異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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トール師になる

PHASE-1199【だってワンパンだったし】

 ううむ……。どうしたものか。
 参加してくれるというなら無下にも出来ないからな。
 だがミストウルフの存在が後顧の憂いになりそうだしな。

 ここは――、

「ゲッコーさん」

「問題ないだろう」
 即答だった。
 この人がそう言うなら問題ないのかな。
 が、いざ魔王護衛軍との戦いとなった時、デミタスの指示によって内側から暴れられると面倒でもある。
 というか、デミタスってどうやってミストウルフ達を支配したんだろう。
 
「ルーシャンナルさん」
 困った時には直ぐさま頼らせていただく。
 ――ミストウルフは強い存在をリーダーと決めて従う。
 この辺は自然界で生きる狼と同じだな。
 現在、デミタスがリーダーのままになっているようである。
 指示を受けた状態をリーダーがいなくなっても維持するとかとんだ忠犬――いや、忠狼だな。
 人語なんかを理解するほどに知能が高いってのもあるんだろうけど。

「だとするとこの不安を払拭させるには――」

「デミタスなる者よりも強き存在が群れのサブリーダーを従わせればよいかと」
 集落に潜り込む時にリーダー的なミストウルフがいたけども、あいつはサブリーダー的なポジションだったんだな。

「で、そのサブリーダーってどいつでしょうかね?」

「流石にそこまでは……」
 ですよね。
 力になれずに申し訳ないとルーシャンナルさんの声音は暗くなる。
 俺に迷惑をかけた事から、自分が出来る事があるなら全力で協力したいというのが見て取れる。
 頑張りすぎて空回りしないかが心配。王都に到着したら肩の力を抜いて活躍していただきたい。
 
 ルーシャンナルさんが駄目ならと、試しにゴブリン達に聞いてみれば以外と直ぐに分かった。
 ゴブリンに頼んで呼んでもらえば、直ぐさまサブリーダーのミストウルフが俺達へと歩み寄ってくる。
 うん。やはり見た目だけでは判断が付かない。
 
 サブリーダーの狼が一定の距離を置きつつ、しっかりと俺を見てくる。
 なので――、

「むんっ!」
 強い眼力にてサブリーダーを睨んでみる。
 一応はデミタスにダメージを与える事が出来たからね。
 俺の目力で素直に俺を新たなリーダーに――、

「クゥアァァァァァ――」
 など認めてなるものかとばかりに、そっぽ向いて大きく口を開いてのあくび。

「腹立つ!」
 コイツ等は霧になって物理攻撃に態勢があるという強味を有しているが、戦いとなれば今の俺なら苦戦をするような連中ではない。
 なので俺のこの目力による威光で従わせるってのは可能かと思ったけども、まさかのあくびという小馬鹿にしてくるスタイルで返してくるとはね……。

「まったく勇者殿を小馬鹿にして! デミタスなる強者を撃退した英雄だぞ!」
 俺の代わりにルーシャンナルさんがお怒りになってくれるけども、俺とデミタスの戦いを目にしていればそんな発言は出来ないです。
 情けない撃退法だったし、完全に見逃してくれただけだし。
 実力ではまったくもって相手になっていなかったからな。
 そんなデミタスと俺を天秤にかければ、ミストウルフ達が俺に従うなんて事は絶対にあり得ないよな。
 コイツ等、しっかりと見る目があるじゃないか。
 腹は立つけど。
 だがまあ、コイツ等を従わせるって事は――容易だ。
 要はデミタス以上の存在に威光を発揮してもらえばいいだけだもの。

「俺より強いヤツ――出てこいや!」

「呼びま――」

「呼んでないよ。馬車の上で歓声に応え続けていなさい」
 いの一番に反応するのは分かっていたよ。まな板。
 何か言いたそうだが、それを遮りながら――、

「ベルさん出番ですよ」

「いいだろう」
 おっと素直に返してくれた。
 俺、今回がんばったからな。
 間違いなく俺の活躍で素直になった――なんて思わないよ。
 ミユキを抱っこしたままJLTVより降りれば、ミストウルフ達の前に立つ。

「よしよし」
 帝国軍中佐としての凜々しさなど微塵もない乙女モードなベルさん。
 今回がんばった俺のためではなく、単純にモフモフに触りたいってだけだったわけだ。
 落ち込みはしない。いつものことだからな。
 そんな乙女モードのベルがサブリーダーの頭を撫でた次には――、

「クゥゥゥゥゥゥン」
 と、腹を出しての服従ポーズ。
 流石ですよベルさん。
 デミタスから瞬時にしてベルの事を新リーダーとして認めたようだ。

「知能が高くても、野生動物は力関係に素直だな」

「知能が高いからこそだろうな。いなくなったリーダーよりも、明らかにそのリーダーより強い存在を新たなリーダーとする判断は、知能が高いからこその即断即決なのかもしれん……」
 ゲッコーさんからの俺への返しは、何となく元気のないもの。
 と、思っていれば、

「俺じゃないんだな……」
 と、継いで来る。
 自分ではなくベルへと任せたことに対して拗ねているご様子。
 ――……おい、伝説の兵士様よ……。
 S級さんをはじめとする組織の面々が今の貴男を見たら、忠誠心に揺らぎが生じるんじゃないですかね……。
 
 ここは手早く理解させるために――、

「ベルを選択するのは当然でしょう。何たってゲッコーさんは温泉の時、ベルにワンパンでのされましたからね」

「お……そうだな……」
 言えば素直に理解してくれた。
 殴られた痛みがよみがえったのか、頬に手を当てつつの返事だった。
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