異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1256【緊張すんのかい】

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 そんなパロンズ氏の後をわずかに遅れてやってくるのはギルドの人間たち。
 パロンズ氏同様、背中に金属の板を背負っており、息も絶え絶えな状態。

「これはなんです?」
 ベルの怒りから逃れるかのように金属板に興味を示せば、

「これはチコちゃん達の装備だよ」
 と、ゴロ太が答えてくれた。
 真っ先に気になったのはチコちゃんって呼び方だったが、目を瞑って聞けば、ゴロ太の渋い声だと年下の子を呼んでいる大人みたいで違和感はない。

「以前にチコが装備していたものか」
 馬甲のように体を守る金属の防具。
 馬甲ならぬ獣甲。

「チコ以外の連中の装備を制作、メンテナンスしていまして、バラした状態で鍛冶場からここまで運んでいるんです」
 ゴロ太が答えてくれたお陰でワンクッションおけたのか、整った呼吸から説明をしてくれるパロンズ氏。

「それは大変だ」

「そうなんですがね」

「馬車なんかで運べばよかったんじゃないですか?」
 いくらバラしているとはいえ、象ほどあるマンティコアなどの獣甲を一つ一つ運ぶのは骨が折れるだろうに。
 指摘すれば足腰を鍛えるためにもやっているとのことだった。
 で、それに付き合わされているのがドワーフ以外の鍛冶担当である面々ってことね。
 文句も言わずに運ぶ辺り、足腰を鍛えようとする事には賛成しているってことなんだろうな。

「軽くて頑丈な装備をと考えてもおりますが、素材集めも大変ですからね。この連中ばかりを優先するわけにもいきませんし」

「ですよね。騎乗となるとメインは数で勝る馬ですからね。馬甲を優先するのが当然ですね」

「その通りです。流石は会頭」

「いえいえ」
 ギムロンと違って物腰が穏やかだからか、パロンズ氏には自然と敬語を使用して対応してしまう。
 年上のギムロンにはタメ口なんだけどね。

「もっと人数がいれば助かるのですがね」
 人材は増えてはきているが、それでも人手不足に変わりはないのが実情。

「大型装備専門の人員も必要となってきますね」

「そういった人員がいてくれれば最高ですね」
 こっちサイドにもオーガやらトロールみたいな五メートル越えの力自慢の連中がいてくれたらいいのにな。
 いてくれればこういった装備も簡単に運搬してくれるし、専用の鍛冶道具なんかもあれば大型生物の装備なんかも直ぐに作りだしてくれそうだよな。

「無い物ねだりをしていても始まりません。今は我々だけで頑張らせてもらいます」

「ありがとうございます」
 一息つけたとパロンズ氏は言い、同行する面々と厩舎に隣接する納屋まで獣甲を背負って歩いて行く。
 そんな背を見つつ――、

「ギルドメンバーは誰もが励んでくれている。感謝しかない」

「そう思うなら手伝ってやればいいだろう」

「そうしたいんだけどゴロ太が俺から離れてくれないんだ」

「勇者様はいつも頑張ってくれているからね。体を休めるのも大事だよ」

「ゴロ太……」
 俺に獣甲運び手伝わせることで、俺とゴロ太を引き離したかったという魂胆があったんだろうな。
 でもそうはならず、思惑とは正反対とばかりにゴロ太は俺にくっついて離れない。
 これ以上ベルの精神にダメージを与え続けてしまうと、本当に訓練という名の八つ当たりへと発展してしまうな。

 結構、話も出来たことだし次へと移行しよう。

「今晩、ギルドハウスに来るように」
 
「なぜだ?」
 なんともふて腐れた言い様だな。

「シャルナとギムロンの昇級式をやるからだよ。メインのパーティーメンバーのシャルナと、よく協力してくれるギムロンのためにも顔を出してくれよ」

「そういう事なら二人の為に参加させてもらおう」

「よろしく頼むよ。ゴロ太も来てくれよな」

「わかったよ♪」

「じゃあ、後で」

「分かった」

 ――――。

 ワイワイガヤガヤと賑わっているじゃないか。
 二階へと続く踊り場から一階のお食事処を見下ろせば、普段とはちょっと違った光景。
 といってもテーブルや椅子が壁側へと寄せられているってだけなんだけども。
 
 野良の冒険者の方々は食事を取るスペースが限られてしまうので申し訳ない。
 だが祝い事があるなら仕方ないということで、苦情は上がっていないとのことだった。
 祝い事となれば寛容になってくれるのはありがたいことである。
 むしろ野良の方々は上機嫌。
 祝い事ということでゲッコーさんが酒蔵から酒樽をいくつか運んで来たようで、ギルドハウスを訪れる面々に無償で酒を振る舞っており、皆さん笑顔である。

「我らがギルドにおいて第二位である青色級ゴルムと、第一位である紫色級コルクラに昇級した二人を大いに祝いましょう」
 お食事処では先生が音頭を取り、一斉に皆さんが手にしたグラスやビアマグを高らかに掲げて乾杯の輪唱。
 掲げた容器を次には口元に移動させ、一気に中身を飲み干していく。
 飲み干して口から容器を離せば、ギルドメンバーだけでなく野良の方々からも昇級に対する祝いの言葉が上がっていた。
 お祭り気分だな。
 冒険やクエストにて命の危険と隣り合わせな者達。そんな連中が少しでも楽しめる空間があるのは喜ばしいことである。

「どれどれ――」
 お食事処の中央にて先生と一緒に立つ二人へと目を向ける。
 シャルナは周囲の面々からの祝福の言葉を受けて笑顔で応じているが、ギムロンはというと――、

「あいつが特別なモノにしたいって言い出したんだけどな……」

「周囲の祝福に引きつった笑顔で返しているぞ? 本当にギムロン殿は昇級式をやりたがっていたのか?」
 踊り場にて俺の隣でゴロ太を抱っこしたベルが首を傾げてくる。

「間違いなくギムロンが言い出しっぺだぞ」

「そうか」

「あいつって以外と緊張しいなヤツなんだな。普段や戦いの時は豪快なのに」
 ちょっと笑えてくる。

「当人がやりたがっていたのならさっさと済ませてしまえばいい。じゃないと周囲の祝福で更に硬くなってしまう」

「言い出しっぺが早く解放されたいとかどういった状況なんだよ」
 本当に笑える。
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