異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1233【お前……ねぇ……】

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「くそっ!」
 と、悔しそうに声を漏らしつつ、長物の優位性がない間合いまで入り込まれれば、直ぐさま手放しての徒手空拳のスタイル。
 窮していても切り替えはしっかりとしている。

 まあ――、

「有利なのはこっちだけどね」
 迎撃のために拳を構えるけども、この距離は俺の木刀の間合い。
 構えることで腕が上がれば、がら空きとなる箇所も生まれる。
 
 そこへと目がけ――、

「胴!」
 と発し、諸手に握る二本の木刀で胴打ち。
 レザーアーマーを装備してはいるが、襲われる鈍痛には耐えられなかったようで、両膝をついてからのダウン。
 横目でそれを確認しつつ、味方の長物振り回しで咄嗟に距離をとったことで体勢が崩れている二人に一気に迫って――ダウンさせる。
 連携がとれるメンバーを先に潰しておくことに注力し、コルレオンは二の次。

「マイヤ」
 と、名を発せば、ダウンした三人に下がるように指示。

「う~ん。しかし駄目だな」
 俺の発言に、下がる三人がビクリと体を震わせる。

「いや、違うよ。君たちの事じゃないよ」
 二本の木刀で攻撃を繰り出す時、どうしても同方向に振ってしまう事の反省だよ。
 これだと一本を両手持ちで使用した方がいいからね。
 その事をちゃんと説明しようとしたところで――、

「本当にダメダメですね」
 と、コクリコ。

「背後からの急襲が鈍い! なんですかあの足運びは! だから反撃に転じられるのです。やると決めたなら、たとえ背後からだろうともしっかりと狙いなさい! 先ほどの私の発言がまったく活かされていないですよ!」
 継げば三人の新人さんは肩を落としながら下がっていった。
 背後からはどうしても躊躇ってのがあるようだな。
 コクリコの発言には肯定するけど、デミタスに対して不意を突いて後ろから攻めた時、恰好の悪いことだと思ったのも事実。
 なので俺はここでは強く言うまい。
 コクリコの姉御に代わりに叱っていただこう。

「しかし瞬く間に三人を倒してしまうとは、流石は我がパーティーの勇者だと思ってあげましょう」

「なぜそんなに上からなんだよ……。ですが素晴らしかったですよ会頭」
 強者二人からは称賛が送られるが、自分の二刀の使い方を考えれば素晴らしいとは思えなかった。
 三人が退場する間、二人の動きは止まっている。
 躊躇せずに背後からしっかりと狙えとか言うわりには、退場する間は動きを止めるコクリコも大概お甘いようで。

 この間にしっかりと呼吸を整えさせてもらう。
 俺に一呼吸おける時間を与えたことを後悔させてやろうじゃないか。
 
 まあ、不気味なくらいに余裕の笑みを湛えている事からして、コクリコは次なる一手を考えているといったところか。

「コルレオン。一度、距離を取りなさい。しっかりと包囲する形で」

「分かりました!」
 直ぐさま次の一手に移るコクリコ。しっかりと俯瞰から状況を見ることが出来るのは優秀な証。
 コクリコって周囲に的確な指揮を出せるタイプだよな。
 最前線での指揮が適正だったりしてな。
 ――……後衛職なのに、どんだけセンスは前衛向きなんだよ……。

 それはさておき――、

「すでに三人には退場してもらった。つまりは半分を倒したってわけだ。意識を削がれるのも半減だな。お前たちに集中して……対……応」
 ――……せっかくこっちもドヤって言ってるんだからさ、コクリコにはしっかりと俺の発言を耳に入れてもらいたいんだけど……。
 俺を見ることなく、明後日の方向に頭を向けている。
 ――見てるのはマイヤ――の横に立つランシェルか?
 なんだ? こちらの意識を散らして隙でも窺っているのかな?

 と、思っていれば――、

「ランシェルも参加していいのですよ」

「おいおい、この戦いは増援ありなのかよ」
 即、異議を申し立てる。

「何を言っているのです。実戦では敵の増援、連戦は当たり前。トールはいくつもの戦いでそれを経験しているでしょうに」
 と、コクリコは正論を述べてくる。

「ランシェル」
 訓練とはいえ実戦を模した戦い方を学ぶのは正しい。
 なのでここは常識人であるランシェルの行動を信じたい。
 信じたいからこそ、名前だけを口にするといったものだ。それ以上は言わなくても分かるよな。って意味だからね。

「参加となれば私はトール様にご助力します」
 流石はランシェル。俺の思っていた通りの発言をしてくれる。

「墓穴を掘ったなコクリコよ。お前は味方を得たのではなく、強敵を招き入れたのだよ」
 鼻で笑いつつ言ってやれば、

「フッ」
 と、鼻で笑って返してくる。
 その余裕を砕いてくれようとコクリコへ向かって助走。
 ランシェルを見れば俺の動きに呼応し、同ターゲットに向かって駆けてくれる。

「この勝負、もろたでコクリコ!」

「ランシェル。我々の方へと参加し勝利する事が出来たならば、トールと一緒に楽しい一日を過ごせるという権利を確約しましょう」

「――は?」
 急に何を言い出すのかな?

「畏まりました」

「――はぁ!?」
 呼応してコクリコへと仕掛けてくれるように動いていたメイドの足の方向が、俺へと変わる。
 これに反応するようにコクリコが動き、ドッセン・バーグとコルレオンも俺へと距離を詰めて包囲を狭めてくる。
 
 先駆けは――、

「ちぃ!」
 ランシェルの正拳突き。
 華奢な体からは想像が出来ない大気を切るような鋭い拳打には、冷や汗が噴き出てしまう。
 さっきの新人さんの拳とは速度も威力も天壌の差。
 不細工な前回り受け身から即立ち上がり、包囲が狭まりきる前になんとか脱す。
 包囲から横隊へと隊列を変更。俺と相対するコクリコの笑みは先ほど以上に不敵なものへと変わっていた。
 
 が――、今はそこには触れまい。

「ランシェル! 即座に裏切ってくれたな! 呂布もビックリする早さだよ!」

「申し訳ありません。条件があまりにも魅力的でしたので」
 俺と楽しく一日を過ごすってのが魅力的な条件ってので翻るなんて嬉しいじゃないか……。
 お前が女の子なら裏切ることも許せたし、むしろ男として誉れでもあったがな……。
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