異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1264【どっちも無理……】

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「しかしクラーケンが船の近くにいるのは脅威ですね。エーンザーム氏と話したくても、その前に攻撃をしてくるかもしれせんからね。知らない存在には凶暴でしょうから」

「そんなことはない。海王の一角であるクラーケンは知能も高い。共に行動する者の考え次第で行動理念も変わる」

「なるほど」
 魔王軍に迎合し、その魔王軍から貸し出されていたであろうクラーケンだったから、海賊たちのは凶暴だったんだろうな。
 結果その凶暴さ故に、海賊たちはそのクラーケンに命を奪われることになったけど。

「それにエーンザームの側にいるのは幼体のクラーケンだ。純粋で臆病なヤツだ」

「よかったなベル。もし出会っても大丈夫みたいだぞ」

「わ、私は別に恐れてなどいない!」
 とか言う割には声が裏返っているんだよな。
 ヌルテカな存在は幼体でも嫌なようだな。

「幼体――子供って事は可愛いんですかね?」

「愛らしい目をしている」

「よかったなベル。可愛いらしいぞ」

「お前は私を小馬鹿にしているようだな」

「してませんよ~」

「ヘラヘラとした笑いではないか。少しばかり成長しているからといって調子にのるのはまだまだ早い!」

「でぃっしゅ!?」
 久しぶりに俺の大腿四頭筋に走る衝撃と痛み……。
 痛みは足から体全体に伝播する。
 ――……この独特で強烈な痛みは本当に久しぶりだな……。
 ベルの修正キックに感慨深くなりつつ、執務室の床を激しく転がり回るという勇者な俺氏……。

「主がオチをつけたところで振り返りましょう。溟海王レヴィアタンが居を構える深海都市ノチラートへと赴くのは現状では不可能。となれば、翼幻王ジズはどうでしょうか?」

「それもやっかいだぞ」
 偉丈夫のガルム氏は腕を組んで顔を伏せる。
 長身であるから顔を伏せても俺からは表情が窺える。特に床に寝転がっている俺なら……。
 表情は冴えないものだ。
 攻略が難しいのが続くようだな。

「では、理由をお願いします……」
 痛み襲われ、涙を浮かべながらもなんとか立ち上がり問う。
 有り難かったのは、コクリコとシャルナが俺を支えてくれた事だ。
 こういったフォローが自然と出来るくらいに、付き合いも長くなっているって事だな。

翼幻王ジズ――ベスティリス・バルフレア・エアリアス様は、常に自らの居城におられ、水龍タレス様を見張っておられる」

「殴り込みに行けば、強制的に三爪痕トライスカーズの一角と戦うことになるってことですね」

「そう……なってしまうのかもしれんな」
 なんか言葉に強さがないな。
 なってしまうってなんだよ。ならないってこともありえるのか?
 ないならない方がこっちとしては有り難いんだけども。

「様を付ける辺り、ガルム氏は翼幻王ジズに対する心証は悪くないようで」

「まあ……な」
 と、ここでもビシッとした言い様ではない。

「どういった立ち位置にいるのか分からないといったところですか?」
 肩を貸してくれる二人に礼を言いつつ、一人で立ってから問う。

「勇者は存外、鋭いな」

「主は馬鹿ではないので。自分で物事を考える前に人に頼ろうすることで、考えが浅慮になるだけですから」
 先生……。褒めているようでけなしてますよね……。
 無計画にゴブリン達を組み込んだりしたからな。
 反省すべきところはちゃんと反省させてもらいます。

「あの御方は何を考えているか分からなくてな。立ち回り方が読めないのだ」
 ガルム氏がそう言えば、アルスン翁も「左様」と発し、同調するように頷く。

「だからこそ、最も警戒しないといけない御方でもある」
 でも残りの三爪痕トライスカーズとは違って、様を付けたり御方と敬称するから、警戒しつつも尊敬もしているんだろうな。

「話をして解決できるなら、それが一番なんですけどね」

「だろうな」

「では翼幻王ジズの居城に行ってみましょうか。殴り込みではなく訪れるといった意味で。場所は分かりますよね?」

「分からん」

「え~……」
 フライング・ダッチマンの時と同じような返しじゃないですか……。

「居城を知らないのに、なんで翼幻王ジズが居座っていると分かるんです?」

「ベスティリス様は間違いなくおられる。基本、拠点から出ることはないからな。我々も何度かお邪魔したこともある」
 ――? 異な事を言う。

「お邪魔したことがあるのに場所が分からないとは?」

「拠点は常に動いているからな」

「動くんですか!?」

「ああ……」
 マジかよ……。

「移動要塞ってことですね。じゃあその拠点の特徴をお願いします」
 問えば、俺だけでなく周囲のメンバーも期待した目をガルム氏に向ける。
 移動要塞って浪漫ある言葉だもんね。

「天空要塞フロトレムリは常に空に存在する」

「空か~……」
 天空要塞っていうくらいだから当たり前なんだろうけども……。

「お空をぷかぷかと浮いて移動されれば、そら探すのも大変ですよね」

「そうなるな」
 俺の問いかけにガルム氏は鷹揚に頷く。

「ただ浮いてるだけなんですか?」

「いや、要塞の周囲は暴風によって守られている。面会予定の入っていない訪問者を近寄らせないためにな」

「……てことは入るには……」

「内部の者の許可がない限り難しい。無理矢理に暴風の中に突っ込めば、待っているのは死だ」

「じゃあ無理矢理に入るのは無しですね」

「そうなるな」
 二度目も同様にガルム氏は鷹揚に頷く。
 暴風に守られた天空要塞か……。
 なんだよそのラピュタ仕様!

「飛行石のペンダントと、大型飛行戦艦ゴリアテを誰ぞ用意してくれい!」
 と、言ったところで皆してポカンとした表情。
 唯一、現代知識を共有するゲッコーさんは首を左右に振りつつの苦笑い。
 それが有れば苦労しないだろうな。ってのが苦笑から伝わってくる。

 あ~空から女の子が降ってこないかな……。
 
 ――…………。
 
 ――……。
 
 と、現実から逃避している場合じゃないんだが……。
 ――……でもさ……。
 深海に天空とかさ……。

「これはアレじゃないかね……。皆の衆」

「なんだ?」
 代表してベルが返してくれるのでそちらに目を向け、

「……詰んでるんじゃないの?」
 と、口から漏らす。

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