異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,326 / 1,861
矮人と巨人

PHASE-1326【白煙】

しおりを挟む
「魔王軍が百だとして、敵の総兵力はどのくらいとなるでしょうか?」
 落ち着きあるタチアナの質問に、

「魔王軍が百と推測して、この森の住人であるカクエンの数でどう変わるかだよな」
 パロンズ氏を見れば、全体からも視線が注がれることになる。
 緊張を打ち消すかのようにパロンズ氏が一つ咳を打ち、

「現状、カクエンの数は決して大多数ではないと思われます」
 と、些か上擦った声で答えてくれる。
 そして大多数ではないという発言で安堵の吐息を漏らすタチアナとコルレオン。
 二人が安心したところで、

「それで――大多数ではないという根拠は?」
 と、俺から質問をする。
 ――カクエンはこの森の生態系において、頂点にいるわけではないという。
 実力的にもアジャイルセンチピードは天敵であり、捕食される立場でもあるそうだ。
 何より、このカクエンという種族は全てが雄であり、雌は存在しない。
 他から女性を連れてこないと繁栄できない種族。
 そこだけを切り取って聞くと何とも不憫な種族である。
 俺の部屋に来ないか? と、いったような格好いい発言の出来る種族なら好感も持たれたんだろうが、繁栄のために他種族と寄り添って繁栄――ではなく、単純に攫うという考えと、男なら命を奪うという短落さで、完全に嫌悪感だけしか抱かれない存在となってしまったんだろうな。
 
 なので同情はしない。
 
 以前の戦いで魔王軍に呼応して窟へと攻め込んだ時には千ほどの集団だったそうだが、その時の戦いでドワーフさん達は大いに励み、七割を超えるのカクエン達を撃退したそうだ。

「凄いですね」

「カクエン達だけならなんの問題もないですからね」
 運も良かったという。
 その運というのがカクエンの立ち回りの杜撰さ。
 魔王軍に呼応はしたものの、齟齬がかみ合わず、魔王軍との連携が取れないままに攻め込んでしまい敗退。
 魔王軍の侵攻を抑える事は出来なかったけども、予定より兵力が落ちてしまった魔王軍は力押しではなく、館に籠城するドワーフさん達を包囲するという戦略に変更したのではないのかとパロンズ氏は推測。

 魔王軍――蹂躙王ベヘモトの軍勢としては上手く事が運ばなかったんだろうが、こっちサイドからしたらカクエンの無計画さに救われた感もあるよな。
 包囲するだけで攻めあぐねている間に、王都の方で魔王軍にとって宜しくない変事があったわけだしな。
 つまり、俺達が頑張ってホブゴブリンの軍勢を撃退したということ。

「なら単純に残っているのは三百ほどですかね? 後詰めなんかがあれば話は変わりますけど」

「ですね。三百よりは多いと考えた方がいいかと」

「他から女性を攫わないと繁栄できないのに以外と多いですよね」
 現状、女性たちが囚われているなら生き地獄だっただろうな……。
 初対面の時のリアクションからして、女性たちが現在カクエンたちの支配下にいないというのが分かっている事が、俺達にとって救いである。

「人間と違い、カクエン達の寿命は長いですから」
 ――パロンズ氏の話では平均で三百年は寿命があるそうだ。
 なので女性がいなくてもそこそこの種族維持はできるようだ。
 維持は出来ても女性を支配下に置くことが出来なくなって随分と経過しているだろうからな。性欲は限界点に到達しているのは間違いない。
 そんな連中をグレーターデーモンのヤヤラッタはよく抑え込んでいる。軍監としての手腕は本物のようだな。

「で、パロンズ。結局のところ敵の兵数の見積もりは?」

「多く見ても五百強と考えた方がいいでしょうね」
 と、パロンズ氏が返せば、

「ほうほう、一騎当千である私ならばなんの問題もない数ですね」
 と、強気のコクリコ。

「頼らせてもらうぞ」
 言えば、フンスッ! と鼻を鳴らして得意げに胸を張る。
 得意げに口にしたコクリコの発言内容が、魔王軍が王都に攻め込んできた時の先生の発言のようで懐かしかった。
 ――ベルとゲッコーさんに対し、一騎当千と評してから万夫不当へと変わり、天下無双に訂正していたっけな。
 あの時はこのドワーフの地が王都同様に侵攻を受けているなんて事を知る由もなかったけどね。

「では、行きまぐぇ!?」
 一騎当千が意気揚々と歩き出そうとするので、フードをむんずと掴んで引っ張り制止すれば、美少女からとても残念な声が上がる。
 続けて何をするのですか! と、お怒りだったけども、

「搦手による攻略は変わらないから」

「だから私一人でも問題ないですよ」

「一騎当千だからな」

「そうです。一騎当千のコクリコ・シュレンテッドです」
 一騎当千って言葉がとても気に入ったご様子。

「でも駄目。相手が待ち受けている時点で、兵を伏せていたり、様々な罠が仕掛けられているのは必至。そういった箇所をシャルナに確認してもらいながらどうやって攻めるかを考える事が重要」
 俺達はどう頑張ってもベルやゲッコーさんなんかとは違う。
 正面切っても大丈夫なだけの行動に移すためには、それ相応の策を考えてからじゃないと駄目なんだよ。
 と、伝えれば、コクリコも二人の名前を出されると、自分との実力差を比べることは出来るようで、

「まあいいでしょう。ですが一番槍は私が!」
 うん。前衛らしい頼りになる発言だ。
 ここまで前衛にこだわるなら、装備もそれに見合った物にしてほしいものだけどな。

「それと王都に戻った時、エリシュタルトの集落にてトールが活躍した時の立ち回りをゲッコーから聞いたのですがね――」

「おん?」

 ――。

『伏兵が配置されてるよ』
 音を立てることなく樹上移動が可能なシャルナが俺達のいる場所から更に先へと進み、相手側の動向を窺ってくれる。
 金糸のような長い髪を靡かせていても、木々と同化するようなシャルナの偵察はとても頼りになる。
 そして毎度の事ながら、こういう時のイヤホンマイクもとても頼りになる。
 装着するパロンズ氏はとても驚いていたけど。
 初めて装着すれば、皆、同様のリアクションをするよね。
 コルレオンは耳の位置と、装備している兜のデザイン上、装着は出来ないので側にいるタチアナから現状を教えてもらうことになる。

 ――。

「しかしまあ~」
 感嘆の声を漏らす。
 シャルナの素晴らしい誘導により、脅威に見舞われることなく奴等の拠点が肉眼で捕捉できる位置まで到着。
 木々を切り倒して大地を広げ、隆起した大地を無理矢理に平地へと変えていた。
 切り倒した木々と土を利用した土壁の防御壁も築いている。
 壁の高さは五メートルほどあるので、拠点として立派なものだ。

「高さもさることながら、その壁によって囲まれる内側の規模は小さな村レベルってとこかな。一年ちょっとでこれだけのモノを築くなんて、敵ながら大したもんだ」

「そのようで。そして会頭、お気づきですか?」

「もちろんですよパロンズ氏。ここへと辿り着く前からね」
 二人して首を仰角四十五度に固定して空を見上げる。
 木々を切り倒し開けた空に向かって、拠点内の数カ所から白い煙が上がっていた。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...