異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1261【次ですね】

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 ――大食い勝負から時間が経過すれば、俺達に遠慮して距離をとっていた面々も話しかけてきてくれる。
 でも俺に対しては恭しく話しかけてくる辺り、まだまだ緊張と遠慮している面々が多い。
 別段、気むずかしくもないし、気位の高い性格でもないんだけどな。

 コクリコとの掛け合いなんかを目にすれば、話しやすい存在のはずなんだけども。
 気兼ねなく話しかけてくれてもいいのにね。
 って、俺が会頭なんだから、本来は俺が話しかけて緊張を解きほぐさないといけないんだろうな。

 なので――、

「皆も英気を養ってくれ」
 エードの入ったピッチャーを手にして一人一人に注ぎつつ対応すれば、驚きながらも笑顔を向けてくれる新人さん達。
 注ぐ中で一人が意を決して俺に語りかけてくれば、堰を切ったように他の面々も続いてくれたのは嬉しかった。
 会頭としてギルドメンバー一人一人の顔を覚えておくのも大事だからな。

「ふぅぅぅ~」
 以前にも耳にした溜め息だな。

「お疲れ様ですパロンズ氏」
 人間の子供くらいの身長であるドワーフのパロンズ氏が、トボトボと疲れた足取りでお食事処へとやってくる。

「――これは会頭」
 疲れから視線を下方に向けていたからか、俺に語りかけられたことではたとなり、顔を上げてから挨拶をしてくれる。
 挨拶は厩舎の時と同様で丁寧な一礼。この辺は同じドワーフであるギムロンとは正反対。
 目頭を拇指と食指で軽く揉みつつ、太い首を動かすパロンズ氏からはゴキゴキといった音がこちらの耳朶にまで届く。
 チコ達のような大型生物の装備の制作やメンテナンスをしてくれているのだから、他の装備制作メンバー達と比べれば、重労働の役割を担ってくれている。
 早いところ腰を下ろしたかっただろうに、俺が話しかけたから起立したまま。
 悪いことをしてしまったので、急いで椅子を準備し、

「どうぞ」
 と発せば、

「これは申し訳ありません」

「いえいえ、楽にしてください」
 俺の横に椅子を置き、ギムロンには横へとずれてもらう。
 再度、一礼してから腰を下ろせば、

「ほれ。駆けつけ三杯」

「いや、別にパロンズ氏は罰を受けるような事はしてないだろう」

「会頭。ドワーフの中じゃあ、罰じゃなく挨拶よ」

「お、そうか」
 俺が遮ったのでもう一度と、パロンズ氏に木製のビアマグを手渡せば、

「どうも」
 頷きで返す。
 手にしたビアマグにギムロンから酒がなみなみと注がれる。
 それを一気に飲み干すこと三回。

「ふぅぅぅ~」
 と、疲れを吐き出す時と同音の息を漏らすパロンズ氏。
 今回のは人心地ついたといったものだろう。
 ヒゲに覆われた口端が安堵から上がっているからな。
 息には強い酒気も混ざっており、それだけでこっちまで酔いそうだった。
 それほどに度数の強い酒を一気に――それもビアマグで三杯も飲んだわけだ。
 物腰が穏やかな御仁だが、そこはドワーフといったところ。酒には強いというのが分かる。
 飲み干す姿にギムロンも笑みを湛え、空になったビアマグに注いでいくこと四回、五回――十回……。
 パロンズ氏は次々と胃の腑へと収めていった。
 見ているだけで二日酔いしそうだな……。
 
 十杯目を飲み干してから――、

「なんとも心地よい喧騒ですね」

「今の今まで大食い勝負が開催されていましたから」

「それは是非とも見たかったですね。まあ、現状の余韻だけでも十分に楽しむ事は出来ますが」

「平和になりゃあ毎日でも見られるようになるわな」
 と、ギムロンが手酌で酒を呷りながらパロンズ氏に続く。
 現在の王都は穏やかな時間が流れているが、真の平和が訪れているわけではない。
 以前と比べて、息抜きが出来る時間を得ることが出来ている程度。
 それでも、その貴重な時間でバカ騒ぎをする事が出来るのがどれだけ幸せなことなのでしょう。と、パロンズ氏は柔和な笑みを湛えつつ、ギムロンとビアマグをぶつけ合う。
 カコンと木製からなるソレが音を奏でてから一気飲み。
 恒久的な平和とまではいかなくても、俺達がこの世界で出来るだけの事をやって、少しでもこのようなバカ騒ぎが出来る期間を延長するだけの努力はしないといけないな。

「決意を新たに――といったところでしょうか。主」

「先生」

「一階より活気ある声が耳朶に届けば、私も高揚感に包まれましてね。皆さんと食事を楽しみたいと思いました」

「どうぞ、どうぞ」
 ここでも俺が席を準備。
 ギムロンに再び動いてもらうのも悪いので、その隣に椅子を設置。
 俺に対し、手を重ねた文官がよくする典雅な一礼を行ってから先生は腰を下ろす。

「駆けつけ三杯」
 と、着席したところでギムロン。

「いいでしょう」
 そう返せば、コルレオンが直ぐにグラスを先生の前に置いてくれる。
 注がれる酒を飲む先生の姿は、ドワーフの二人と違って豪快ではなく優雅。
 イケメンの優雅な飲み方に、周囲にいるメンバー――特に女性陣が見入ってしまう。
 そんな女性陣の中から、副会頭の為ならこの命を捧げることなんて余裕――という声が上げれば、肯定する発言が方々から上がった。
 イケメンで出来る男は、仕草一つ一つで女性陣を虜にできるから羨ましいよ……。
 まあ、俺もギルドメンバーからの好感度が高くなっているのは肌で感じているけどね。
 あれかな? ここにはイケメンが二人揃っているから女性陣は眼福、眼福。と思っていたりしてね。
 ――……あり得ないトリップで楽しんでしまう悲しい俺氏……。

「馳走になりました」

「ゆったりとした飲み方だと思わせといて、あっという間に飲みきる。ワシらが口にする強い酒だったのに。やるの~副会頭」

「ドワーフに言われると誉れですね」
 先生って意外と酒に強いようだな。
 大酒飲み勝負とかしたら、ゲッコーさんにも勝利したりして。

「さて――食事をとりつつですが、主の新たなる決意の為に背中を押したいと考えております」

「押す――ですか」

「はい。次の目的の為に動く時かと」

「次ですね」

「はい」
 にこやかな表情である。
 王都は見て回ったから、今度は各地の進捗を見て回る外遊的なこと――ってことじゃないよな。
 笑顔の裏に隠されるスパルタな気配が、ヒシヒシと伝わってきます。
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