異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1417【朱色に塗る】

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「というか、戦闘装束ですね」

「王都に来てから新調しましてな。ワック殿には世話になっております」
 今回は自分が指導しているゴブリン達の初陣。
 模擬戦とはいえ初の戦闘となれば、指導者としても気合いを入れたいそうで、自らも忍者を彷彿とさせる装束で見学。
 それとは別――というか、メインとなる理由からの装束の着用でもあるそうだけど。

 そんな装束の内側にはミスリルで作られた鎖帷子も着込んでいるそうで、襟元をずらして中を見せてくれる。
 それを羨ましそうに見る黒色級ドゥブ二人が覗き込むが、二人して首を傾げていた。
 傾げた後、互いに顔を見合わせ、

「「ミスリ……ル?」」

「つや消ししてるんでしょう」
 俺が答えを述べれば、首肯が返ってくる。
 青白い輝きは神秘的だけども、闇夜では目立つからな。
 せっかく闇に溶け込む為の濃紺色の装束なのに、鎖帷子で目立っていたら意味がないからね。

「本当に良い仕事をしてくれます。ワック殿の仕事にはガルム達も喜んでいますよ」

「それは何よりですね」
 デカい槍が強化されたってことなんだろうからね。
 友好関係であるヴィルコラクの強者たちが更に強くなるってのは、俺達としてもありがたいからな。

「それでゴブリン達の練度はどうです?」

「まだまだですが、それなりに戦えるようにはなってきています」
 臆病なところはあるが、だからこそ引き際を弁えている。
 自然界で生活していた時に培ってきた危険察知は、そのまま長所として向上。
 騎獣偵察というポジションだからこそ臆病さは長所となってくれる。
 俺がお願いしたように、そこを活かして鍛えることが出来るのも、翁の年の功ってやつなんだろう。
 
 最初の内はサボり癖に、辛くて逃げ出すということもあって手を焼いたそうだが、安定した衣食住を手に入れる事が出来ると分かれば、真面目にやれば生活に困らないということから真剣に取り組むようになってくれたそうだ。
 
 加えて、戦闘向上だけでなく、簡単な人語を話せる者も数人でてきたという。

「翁の指導の賜物です」
 感謝の一礼。

「いやいや、喋れると言いましても――メシ、クウ。と、片言ですよ」

「うん。食に従順な連中でなにより。腹を満たしてやれば、不満を抱かないわけですからね」

「単純であるが故に裏切らないでしょう」

「義理を重んじるところもありますからね」
 デミタス戦では腰が引けながらも、俺の為に前に立ってくれたからな。

「どこまで出来るようになったかが楽しみです」

「では、賭は我が同胞たちに?」

「そうしたいんですが、先約がありましてね」

「それは残念」

「双方がどれほど成長したのかを見させていただきます」

「では、勇者殿が損するように励んでもらいましょう」

「俺の懐を寂しくしてくれるだけの励みを期待します」
 そう伝えれば、翁は俺達の前から消える。
 瞬時に消える移動はアクセル。
 音も立てずに俺達の前からいなくなれば、少し離れた前方へと移動。
 その動きに合わせるように、翁の周囲に突如として現れた靄が一塊になっていけば――ミストウルフとなる。
 跨がる前にこちらに会釈し、翁は模擬戦が行われる方へと向かっていった。

「凄い。音も無く現れて、音も無く去っていくんだから!」
 と、内向的なカルエスが翁に対して感嘆の弁。
 言葉には熱がこもっていた。 

「アクセルによる移動。翁は俺にとってアクセルとストレンクスンを教えてくれた方でもある。あのくらいは当然だろうね」
 と、俺のピリア習得の指導者でもあることを教えれば、勇者である会頭の指導者なんだと驚きながらも、納得もしていた。

「立ち去りかたも格好よかったですよね」
 と、ルッチ。

「いやマジでね!」
 間髪入れずに返した。
 大気中から突如として靄が現れて、それが四肢動物を象って現れるのがミストウルフだからね。
 で、それに跨がって立ち去るとか凄く格好いい!
 静夜の歩法というネーミングに、大気中から現れるミストウルフへの騎獣とか俺もやってみたいもんですよ。
 
 ――程なくして、

「始まるようだな」
 両陣営の準備が出来たのか、騎馬と騎獣が相対するように整然と並べば、見物人たちからどっと歓声が上がる。
 後方の北防御壁の壁上にも多くの人が集まっていた。
 一般人も壁上に立っているところがね……。許可してるんだろうけど、一般人を防衛上で重要な部分に立ち入らせるのはどうかと思うよ。

「もっと近くにいきませんか?」

「ここだとよく見えないですしね」
 と、ルッチ、カルエスの両名からの提案。
 俺としては少し離れた位置から全体を見たいんだけどな。
 ビジョンを使用すればなんの問題もなく表情とかも見る事が出来るからな。
 まあ、俺基準で考えちゃ駄目か。
 今の発言からして、この二人はビジョン未習得みたいだし。
 案内人でもある両名の提案に従おう。

 ――。

「ほ~」
 肉眼でもはっきりと見える位置までやって来れば、いやはやどうして、双方共に精悍な顔つきじゃないか。
 ラルゴ達は分かるけども、臆病というのを長所として残しているゴブリン達も凜々しい顔立ちだ。
 そしてゴブリンたち以上に凜々しいのはミストウルフ達。
 唸り声を一切あげることなく、冷静な面持ちで相対する騎馬を眺めているといったところ。

「流石に武器はさっきまで手にしていたものじゃないか」
 ラルゴ達が手に持つのは槍ではなく長棒。
 先端が布で包まれている長棒だった。
 先端の丸みからして、包まれている部分には綿が詰まっているんだろう。
 漫画なんかで兵士が訓練時に使用するのに似ている。
 違いがあるとすれば、先端の布部分に朱色の塗料が塗られていること。
 ゴブリンサイドが持つ棒にも同様の工夫がされていた。

「つまりは、先端の朱色が体のどこかに付着すれば負けってことだな」

「そうです」
 独白の推測をしっかりと拾ってくれるルッチ。
 頭部と胸部は一度でも付着すればその時点で退場。
 腕や足は二度の付着で退場。
 部位に朱色を塗布して倒す殲滅戦が今回のルールだそうだ。
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