異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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矮人と巨人

PHASE-1301【エルウルドの森へ】

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「ところで何を目指す? 翼幻王ジズの拠点への手がかりがあるという話だったが」
 昨晩はとても楽しく飲んでしまい、そういった話をしなかったなと、お互いに反省しつつ、

「目的はこの森に存在する者の力を借りることです。その力を借りて翼幻王ジズの拠点である天空要塞フロトレムリへと行きます」
 親方様の質問に返答する。

「者――とは? まさかカクエンのことか?」

「違うと思います。とある生物と巨人というのがミルモンからの情報です」

「生物はまだ分かるが、巨人とな? この森に巨人などいないが」
 親方様が首を傾げながらも巡らし、ダダイル氏へと目を向ければ、

「間違いなくこの森を拠点としている巨人はいません。亜人となればカクエンくらいです。生物となれば、大型モンスターなどもいますが」
 とのこと。
 他のドワーフさんにゲノーモス達も同じ意見だった。
 長くこの森に隣接する窟を拠点としているドワーフやゲノーモスでも知らないとなれば、未知の存在という事になるのか、はたまたミルモンの見通す力が――、

「勲功爵殿の目は確かなのかな?」

「オイラにケンカ売ってんのか?」
 俺も思っていたことを親方様が述べる。
 途端にミルモンは不機嫌になるし、いつものように手に黒い電撃を纏わせるので、親方様は両手を前に出して降参の姿を見せる。
 よかったよ。俺が口にしなくて。
 俺が言った場合、ミルモンは怒るんじゃなくて傷ついただろうからな。

「勲功爵殿の力が確かとなれば、考えられるのは一つでしょう」
 と、ダダイル氏。
 以前、窟の中まで侵攻してきた魔王軍。
 なんとか籠城して追い払うことは出来たが、その間に連中がこの窟を抜けてエルウルドの森へと何かしらをもたらした可能性もあると推測。
 カクエン達が魔王軍へと組みしたことから、この森にドワーフ達が知らない巨人が協力者として潜伏している可能性も出てきた。
 
 以前、コルレオン達コボルトに強制労働をさせていたトロール達は、次に備えて拠点を構築しようとしていたからな。
 ――ええっと、なんだっけ――残置兵だったかな? そういったポジションの存在がこの森の中にも潜んでいるのかもしれない。

「南の出入り口からは魔王軍。森の方向からはカクエンによる侵攻。窟全体が侵攻された中でよく耐えきりましたね」

「館と隠し通路に非戦闘員を避難させ、ひたすら堅守に努めることでなんとか耐え凌ぎました」
 味方の来ない籠城は絶望しかなかったそうだが、そんな中で奇跡が訪れたと話してくれる。
 その奇跡というのは、同時侵攻していた王都側の勢力が壊滅状態となり、報告を耳にした窟侵攻の軍勢が後退。
 これにより壊滅を免れたという事だった。

「つまりは我々が活躍したことで、この窟も救われた訳ですね。なるほど得心がいきました。専守防衛から急に真逆の考えへと変わったのは、勇者が窟を訪れたことによる転換だけではなく、我々の恩に報いるためというのもあるようですね」

「流石はロードウィザード。分かっている。本当にあの時は救われたぞ」

「――――そうでしょう」

「あの時、侵攻全体を指揮していた存在であるバロルド・マハーロ・ドゥモネイスというホブゴブリンは、蹂躙王ベヘモトの尖兵として恐怖の対象として名を広げていたからな」

「……そ、そうでしょう……」
 うん……。コクリコが知るわけないよな。
 バロルド戦の時、コクリコはまだ俺達と出会っていないからな。
 だとしても、話を合わせることで少しでも自分もその件で活躍したというように見せたいご様子。
 
 ――バロルド――。
 あの時は脅威対象だったし、レベルは40くらいだったよな。
 今の俺なら問題ない相手だと自負したい。
 ここにいる面子の中でもタイマンで戦って勝てる手合いは間違いなくいるだろう。
 当時は軍勢の差によって、バロルドの存在が過剰に大きく見えたのかもしれないな。

