異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,339 / 1,861
矮人と巨人

PHASE-1339【上位オーガ】

しおりを挟む
 ――見えてくるのは防御壁。
 最初のものに比べれば背は低く、三メートルほど。
 でも造りはこちらが上。土と木材の防御壁だった最初のものと違って、ここのは土よりも木材を多用したもの。

「まあ、強度はそこまで変わらないだろうけどな」
 こちらの火力からすれば、最初のもここのも強度に違いはないと思えてしまう。

「これからそちらにお邪魔しますよ~」
 コクリコの大音声。
 ――しかし反応は返ってこない。

「これは完全にこちらに恐怖していますね」

「いや、違うと思うぞ」
 逃げ出した形跡もないからな。こちらを誘い込もうとしていると考えるのが普通だろう。
 壁に沿って目を動かせば、壁よりも背の高い門構え。
 こちらの呼びかけに鉄門が開くというようなアクションは起こらない。
 余裕からか。恐怖からか。
 逃げ出した形跡がないから前者なんだろうけども、物見がいないのは不気味だよ。

 ともかく――だ!

「門が固く閉ざされているのなら――」

「強制的に道を作るだけです」
 壁の向こう側に伝わるように発せば、コクリコが更に声を大きく発して続き、アドンとサムソンを自身の周囲に待機させる。
 初手の壁同様、バランスボールサイズのファイヤーボールで破壊しようと考えているご様子。

「今回は俺も協力しよう」

「必要ないですけど」
 そう言わないでもらいたいな。ティーガー1を久しぶりに召喚したんだからな。
 せっかくだから、もっと活躍をさせてやりたいってもんだ。

「次弾は徹甲弾であるAP弾から、榴弾であるHE弾に変更」
 口に出しつつ、プレイギアにてボタン操作。
 ディスプレイのAP弾の文字がHE弾に変わったところで、

「コクリコに合わせるぞ」

「では合わせてください」
 ティーガー1からコクリコとパロンズ氏が距離をとる。
 発射時の衝撃がどのくらいなのか分からないので、距離を取ってもらった方がありがたいからね。
 なので俺もキューポラから出していた体を引っ込めて車両内部に戻る。

「では行きますよ!」
 コクリコがバランスボールサイズからなる三つのファイヤーボールを顕現させ、壁へと向けて放つ。
 コレに合わせて俺もL2トリガーで照準を定めてからR2トリガーを引く。
 大気を劈く轟音と衝撃が生じ、HE弾が壁へと向かって飛んでいく。
 コクリコからわずかに遅れての発射だったけど、着弾は俺の撃ったHE弾の方が先だった。
 壁へと撃ち込んでしばらくすれば大きな爆発。これが榴弾の特徴なんだよね。
 徹甲弾と違って貫通力は劣るけど、建物なんかを破壊する時などは榴弾の方が有効。
 HE弾の爆発に続くように、コクリコのファイヤーボールが榴弾の側の壁に直撃。
 派手に木っ端と土煙があがる。

「ふむ、今回のも素晴らしい威力」
 と、コクリコが自画自賛すれば、

「先ほどと同様の感想になりますが、破城槌いらずですな。お二人の力を目の当たりにすれば、更にそう思います」

「凄いよ兄ちゃん」
 パロンズ氏とミルモンによる称賛。
 堅牢そうな木壁などなんの意味も無いとばかりに、着弾地点とその周囲から壁を消し去ってくれる。
 ティーガー1の榴弾もだけど、やはり強化されたコクリコの魔法もとんでもない威力だ。8.8㎝アハト・アハトに負けてない。
 いや、むしろ勝っているような気もする。
 ファンタジー世界の凄いところは、個人の能力で戦車の火力を超えることが出来る事だよな。
 しかもそれを成したのがコクリコなんだからな。
 初めて出会った頃のファイヤーボールからしたら別物すぎる。

「さあ、道は出来ました。さっさとお邪魔しましょう」
 当人は恐れるものは無しとばかりの強い足取りで歩む。
 まずはティーガー1を盾にして進むのがセオリーなので、コクリコを追い越して先にお邪魔する。

「それにしても――」
 壁を破壊したとろこからお邪魔し、キューポラから上半身を出して周辺の確認。

「壁はあっても、土嚢やら堀ってのがないな。中央なんだからもっと防御に力が入っていると思ったんだけどな。攻められても問題ないって自信の表れなのかな?」

「その通りだ」
 俺の継いだ呟きに返してくれる存在が、ゆったりとした歩みでこちらへとやってくる。
 壁の内側は移動時に目にしてきた竪穴住居の大型版。
 地面には石畳も敷いてあり、ここだけは特別といったところ。

「どうも、お邪魔してますよ」

「ならば門から入ってほしいものだな」

「こっちが呼びかけても反応がなかったので、無遠慮に入らせてもらいましたよ」
 巨大な門に相応しい存在の登場。

「ここの茶坊主さんですか? ここの主に会わせてほしいんですけど」

「なんともふざけた事を口にする小僧だ。いや勇者だという話だったな。その面妖な鉄の象も勇者だからこその乗り物か?」
 こちらの事はちゃんと耳に入っているようだな。

「知られていて何より」

「軍監殿から聞いているからな」

「では茶坊主さんと軍監殿の関係性はどういったご関係で?」

「一応は上ということになる。なので茶坊主ではないな」
 この森を根城にしている蹂躙王ベヘモト軍を束ねるヤツのご登場か。

「随分と豪奢な恰好なことで。ここの指揮官殿。名を聞いても?」

「聞きたいのならば先に名乗れ」
 常套句な返しだね。
 ――まあいいでしょうよ。
 相手がここの総大将となれば、こちらも堂々と名乗らせてもらおう。

「俺の名前は遠坂 亨。またの名を――異世界のミハエル・ヴィットマン!」
 以前、異世界のオットー・カリウスと名乗った時はゲッコーさんに怒られたけども、今回はいないのでイキらせていただきます。

「勇者となれば、異称も多いのかな?」

「まあな」
 異世界の〇〇シリーズもこの一年で結構、名乗ってきたもんだ。

「で、豪奢な指揮官殿。頭の角と風体からしてオーガ――でいいよね?」

「オーガロードだ。訂正しろ!」

「それは失礼」
 オーガの上位種であるという事に誇りを持っているようで、強い語気で訂正を求めてくる。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...