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発展と鍛錬
PHASE-1279【形式より機能】
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――高順氏を上から下まで見た後に、室内を見渡す。
ここは山城のてっぺん――天守。
――なのだが、とても簡素な造りだった。
日本の名城のように、見る者に威厳を示すような壮麗にして華美というモノは置かれていない。
室内中央に置かれるのは、ささくれのある板で簡単に作られた円卓。
威厳ではなく哀愁が伝わってくる。
綺麗に均された土壁には、天守から木壁より先――つまりは敵が攻めてくる湿地帯を見下ろせるように窓が四箇所。
見下ろせるために設けられている窓の作りは突き出し。
変わっているのは、開かれている窓の材質が鉄製だということ。
ソレを支える棒の先端部分は凹凸のある金属がはめ込まれているし、手前部分はグリップテープを思わせるように布が巻かれていた。
「メイスみたいですね」
「ああ。手持ちの武器を失っても、直ぐに代用の物が手に入るようにしてある」
と、高順氏。
メイスがつっかえ棒とはね。流石は最前線の要塞と思っていれば、ロンゲルさんが窓まで移動し、
「ちなみに――」
と、言いつつ、正方形からなる鉄の窓を取り外す。
外側にある窓の向きを少し変えれば、枠を通り抜けて内側へ。
窓の裏側には取っ手がついており――、
「鉄の盾に早変わりですね」
メイスと鉄の盾。武具として使用可能な装飾などが、要塞内には結構あるらしい。
先ほど通ってきた通路に等間隔で置いてあった燭台の支柱も短槍になっているらしく、蝋燭を立てる部分は石突きでもあり、床に埋め込まれた革鞘には穂先が収まっているという。
「工夫されていますね」
「現状、全ての兵に十分な装備は行き届いているが、もし要塞戦となり戦闘で武器を消耗しても、直ぐに新たな武器を手にする事が出来るとなれば、戦闘時にはそれが安心感へとも繋がる。わずかな工夫からでも士気が維持されるのは大事だ」
出来れば要塞内部での戦闘ってのはないほうがいいけど、最悪の事態も考えないといけないのは当たり前だからな。
「全てにおいて頼もしいです」
「そう思ってくれると有り難い」
「高順氏の提案ですか」
「いや――知者だ」
「流石っすね」
「認めてはやろう」
敵対関係であっても、いまは共通の目的で活動している。
なので先生の考えを評価し、それを実行する。
先生も凄いんだけど、実行するだけの柔軟性を持ってる高順氏も凄いんだよな。
三国志だと曹操と呂布はバチバチだからな。
やっぱり高順氏には、張遼と一緒に降伏してほしかったな。
もしかしたら合肥の戦いで、共闘という胸熱展開があったかもしれない。
「で、どうだこの要塞は?」
「華美ではなく実用性重視なのが実にいいですね」
「華美など不要。頑丈ならばそれでいいのが最前線の拠点だからな」
「まったくです」
土壁とささくれた円卓。この要塞の指揮中枢である天守がこうなんだから、全体にわたって実用性重視だというのが理解できる。
形式美よりも機能美。
質実剛健という四字熟語がぴったりだ。
ただこの質素さゆえに、壁に掛けられている高順氏の槍が凄く目立つけどね。
穂先と柄の境には赤い髪の毛のような飾り。
槍全体には細かな彫刻が施されていて、とても手の込んだ作りだ。
この室内に掛けるには、あまりにも不釣り合いである。
「なにか気になる事でもあるかな?」
「ああ、いえ。一年程度でここまで立派になっているのが凄いと思いまして。この要塞に携わった方々は素晴らしいですね」
「敬服に値する」
「俺達や王都だけでなく、一緒にこの要塞も成長してるんだな~」
「北の地以降も様々な事を経験したようだな。話はギルドの者達から耳にしている」
「どうも」