「本当にあの時は救われた」
 俺が以前の難敵を思い出しているように、親方様も思い出した事があったのか、ガッシリと俺の両手を掴んで固い握手をしてくる。
 この窟が侵攻された時、本当に危機的な状況であったというのが握手から伝わってきた。

「あの時は目の前のことでいっぱいいっぱいで、同じような境遇の中で戦っている方々がいるという事を考える余裕もなかったのですが、俺達の行動がお役に立っていたなら何よりです」
 そう返せば、謙虚――という評価と共に、親方様や皆さんが片膝をついて俺に恭しい礼をしてくるので、直ぐにやめてほしいと立たせれば、これまた謙虚と発して俺を高評価してくれた。
 こそばゆいので、まじでやめて……。
 俺、こういった行動されるの苦手な人だから。
 恭しくされて喜ぶような雲上人じゃないから。いや公爵だけども。元々は庶民だから。

「――では、行きますね」

「うむ。危険を感じたなら直ぐに戻ってくるといい。その時は全力で我が友トールの助力をする」
 言うだけあって、こっちサイドの出入り口は要塞方面よりも多い兵数によって守られており、親方様の発言を耳にすれば、バトルアックスを握った拳で心臓部分を叩き、やってやるぞ! という気概をこちらへと見せてくれた。
 そういった所作が嬉しかったので、頼らせてもらいますと頭を下げて感謝の意を示す。

「とにかく迷わないようにな」

「だからオイラがいるから問題ないってば!」
 親方様の顔に接近して睨むミルモン。親方様は笑顔で返していた。
 そんなミルモンの首根っこを拇指と食指で摘まんで定位置の左肩に乗せ、もう一度、頭を下げて体を反転。
 背中を見送られながら、パーティーを伴ってエルウルドの森の中へと足を踏み入れていく――――。

「ドキドキだね~」
 親方様に唇を尖らせていた時とは違い、左肩にちょこんと座るミルモンはようやく冒険らしい冒険が始まったと、高揚した声で周囲をキョロキョロと見渡す。
 いつでも自分の愛刀で迎え撃ってやるという気迫もあり、ギムロンからもらったミスリルコーティングが施されたサーベルの柄に右手を常に添えている。

「興奮したままにサーベルを抜かないでくれよ。そこで抜かれたら勢い余って俺の顔が斬られるからな」

「分かっているさ。でも警戒は大事だからね」

「こっちには優秀なスカウトがいるからそこまで鯱張るなよ」

「うん! そうだね!」
 と、返してくるものの、さっき以上に高揚とした声が返ってくる。
 要塞までの道のりは安全な街道を馬上で移動するだけだったが、今は脅威がいるであろう森の中を進んでいる。
 冒険然としているこの状況に、ミルモンは興奮を抑える事ができないでいた。

「皆もミルモンほどじゃなくてもいいから警戒はしておいてね」
 肩越しに伝えれば、こういった経験が少ないパロンズ氏とコルレオンが強張った表情と共に首肯で返し、場慣れしてきているタチアナは、二人よりも余裕を持っての首肯で返してくる。

「むっ!?」

「あ、違いますよ」

「すみません……」
 右方向に気配を感じたと、パロンズ氏が目を細めて警戒するように手斧を構えるが、俺が脅威はないと否定。
 木漏れ日と下生えなんかが作り出す風景が人影に見えてしまったようだ。
 そういったことで脅威あり! みたいな誤報をされると混乱も発生するからね。

「具申させてください。パロンズさんが目を向けた箇所に一応の確認は?」
 と、コルレオン。

「大丈夫。さっきミルモンにも言ったけど、俺達のスカウトは優秀だから。パロンズ氏が目を向けたところの確認は――」

「済んでる。問題ないよ」

「と、いうわけ」

「理解しました」
 納得してくれるコルレオン。
 森の中での索敵において、エルフの目は何よりも信頼と説得力がある。
 
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