異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1238【今回も勝たせていただこう】

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「とにかくそれ以上は下がらない。ドッセン!」

「わ、分かっている!」
 継ぐコクリコに指摘されて踏ん張ってみせる。
 だがまだまだ戦いの経験が乏しいコルレオンはそうは行かないようだ。

「さて――やろうか」
 攻めるのはやはりコルレオン優先だよな
 重々しく発せば効果は十分。
 コルレオンを居竦ませるのに成功したので、そこを突かせていただく。

「動けコルレオン!」
 怒号にも似たドッセン・バーグの声に刺激されたのか、ピンっと尻尾を立てるコルレオン。
 しかし動くのにワンテンポ遅れた。そこをフォローするようにドッセン・バーグが側撃による刺突。

 それを木刀で外側へと払い、払った勢いを利用しての横回転で懐まで入り込み、零距離にて二本の木刀の柄頭を胸部へと叩き込む。

「ぐぬぅ……」
 苦痛の表情を浮かべるのも一瞬。
 直ぐさま目に力が宿るドッセン・バーグ。

「分かってるよ」
 と、一言発して、次ぎに迫るバックラーが俺の体に触れる前に、トラースキックを柄頭を叩き込んだ胸部に見舞ってやる。
 シールドバッシュを振り抜くことが出来ないまま後方へと強制的に下がらせてやった。
 先読みされたとばかりに、ドッセン・バーグは苦痛に驚きの表情を混じらせながら俺を見てくるが、しっかりと見てやる暇はない。

 ドッセン・バーグの掩護の甲斐もあり、圧に飲み込まれそうになっていたコルレオンが俺へと向かってくる。
 ――思考は整えられなかったようだけど。

 下方から木剣二本を×マークで構えての突撃はこの試合中で見慣れたもの。

「だから正面からはダメだって。攻撃もパターンだし」
 掩護を受けての迎撃準備は整っても、搦め手から仕掛けるまでの時間は得られなかったからか、正面からの驀地。
 いくら動きが速かろうとも正面から――しかもフェイントもないのはもはや捨て鉢のような動きである。
 ここは下がるべきだったぞ。
 
 ×マークを書く木剣に対して木刀で斬り上げを叩き込めば、弾かれた×マークは逆八の字を書く。
 コルレオンの体の中心部分は完全にがらんどう。
 思いっきり打ち込めば間違いなく命を奪ってしまうほどの大きな隙が出来てしまっているので、

「そい」
 コンッと頭部に軽く叩けば、

「キャン!」
 と、甲高い声を上げ、木剣を手放し両手で頭を押さえ込んで倒れ込む。

「はい終わり。退場と回復」
 言いつつ、今度は立て直したドッセン・バーグとコクリコに対応するために二人を睨みつつ構える。

「なんです急に動きが鋭くなって! さっきまでは遊んでいたとでも!?」

「遊べるだけの相手なら俺も楽だってもんだ」

「では、なんだというのです!」

「まあ、質の違いからの矜持ってヤツだな」

「訳が分かりません――ねっ!」
 ――コクリコの攻撃を悉く回避しつつ、こちらも連撃を加えるも、危険と判断して距離を取る野性的な勘は流石の一言。
 
 即座にドッセン・バーグが間に入ってコクリコの体勢を整えさせようとする。
 交互に攻めてくる波状攻撃へとなったな。
 こうなれば二人でありながらも実質、一対一の構図だ。
 初手の連携がなくなったのは俺としては有り難い。

「強いですね会頭。流石だ」

「有り難う。てことで――」

「ぬう!? 速い!」
 一足飛びでドッセン・バーグの懐まで入り込む。迎撃の木剣とバックラーによるワンツーを思わせる突と打を払い躱してから両太股に木刀を叩き込んでやる。

「!? ぎぃ……」
 強面の顔がさっき以上に苦痛で歪む。
 これ以上の追撃は許さないとばかりに大振りで俺を追い払おうとするも、

「力が入っていないな」
 足の踏ん張りが利かなくなって動きに洗練さがなくなるドッセン・バーグ。
 それでも腰の回転だけでこれだけ出来れば十分――なんだが、やはり今までの動きに比べると、

「遅いよね」
 ドッセン・バーグの右側面へと移動する。

「お見事な位置取りで――」

「嫌らしくも小賢しい攻め方だろ」
 左に持つバックラーで防ぎたくても、両足の痛みで動きが鈍くなっているせいで対応が遅れるドッセン・バーグは、防御を諦め右手に持つ木剣に全てを託すかのように横一文字を書こうとするが、ここでも俺の方が速さで勝る。
 右肩と前腕へと連撃を打ち込み、横一文字を書かせることを許さなかった。
 
 木剣が手から離れるも、柄から伸びた革紐が右手首に括り付けられていた。
 武器を自分から遠ざけさせない工夫は怠っていなかった。
 新人さん達の教育時に述べていた事を自らが実行しているってのは、手本となる者として説得力がある。
 
 でも――、

「これが実刀だったら?」
 と、問えば、

「腕は欠損。その前に両足も失っていますので自分の完敗ですね」
 痛みを感じながらも口角を上げての笑みで返してくる清々しさは、冒険者として格好良かった。
 
 この場から去る背中を見送りたいが――、

「おっと」
 まだ一人残っているのでそれは土台無理。
 こっちの気が緩んでいるだろうというタイミングを見計らって狙う事には抜群の嗅覚を持っているのがコクリコだ。
 飛び蹴りの鋭さは凶悪だが、こちらは仕掛けてくると判断していたので躊躇なく振り下ろしで対抗。
 
 ――仕損じたけどね。

「私の動きを把握しているのは付き合いの長さからってやつですね」

「だな」

「しかし、私が体勢を整える前に手早くドッセンを倒すとは――、更に強くなっているようで」

「デミタスってのがとんでもなく強くってな。絶対的な死地からなんとか生き延びたんだよ。お前も含めたこの場の誰よりも俺は質が違う死地に立ったことがある」

「そうでしたね。そういった強者との戦いがトールを強くする。追い込んだと思った途端にこういった動きをされると、こちらは面食らいますよ」
 素直に認めてくれるんだな。

「ですがね。これ以上トールに差を付けられるなんてごめんですね!」

「だとしてもこの状況だとな」
 完全なる一対一。
 こうなるとよほど油断をしない限り、俺の勝ちは揺るがない。
 魔法なしのコクリコとなればとくにだ。
 終幕前といったところだな。
 今回もきっちりと勝たせていただこう。
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