異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1219【頭一つと舌先三寸】

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「強欲。優柔不断。そして年齢。実に――いいですね。条件が揃っている。当然ですが、世継ぎもいるのですよね?」

「無論」
 ガルム氏の返しとほぼ同時に、俺の横に立つゲッコーさんから「なんとも嫌らしいく、惨たらしい事を脳内で描いているようだ」と、独白が零れていた。

「して、子は何人? 魔大陸の中でも最大兵力を有しているような存在。よもや一人ということはありますまい」
 先生、興奮を抑えているつもりなんだろうけど、声には勢いがあり、その勢いのままにガルム氏へと接近するもんだから、偉丈夫なガルム氏が後退りするという姿を見せる。

 そして気圧されつつも――、

「よ、四人だ。以前は二十を超えていたようだが色々とあってな」

「色々というのは当然ながら、世継ぎ争いなのでしょうね」

「あ、ああ……そうだ……。と、思われる……」

「四人が残った。つまり四天王と呼ばれるのはその世継ぎ四人の事ですか?」

「いや違う。四天王はその四人のお目付け役といった立場でもある」

「ふむふむ――で、世継ぎの第一候補は?」
 矢継ぎ早の質問にガルム氏が再び後退るが、今回は雄々しくも凜々しい顔が困ったものへと変わり、俺を見てくる。
 助け船を出してほしいようだが、俺のような小者ではどうしようも出来ない。
 興奮気味の先生を妨げるなんて怖いことは出来ないです。
 正直、ベルやゲッコーさんよりも強いプレッシャーを放つ時があるからね。
 現にゲッコーさんもノータッチでいたいと思っているのか、さっきまで俺の横にいたのに、今は背後に移動しているもの……。

「さあ、教えてください」

「無論、第一子だ。そして次男、六男、十四男だ。文若殿……近い……」

「全て男児ですね~」
 接近しすぎというガルム氏の指摘は耳には入っていないようだ。
 世継ぎが全て男と分かった事のほうが嬉しいようで、先生の声のトーンが更に跳ね上がる。

「ああ、このままいけば長男が権力を引き継ぐ事になるだろう」

「総領息子殿はそれだけの支持を受けていると?」

「カルナックは周囲に対して秘匿主義でもある。だから支持されているかは分からんが、大抵は長男だろう。もしかしたらまだ決めかねているのかもしれんが」

「そうですか。そうですね。ですが――」
 と、言ったところで先生は言葉を止める。
 途端に体全体に寒気を感じさせる雰囲気を纏わせ、それを放射状に放ったかのような錯覚を起こしてくる。
 だからだろう。俺は当然として、シャルナ、ガルム氏とランシェル。王侯貴族。
 これに加えて伝説の兵士であるゲッコーさんまでもが先生から更に一歩後退りしてしまう。

「十四男殿は頑張ったようではないですか。今では第四候補にまで立っているのですからね~」
 言葉を継いでの先生の発言にここでも皆して一歩後退……。
 そんな中で俺がコクリと唾を飲み、勇気を出してから――、

「わ、悪い顔になっていますよ……」

「主、それはそうでしょうとも。楽しくなってきましたよ」
 ――……おう……。

「あれは間違いなく、三百万以上いるとされる魔王軍最大戦力を頭一つと舌先三寸でさんざっぱらに掻き乱すつもりだぞ」

「でしょうね……」
 イケメンスマイルが口端を吊り上げた笑みを湛え、それを目にする面々がドン引きしている中、背後に立つゲッコーさんと耳打ちでやり取りをする。
 でもまあ、悪そうな笑みはこちらサイドとしては心強いというもの。

「相手が弱体化する手立てを繰り出す策を生み出してくれると思えば、これほど頼りになる笑みもないですけどね」

「まあな。荀彧殿だけは絶対に敵には回したくないもんだ」
 伝説の兵士がそう言うなら、それは先生にとって最高の称賛だろう。
 当の先生は、俺たちの会話など耳に入っておらず、

「いや~素晴らしいほどに袁本初の如し。河北四州の覇者となり、一時は天下に最も近かったと称された群雄でしたが、領土が広がるにつれ臣下を冷遇し、競わせるようにした事で軋轢を生み、結果として讒言合戦へと導いた。己の優柔不断さと世継ぎを決めぬままに逝去した事で急激に勢力を弱体化させた英傑。その英傑である袁本初と同じような道を歩ませてあげましょう。ハハハハハハ――――ッ」
 冴え冴えとした夜空の下。木壁壁上に先生の哄笑が響き渡った――――。

 ――――さてさて――、

「どうも」

「これは勇者殿」

「すみませんでした。遠路より王都まで足を運んでいただいて」

「気にすることはありません。我が主の下知となれば従うだけです。それに移動は直ぐでしたので」

「アケ……アケなんとか山……」

「アケミネルス山ですな」

「そうです。アケミネルス山の――」

「マルケネス城です」

「そうでしたね。あの廃城の地下施設にて大規模工事の現場責任者という多忙な立場であるのに。心底、感謝してます」

「私がいなくても指示さえ出していれば、それをこなしてくれますので進捗状況に遅れはないですよ。それにしても普通に接してきますね――勇者殿は」
 お久しぶりの存在はリンの眷属であるリッチのコリンズさん。
 筋肉がなく、骨に皮だけがへばりついているような風貌。
 当たり前のように接するからコリンズさんは些か驚いた感じだ。
 スケルトンと一緒に行動する事もあるもんだから、怖さってのが薄れているのは確かだな。
 灯りもない夜中にばったりと出くわせば、悲鳴は上げるだろうけど。
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