先生と荀攸さんに続いて、高順氏も横文字を口にするようになったな。
この世界に馴染んできている。まあ大型の狼みたいなワーグって生物に騎獣している時点で、この世界には馴染んでいるようだけども。
俺達の活躍を耳にすれば自分のように喜んでくれていたと、横からロンゲルさんが口を挟んでくると、高順氏は些か照れくさそうにしていた。
無骨な人物のようで、意外と感情は豊かなようである。
「それで――だ。勇者よ」
「なんでしょう?」
改まるように嘘くさく一つ咳を打つと、
「その――肩に腰掛けている者は」
――……ああ、そうだったな。
無骨な人物のようでってのは、完全に俺の勘違いだったわ……。
この人、感情は意外と豊かだったな。
――一部に対して。
「ミルモン。自己紹介を」
言えば肩から離れて高順氏の前まで羽ばたき、目の前で静止すれば、
「始めまして白銀の戦士。オイラは千里眼の小悪魔ミルモン」
執事のようなスタイルでの挨拶を行えば、
「これは丁寧な挨拶を――」
と、高順氏も恭しく頭を下げての礼にて応対……。
ゴロ太の時もそうだったけど、ベルと一緒で可愛いのが好きなタイプだったな……。
白い軍服やら鎧からなる人物は、ファンシーなモノが好きなお約束でもあるんだろうか?
ミルモンと言葉を交わす高順氏の表情は、今まで以上に柔和なものだった。
戦場における気鋭と気炎万丈からなる姿とはえらい違いだよ。
「して高順。愛でるのも良いですが、我々はドワーフの窟へと向かいたいのです」
「む、そうだったな」
コクリコが場を引き締めるように発せば、高順氏の顔がキリッとしたものへと早変わり。
敬称もつけずに順って諱をサラッと言うんだからな……。
本来だったら殺されても文句が言えないんだけど、コクリコがこういった性格だと分かっているから許されたんだろう。
行動を共にしているって訳じゃないから、親密度は高くないのにな……。
ここは高順氏の器のデカさに救われたと思っておこう。
コクリコの敬称もつけない諱呼びに、俺は背筋を冷たくさせたし、動悸も激しくなったけどな……。
ここは山城のてっぺん――天守。
――なのだが、とても簡素な造りだった。
日本の名城のように、見る者に威厳を示すような壮麗にして華美というモノは置かれていない。
室内中央に置かれるのは、ささくれのある板で簡単に作られた円卓。
威厳ではなく哀愁が伝わってくる。
綺麗に均された土壁には、天守から木壁より先――つまりは敵が攻めてくる湿地帯を見下ろせるように窓が四箇所。
見下ろせるために設けられている窓の作りは突き出し。
変わっているのは、開かれている窓の材質が鉄製だということ。
ソレを支える棒の先端部分は凹凸のある金属がはめ込まれているし、手前部分はグリップテープを思わせるように布が巻かれていた。
「メイスみたいですね」
「ああ。手持ちの武器を失っても、直ぐに代用の物が手に入るようにしてある」
と、高順氏。
メイスがつっかえ棒とはね。流石は最前線の要塞と思っていれば、ロンゲルさんが窓まで移動し、
「ちなみに――」
と、言いつつ、正方形からなる鉄の窓を取り外す。
外側にある窓の向きを少し変えれば、枠を通り抜けて内側へ。
窓の裏側には取っ手がついており――、
「鉄の盾に早変わりですね」
メイスと鉄の盾。武具として使用可能な装飾などが、要塞内には結構あるらしい。
先ほど通ってきた通路に等間隔で置いてあった燭台の支柱も短槍になっているらしく、蝋燭を立てる部分は石突きでもあり、床に埋め込まれた革鞘には穂先が収まっているという。
「工夫されていますね」
「現状、全ての兵に十分な装備は行き届いているが、もし要塞戦となり戦闘で武器を消耗しても、直ぐに新たな武器を手にする事が出来るとなれば、戦闘時にはそれが安心感へとも繋がる。わずかな工夫からでも士気が維持されるのは大事だ」
出来れば要塞内部での戦闘ってのはないほうがいいけど、最悪の事態も考えないといけないのは当たり前だからな。
