異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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発展と鍛錬

PHASE-1271【位置は極東】

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「ニヤニヤしよってからに。こっちの苦労に見合ったもんが欲しいの」

「大量のキンキンに冷えたビールを用意させてもらいます」

「それを楽しみに励むかの。で、今度はこっちからの質問いいか」

「どうぞ」

「さっきからずっと会頭の肩に乗ってる小っこいのはなんじゃい? 美姫が大喜びしそうな風貌だけども」

「大喜びどころが大興奮だったぞ」

「お、そうかい……。まあ、そうだろうな……」
 ベルの性格をギムロンも理解しているので、ヒゲに覆われた口端をやや上げての苦笑いを返してくれる。

「ミルモン」
 言えば俺の左肩からピョンと跳んで、そのまま羽を動かして宙を飛ぶ。
 ギムロンの前で留まり、

「やあドワーフ族の匠。オイラは千里眼の小悪魔ミルモン」
 左手を腹部に当て、右手を腰へと回してから執事のような一礼を行う。

「千里眼の小悪魔の小の部分が取れれば、威厳のある通り名になりそうだの」

「言ってくれるね。オイラの力をバカにしちゃ駄目だからね」
 ミルモンの小さな右手を包むように黒い電撃が顕現する。
 
「しとらん、しとらん。すまんかったわい」
 巌のような手を前に突き出してギムロンは軽い口調で謝罪。
 ギムロンの謝罪を耳にして握り拳を作れば、黒色の電撃がパチンと音を立てて消えさる。

「中々に短気な小悪魔じゃな」

「駄目だぞミルモン。直ぐに力を使おうとしちゃ」
 って、そんな力があるんだな――。というかあったな。
 さわり程度しかプレイしていないから忘れていた技だ。
 技名は完全に忘却の彼方に旅立っているけど。

「オイラを前に生意気な語り口は駄目だよ。これでも魔界の勲功爵だからね」

「へ~」
 で、クンコウシャクってなんや? ってな顔をしていたのか、ギムロンが、

「ほう、魔界の騎士様かい」
 って、さりげなく教えてくれたのは感謝。
 ゲーム内のミルモンを説明したテキストをはっきりとは読んでいないから分からないところもある。
 まあ勲功爵って部分に目を通していたとしても、分からんままにスルーしていただろうけど。

「なのでオイラには敬意を払うように」

「そりゃ悪かったの。ちょっとまっとれ騎士殿よ」
 わざとらしくミルモンに対して恭しくするギムロンの姿は、子供をあやす大人といったところ。
 研ぎの作業を中断して、近くにある収納棚に手を突っ込んでゴソゴソとすれば――取り出してくるのは――、

「え、ギムロンってフィギュア作りとかが趣味なの?」

「なんじゃいそりゃ? こりゃ遊び半分で作ったもんよ」
 巌のような掌に乗っていたのは、その手には似つかわしくない程に小さい物。
 長さにして8㎝くらいだろう。鞘に収まった刀――というよりは形状と作りからしてサーベルかな。
 ドーム状の護拳は網目状になった細工が施されている。
 俺が作ろうものなら、初手の段階で発狂すること間違いなしだ。
 サーベルの柄頭には、BB弾よりも一回り小さな赤い貴石がはめ込まれている。
 小さいながらも一切の妥協を許さないといった作りである。

 それにしても――、

「これってなんのために作ったの? 小人用とか?」

「おう、ゲノーモス用として遊びで作ってみた」

「ゲノーモス?」

「ってのはドワーフが住む窟の同居人みたいなもんよ」
 鉱物の採掘を手伝ってくれたりする小人だという。
 ドワーフが住まう窟には必ずいる種族だそうだ。

「本当に良く出来てる」
 指で柄をつまみ、鎧皮から作られた黒い鞘から刀身を引き抜けば――、

「切れ味も鋭そうだ」

「実際、抜群よ」

「淡く青白い輝き――ミスリルコーティングだな」

「ご名答」
 制作中に出てくる鉄粉――ではなくミスリルの粉末を回収して鉄や鋼で作られた刀剣にコーティングすることで、強度と切れ味を上げる技法。

「遊びで作った割にこだわってるな」

「遊びだからこそ本気を出すんだよ。欲を言えば彎刀部分はミスリルで作りたかったが、無駄遣いは出来んからの」

「で、コレを」

「会頭の使い魔みたいだからの。勇者に相応しい使い魔として装備も良い物をやらんとな」

「へ~。兄ちゃん、このドワーフ中々に分かってるね。もらってあげようよ」

「なんとも生意気なチビスケだの」

「ドワーフには言われたくないよね」

「やっぱり呉れて遣るのは止めとこうかの」
 と言ってももう遅いと、サーベルの収まる鞘を腰のベルトに差し込んでいた。
 舌打ちでそれを見るギムロンに、主として俺がお礼を口にし、

「でさ、ミルモンが言うには森には巨人がいて、俺達に協力してくれるって事なんだけど」

「巨人? あの森に巨人なんておらんぞ」

「そうなの? 森っていうからエントみたいな種族がいるのかと思ったよ」

「あいつ等は……、南に拠点を持つ種族だからの……」
 エント族自体もこの世界にいるんだな。
 ギムロンの暗い声音からして、エント族は瘴気に覆われた場所にいるようだ。
 となると、初対面は凶暴化した状態での敵対した存在になるかもしれないな……。
 それを回避する為には、瘴気を浄化しないといけないわけだ。
 浄化のためには残りの四大聖龍リゾーマタドラゴンの二柱を救わないとな。

 ―――。

「では準備が整い次第お願いします。主」

「お任せを!」
 再び執務室に面子を集めて次の目的地に挑む前に――、

「ミルモン。もう一度、力を頼む」

「あれでしょ。天空要塞ってやつでしょ」

「そう」
 お任せをと胸を叩いて瞳を閉じる。

 ――むむむむ――っと唸り刮目すれば、

「東も東。この大陸の東の遙か上空にあるよ」

「動いているのか?」

「ううん。動いているようには見えなかった」
 東も東。つまりは――極東ってことになるのか。

「バランドのようですね」
 と、先生。
 エンドリュー辺境候が統治する領地の上空。

「となると――ですよ」

「以前もその辺りの上空にいたのかもしれんな」
 と、ゲッコーさん。

「だとすれば、立て続けに仕掛けてこないことに不気味さを感じます」
 と、ベルが続く。

「以前の攻撃に肝を冷やしたか、こちらが対抗できないからと高みから余裕で動向を窺っているのでしょう。その傲慢さが仇となることを身を以て分からせてやりましょう!」
 まだ見ぬ翼幻王ジズを相手にするかのように、執務室の天井の方を見てコクリコが吠える。

「先生」

「なんとも面妖というより、読みにくい存在のようですね。翼幻王ジズベスティリス・バルフレア・エアリアスという女傑は。翼幻王ジズの配下である者も、同じ勢力下の者達をこちらにぶつけて間引かせるような行動をとっていたようでしたし」
 バランド地方の中心都市であるドヌクトスへと攻撃を仕掛けて来た時のカラス頭のタンガタ・マヌ――クロウスの話か。

 恭しい挨拶により戦いの火蓋が切られれば、こちらはS級さん達がスティンガーで迎撃。
 遠距離からの一方的なミサイル攻撃で撃退したけども、当のクロウスとその取り巻き達は攻めることもなくさっさと撤収したからな。
 先生が言うように、明らかにこちらの攻撃を利用して仲間を死に追いやっていたようだった。
 派閥争いなんかで疎ましい連中を一掃する為に、俺達は利用されたと考えるべきかな?
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