ氏は継ぐ。
 ここで再び大広間を見る。
 次に視線を向ける先はルリエール。
 
 納得とばかりに俺とベルは鷹揚に首肯し、

「ですね。強かったですよ。食事と訓練が行き届けばこの国でも最高の兵達になるでしょう」
 そう返答する。

「ええ。それにこの国はこれから開けた国となるでしょう。そうなれば他国と協力することで難題にも立ち向かえます」

「それに関しては陛下――ロン・ダリアス王は二つ返事で協力するでしょうね。今までの大恩に報いたいでしょうし。もちろんミルド領も同様ですよ」

「それは心強い」

「でしょう」
 お互いに笑んで向かい合う。
 この国は大丈夫なようだな。
 王を支えてくれる面々は頼りになる方々が多い。
 まあ、そうだわな。
 多いからこそ、人間なんかが想像できないほどの長い時を過ごしている中、滅びることなく国が存続していたわけなんだから。
 その長い年月で虐げられた者達も多くいたわけだけど、国が滅びることがなかったのは、維持するだけの力があった証拠。

「これからは維持ではなく、繁栄ですね」

「まったくです。流石は勇者殿」
 そうでしょうとも。

「称賛されても調子に乗らないことだな」

「あ、はい」
 直ぐに釘を刺すんだからよ。

「まあロン・ダリアス王と発する事が出来たのは驚きだった。トールはいつも人の名や敬称を覚えられないからな」

「俺のギルドが拠点としている王都の名前くらいは流石に覚えてるっての」

「では王の名は?」

「ラスター・フロイツ・コールブランド」

「ほう。覚えていたな」

「俺もいつまでも適当な人間じゃないって事だよ」

「確かにな。今回の戦いは自分で解決しようとしたからな」

「だろ」
 ぶっちゃけると王様に付き従う貴族たちのフルネームは? と、問われたら、確実にアウトだったけどな。

「勇者としてだけではなく、領主としての責任を負うだけの気構えがトールには備わってきているようだな」
 後はこれで嫁でも出来ればいいんだけどな。
 と、ベルに言ってみたいもんだが、女性と普通に会話が出来るようになってもそういった事は口には出せないヘタレな俺氏……。
 だってスルーされるのが怖いもの……。
 
 なので――、

「今後も精進します」

「よい心がけだ」
 美人中佐が向けてくれる柔和な笑みが毎度のご褒美ですよ。
 もっともっと精進して好感度を上げようという励みになるご褒美ですよ。
 こんなご褒美ばっかりだから俺は未だに童貞なわけですが……。
 ここはもっと踏み込んで、王都に戻ったら二人でどこかを見て回るなどというイベントを発生させたいね。
 パーティーでは一番長い付き合いでもあるんだしな。
 
 ――よし!

「あの――ざん!?」
 なに!? 何なのよこの衝撃は!?
 痛いよ! ジンジンするのよ俺の顔側面。

「これは失礼」
 ――……なんだその軽い言い様は!

「何してくれてんだコクリコ! むち打ちになりそうだったわ! コルセット生活を強いられるところだったわ!」

「ちょっと調子に乗ってしまいました」
 反省の弁の割にはホクホク笑顔はずっと崩さないな……。

「勇者殿!?」
 カトゼンカ氏が心配してくれるけども、大事ないですと返答。

「いや~これは素晴らしいモノですよ! 本当に素晴らしいモノですよカトゼンカ殿!!」

「お、お気に召していただき光栄……」
 戴冠式前から相好を崩すコクリコが大満足とばかりにお礼を口にすれば、細目で表情が読み取れないカトゼンカ氏だが、テンション爆発のコクリコに気圧されているのは分かった。

「いや、その前にちゃんと謝ろうか」

「謝ったではないですか」

「そもそもその程度を躱せないでどうする」
 ――……なんでベルに呆れられるんだよ……。
 さっきまでは俺を褒めていたのにさ……。

「しかしコクリコも調子に乗りすぎだ。あまりにも度が過ぎる行動が目立つなら没取する」

「それは御免こうむりますのでしっかりと謝罪します! すみませんでした!」
 ――……いや……。違うだろ。
 ベルにじゃなくて俺に謝罪しろよ。

「お~れ! 俺に謝罪! 火の玉をぶつけてごめんなさいだろうが!」

「ああ、ごめんなさい」
 軽いな。ベルの時と違って軽いな……。
 火龍装備の俺だから火の玉を喰らっても問題なかったんだからな!
 普通だったら大事だぞ。
 
 というか、室内では火の気のある魔法を使用するな!
 攻撃的な魔法をお偉いさんが多数いる中で使用するな!
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