異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1209【住民とアンデッド】

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 ――――。

 エリシュタルトから出立し、常歩にて南下すること七日目。王都外周の木壁が眼前へと見えてきた。
 騎獣に不慣れなゴブリン達も加わった事で移動に時間を要してしまったが、時間がかかった分、ゴブリンとミストウルフたちの連携は日に日に上達していったので良しとしよう。
 移動後半の訓練中には、襲歩での移動になってもゴブリン達は狼から落馬――落狼しなくなったからな。

 七日間でこれだけ向上しているんだから、アルスン翁の指導の下、先生のユニークスキルである【王佐の才】が発動している王都内で調練を行えば、短期間で立派な斥候になれる事だろう。

 ――。

「なんか――また立派になってるな」
 眼前に迫る木壁は以前よりも更に高くなっていた。
 木壁の高さに合わせて物見櫓も背が高くなっている。壁から張り出した塔――つまりはタレットも増築され、強固さだけでなく攻撃力も上がっているようだ。
 
 この一週間、街道を移動して分かったのは、王都方面からの旅商人たちの移動が活発になっているということ。
 王都から北方向――ミルド領方面への移動が目立った。
 ミルド領へと移動する旅商人の方々を護衛するのは内のギルドメンバーだった。
 稼がせてもらってありがたい。
  
 五千を超える数の行軍の中にはゴブリン達も含まれていたけど、そのゴブリン達を目にしても、北の方へと向かっていく大半の商人さん達は驚くといったリアクションを取ることはなかった。
 もしギルドメンバーが護衛に伴っていなかったとしても、この商人さん達が王都出立の方々だというのがそれだけで分かるというもの。

「随分とおかしなものだな。人間――しかも商人がゴブリンを目にしても恐れどころか驚きの表情も浮かべないのだからな」
 俺の後方でその部分を怪訝に思い、口に出すのはネクレス氏。

「勇者は人々に信頼されているという事なのだろうな。共に行動するキャラバンの連中もそうだったが、勇者が率いる者達だから問題ないという判断のようだ」
 と、継いだ。

「そういった訳じゃないと思いますよ」
 ネクレス氏にそう返しつつ木壁の前へと到着。

「お帰りなさい勇者殿! 皆様!」
 木壁のタレットより顔を見せるのは――ごめんなさい。知りません。
 王都兵の一人が大音声で俺達の帰りを喜んでくれれば、直ぐさま集団で出迎えてくれる。
 街道と内側の境となる木壁の門は閉ざされておらず開きっぱなし。
 その光景を目にするだけで、王都北側方面が平和だという事が分かる。
 だからといって王都兵が油断しているというわけではない。
 開いていてもしっかりと櫓、タレット、壁上から目を光らせている。
 平時でも一切の抜かりはない模様。

「すみませんね」
 木壁において出入審査を受けている商人さん達などを横目に、俺たちは門の内側へと入って行く。
 でもってここでキャラバンの面々とはお別れ。

 ――木壁を通過し、しばらく進めば――、

「なんとも面妖な雰囲気をあの白装束から感じる」
 と、俺の後方から発するのはまたもネクレス氏。

「確かに……」
 と、今回はルーシャンナルさんも続く。
 白装束の者達から妙な気配を察知した二人は弓を手にしようとする。

「やはり間違いない。あの白装束の集団からはアンデッドの気配を感じる」
 脅威が密かに内側に入り込んでいると思ったのか、ネクレス氏は弓を手にする。
 続くようにルーシャンナルさんも。

「アンデッドですけど問題ないですよ。農作業なんかに従事してくれているんです」
 ネクレス氏に返せば驚きの表情へと変わった。
 なにをそこまで驚く必要があるのか。
 リンというアルトラリッチ様が俺たちと一緒にエリシュタルトに滞在もすれば、この行軍にもいるだろうに。
 ダークエルフの集落へと潜入する時には、俺はエルダースケルトンを伴っていたからな。ここにアンデッドがいても違和感はないと思うんだけども。
 それとも俺の感覚が麻痺してきたのかな。
 本来、アンデッドに対してのリアクションとなると、この二人のエルフの対応が正しいものなのかもしれない。

 だからこそ、アンデッド達が職人さん達と一緒になって木壁の増築に従事したり、農夫の皆さんと一緒になって田畑を耕しているという光景が異様なものであり、あり得ない事なんだろうな。

 一応、住民や王都を訪れた方々が驚かないように白装束で全体を隠す配慮はしているのだけれど――、

「住民の方々は大分くだけた付き合いになっているみたいだね~」
 白装束姿でなくても問題ないとばかりに近い距離で一緒に働いている。
 アンデッドに対して恐れを抱くこともなく、白装束に身を包んだスケルトン達がいる中で日常会話を行い、スケルトン達にも話しかけていた。

 といっても、スケルトン達からは返事がないので一方通行だけど。

 一般的なスケルトンは会話は出来ないが、農夫の指示に従い、春を前に田畑の準備を行うために鍬を振ってくれる。

 生ある者からすれば畏怖の対象であるアンデッドだが、しっかりと仕事をこなすという姿を日々、目にすれば、好感を持つのは当然であり、俺同様にアンデッドに対する恐れという部分が麻痺――というか生活圏にいるというのが当たり前という感覚になっていくんだろうな。
 
 だからこそ、王都出立の商人さん達はゴブリンを目にしても驚かないのだろうね。
 だってそれ以上の存在であるアンデッドが側にいて、一緒に働くという光景が王都では当たり前になっているのだから。

 生者に危害を加えない。
 指示されたことをしっかりと実行する。
 昼夜を問わず働いてくれる。
 人件費や食費を必要としない。
 これほど有り難い労働力は他を探しても存在しないだろう。
 
 多大な労働貢献によって王都に住まう人々のアンデッドに対する意識は、恐れよりも感謝。
 
 カリオネルの馬鹿をしばき倒す北伐以前から活躍してくれているスケルトン達のお陰で、外周防衛の要である木壁とその内側は大いに発展。
 
 流石はリンが使役する優秀なアンデッド達である。
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