「全てにおいて頼もしいです」
「そう思ってくれると有り難い」
「高順氏の提案ですか」
「いや――知者だ」
「流石っすね」
「認めてはやろう」
敵対関係であっても、いまは共通の目的で活動している。
なので先生の考えを評価し、それを実行する。
先生も凄いんだけど、実行するだけの柔軟性を持ってる高順氏も凄いんだよな。
三国志だと曹操と呂布はバチバチだからな。
やっぱり高順氏には、張遼と一緒に降伏してほしかったな。
もしかしたら合肥の戦いで、共闘という胸熱展開があったかもしれない。
「で、どうだこの要塞は?」
「華美ではなく実用性重視なのが実にいいですね」
「華美など不要。頑丈ならばそれでいいのが最前線の拠点だからな」
「まったくです」
土壁とささくれた円卓。この要塞の指揮中枢である天守がこうなんだから、全体にわたって実用性重視だというのが理解できる。
形式美よりも機能美。
質実剛健という四字熟語がぴったりだ。
ただこの質素さゆえに、壁に掛けられている高順氏の槍が凄く目立つけどね。
穂先と柄の境には赤い髪の毛のような飾り。
槍全体には細かな彫刻が施されていて、とても手の込んだ作りだ。
この室内に掛けるには、あまりにも不釣り合いである。
「なにか気になる事でもあるかな?」
「ああ、いえ。一年程度でここまで立派になっているのが凄いと思いまして。この要塞に携わった方々は素晴らしいですね」
「敬服に値する」
「俺達や王都だけでなく、一緒にこの要塞も成長してるんだな~」
「北の地以降も様々な事を経験したようだな。話はギルドの者達から耳にしている」
「どうも」
先生と荀攸さんに続いて、高順氏も横文字を口にするようになったな。
この世界に馴染んできている。まあ大型の狼みたいなワーグって生物に騎獣している時点で、この世界には馴染んでいるようだけども。
俺達の活躍を耳にすれば自分のように喜んでくれていたと、横からロンゲルさんが口を挟んでくると、高順氏は些か照れくさそうにしていた。
無骨な人物のようで、意外と感情は豊かなようである。
「それで――だ。勇者よ」
「なんでしょう?」
改まるように嘘くさく一つ咳を打つと、
「その――肩に腰掛けている者は」
――……ああ、そうだったな。
無骨な人物のようでってのは、完全に俺の勘違いだったわ……。
この人、感情は意外と豊かだったな。
――一部に対して。
「ミルモン。自己紹介を」
言えば肩から離れて高順氏の前まで羽ばたき、目の前で静止すれば、
「始めまして白銀の戦士。オイラは千里眼の小悪魔ミルモン」
執事のようなスタイルでの挨拶を行えば、
「これは丁寧な挨拶を――」
と、高順氏も恭しく頭を下げての礼にて応対……。
ゴロ太の時もそうだったけど、ベルと一緒で可愛いのが好きなタイプだったな……。
白い軍服やら鎧からなる人物は、ファンシーなモノが好きなお約束でもあるんだろうか?
ミルモンと言葉を交わす高順氏の表情は、今まで以上に柔和なものだった。
戦場における気鋭と気炎万丈からなる姿とはえらい違いだよ。
「して高順。愛でるのも良いですが、我々はドワーフの窟へと向かいたいのです」
「む、そうだったな」
コクリコが場を引き締めるように発せば、高順氏の顔がキリッとしたものへと早変わり。
敬称もつけずに順って諱をサラッと言うんだからな……。
本来だったら殺されても文句が言えないんだけど、コクリコがこういった性格だと分かっているから許されたんだろう。
行動を共にしているって訳じゃないから、親密度は高くないのにな……。
ここは高順氏の器のデカさに救われたと思っておこう。
コクリコの敬称もつけない諱呼びに、俺は背筋を冷たくさせたし、動悸も激しくなったけどな……。
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