異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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発展と鍛錬

PHASE-1276【三つ編み揺らして】

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 ――――。
 
 王都を出て街道を南へと進み――、次の朝を迎える。

「いやはや、このようなお力を……」
 ロイドルにとってギャルゲー主人公の家は初めて目にするもの。
 内装やキッチンなどが別世界のものだったから非常に驚いていた。
 主に利便性で。

 護衛の黄色級ブィ二人は驚きよりも会頭の召喚した家で一泊する事が出来たという事に興奮しており、自慢できる的な内容を昨晩からずっと語り合っている。
 俺との行動はギルドメンバーにとって、本当にステータスになるみたいだね。
 嬉しくもあり、気恥ずかしくもある。

「いや~冒険中にこんな快適な生活が送れるなんてね」

「満足だったか?」

「悪くはなかったんだけどね~」
 楽しげではあるが、満足まではいっていないミルモン。

「オイラとしては家具に囲まれるより、たき火を囲みたかったよ」

「だったな。じゃあ次は外でな」

「お願いするよ♪」
 小っこいキャラの笑顔は朝からの癒やしである。
 それにここで否定して不満を持たれるのも嫌だしな。

「てなわけでミルモン」

「あいあい」
 フランクに返事をすれば、俺が何を望むのかというのは言わなくても分かるとばかりに瞳を閉じ、むむむむ――っと、可愛くうなり声を上げ、

「見えた!」
 の一言と共に刮目。
 結果としては天空要塞には動きがなく、極東の上空に留まっているという内容だった。 
 これを耳にする俺はグッと拳を作って喜ぶ。
 そしてそのまま動くな! と、念を込めるように極東の空に睨みを利かせた――。

「じゃあロイドル」

「ハッ! お任せを! お二方、戻りましょう」
 そう言ってロイドルは馬上の人となれば、護衛の二人もそれに続くように騎乗。
 二人の顔からは不満が滲んでいた。
 あともう少しだけでもいいので、俺達と行動したかったという気持ちが表面に出てしまったようだ。
 気持ちだけは受け取って、自分たちの任に戻ってほしいと述べて、王都に戻る三人の背を見送った。

 ――。

 見送りを終えてから、皆して家の中で身支度を整えてから出発――。

「何とも平和な光景が続くね~」
 街道を常足によるゆったりとした速度で移動する。
 牧歌的な風景を更に強調するように、パッカパッカと蹄鉄。ゴトゴトと馬車の車輪が音を奏でる。
 ――調子の取れた音を聴いていると眠くなってくる。
 馬上で寝たとしてもダイフクは賢いので、俺が落馬しないようにバランスをとってくれるであろうから、居眠りしても問題はないだろう。

「これもトールハンマーで目を光らせてくれている人達のお陰だよね」
 微睡みそうになったところで、窓から顔を出したシャルナが俺の独白に続いてくれる。
 目をしっかりと開いてから肩越しに後方を見れば、色彩の薄い金糸のような髪を靡かせていた。
 牧歌的な光景がシャルナの存在だけで神秘的なものへと早変わりである。

 ダイフクの速度を落として馬車と並べば、

「高順の活躍は大したものですね」

「まったくだな」
 シャルナと対面して座っているコクリコも頭を出して青空の下で平和を堪能していた。
 季節は寒い時期だが、新たな出立を祝うような蒼穹の下を移動できるのは有り難い。
 陽射しが降り注ぐ昼間の気温は温かいようで、馬車組は厚着ではなく、普段、着用しているものだけで事足りるようである。

 コクリコの言うように、高順氏とその下で活動してくれる者達の活躍が大きいのも事実だが、デミタスに聞かされた、蹂躙王ベヘモトカルナックの貪欲さも起因しているからだろう。
 兵の消耗を避けるという腹積もりもあるから、消極的な戦いしか仕掛けてこないってのもあるよな。

 そういった事を知る由もない街道ですれ違う旅の方々は表情に余裕がある。
 常に周囲を気にしながらビクビクと旅をするという心配は、今までと比べれば軽減しているからだろうな。
 石畳からなる街道の上を意気揚々と進んでいる。

 パロンズ氏の話では、王都からリオスの町とトールハンマーを繋ぐ道は全て石畳に
舗装されているという。
 街道の修復と発展も、俺達が別の場所で活動している間に着々と進んでいるようだ。
 工事に励んでくれた顔も名も知らない方々に感謝する。

 と、感謝をしている中で――、

「後方」
 と、シャルナの長い笹の葉のような耳がヒクヒクと動き、碧眼を鋭くする。

「なんだ?」
 街道で、しかも後方からということは王都方面。
 そちらから脅威が来るなんて事はまずないだろう。
 となればロイドル達が何かしら忘れ物でもしたのであろうか?

 ――確認のためにビジョンを使用。

「――なんだ。タチアナじゃないか」
 襲歩による馬にてこちらへと向かってくるのはよく知った人物である。
 それにしても距離が離れていたのに、音で気付けるシャルナの聴力は流石だ。
 スカウトとして最高の存在。
 感知能力がずば抜けて高いベルがいなくても、シャルナの聴力があれば相手に先制攻撃を仕掛けられる心配はないな。
 
 ――ダイフクと馬車の動きを止めて待ってやれば、栗毛の三つ編みを派手に揺らしながら俺達へと合流。

「ふぅぅぅ――追いつきました」
 安堵の息を吐きつつ、開口一番でそう言う。
 襲歩による移動には慣れていないのか、馬よりも騎乗しているタチアナの方が息切れしている。

「凄い勢いだったから警戒しちゃったよ」

「すみません。途中ロイドルさん達と会いまして、会頭たちの事を聞けば少し先にいらっしゃるだろうとの事でしたから、急いで追いかけてきました」
 シャルナに対して馬上から頭を下げるタチアナ。

「で、大急ぎで追いかけてきたようだけど、王都でなんか変事でも?」

「いえ、違います。私もお供に加えてほしくて来ました」

 ――……。

「いやいやいや。これから行く所は女性にはオススメ出来ない場所なんだけど」

「大丈夫です。お役に立って見せます。コクリコさんとシャルナさんがいる時点で、微力程度しかご助力できないでしょうが」

「あのね――」
 ――俺達がこれから向かう先には、女となれば見境のない下半身思考主義の連中が生息するところだと説明すれば、知っていますと返ってくる。
 
 一緒に行動したいというのもそうだし、知っていると返してくる時の言葉には強いものを感じる。
 様々なクエストをこなしてきたからこその自信から来ている返事だというのが分かる。
 俺達が成長しているようにタチアナだって成長している。
 脅威に対して立ち向かえるだけの実力と精神を培ってきたようだ。
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