異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,428 / 1,861
前準備

PHASE-1428【下らない】

しおりを挟む
 こちらが×の字を刻めば、即座に見舞われた箇所をファースンからアンリッシュに転向。
 ガリオンのオリジナルだったはずのニージュに酷似した技にて反撃されつつも――、

「そいやっ!」
 衝撃を受けて、痛みもあれば吹き飛ばされそうにもなる中、両足に根を張るイメージで踏ん張り、衝撃に耐えながら一撃を打つ。

「チッ!」
 強者であるガルム氏から聞こえてくる舌打ち。
 その舌打ちの音に近い音が、レザーローブの方からも聞こえてくる。

 つまりは――、

「かすった程度か」
 ×の字マスリリースで剥がしたオーラアーマーの部分に、右での胴打ちを見舞ってはみたものの、

「直撃――ならじ」

「だったとしても、こちらに触れてきたな……。流石と言うべきだな。出来ればこちらが先に一撃を与えたかったんだがな」
 かすった程度でしかなかったが、一撃は一撃と判断したようだ。
 だからだろう。俺に先手を取られたことが悔しかったようで、牙を軋らせていた。

「しかし、一本というにはほど遠い一撃でした」
 俺なんてニージュ(仮)でダメージを受けているし。
 ガルム氏は得物や白打によるダメージでないと納得しないようだけど。

「謙虚だな。謙虚すぎる。誇ることを知らない」

「なんだいその小馬鹿にしたような声音は!」
 ガルム氏の発言にミルモンがお怒り。

「事実を述べているだけだ使い魔よ。本来ならもっと強烈な一撃をくらっていたかもしれん。だが勇者が謙虚ゆえにこの程度ですんだ」

「なに言ってんだか」

「口で言うより実行した方が伝わるだろう」
 言いつつガルム氏、身を低くしつつ疾駆。
 アクセルを使用していないのは見て取れるが――、

「だとしても速いっての!」
 でもって、

「捕捉しづらい!」
 ガルム氏の移動は、一足飛びにて距離を一気に詰めてくるという線を書くような移動ではなく、細かな足取りでの移動。
 直線ではなくジグザグ。
 稲妻を彷彿とさせてくるフェイントによる移動。

「サッカードが過ぎるよ俺の目!」
 俺の眼球は忙しなく小刻みに動いていることだろう。
 全くもって捉えにくい!
 
 で、こちらが翻弄されていると分かったところで……、

「アクセル」
 俺との距離が縮まったところでアクセルを発動。
 背後からの気配に即反応。
 初撃の時のような受け方はせず、上段からの振り下ろしを右の木刀で受けつつ、力で受け止めるということはせず、横に寝かせた木刀の切っ先を下方へと向けて長棒をいなし、ガルム氏の体勢を崩したところで反転し、こちらもダメージ覚悟の零距離マスリリースを左で放つ。
 衝撃でファースンが薄まったところに、右の木刀にて袈裟斬りを仕掛けようとしたところで、

「あだっ!?」
 ビシンッという音が俺の左太股から響く。
 鞭で打たれたかのような痛みが走り、遅れてジンジンと熱くなる。
 体勢を崩しながらのローキックを見舞われたかと思ったが――、

「……だったな。人間とは違うんだよな」
 次なる追撃が来る前にバックステップで距離を取ったところで、鼻っ面をかすめてくるのは赤銅色の尻尾。
 コボルトであるコルレオンも尻尾を上手く使っていたけど、ヴィルコラクであるガルム氏の使い方はヤヤラッタ同様、鞭のような攻撃。
 
 火龍装備だってのにジンジンと痛みが伝わってくるのは、纏っているピリアが原因なんだろうな。

「ハッ!」

「て、またかよ……」
 体勢を整えると同時にアクセル。
 攻めてくるのはやはり背後から。
 これもいなして距離を取る。

「背後からばっかり! 卑劣の極だよ!」

「背後を取るのは戦いの基本だろう。卑劣とは言い訳でしかないぞ使い魔」

「なにおう!」

「戦いとは生きるか死ぬかだ。生き残る為には生物の弱点でもある背後を取るのは当然。そもそも背後を取られるような立ち回りしか出来ないのが悪いのだ」

「ぬぅぅぅぅぅ……」
 論破されたようで、ミルモンは言い返せない。

「だというのに勇者はそれをしない。攻めるにしても側面からばかり。別段、悪くはないが、背後から攻めてこないと分かれば、それ以外を警戒すればいいだけだから対応もしやすい」
 こちらの攻めのバリエーションが一つ消えているのは確かだからな。

「心境の変化かな? 以前はそんな事はなかったようだが。――よもや勇者たるものという矜持が芽生え、背後から襲うは卑劣。などという下らない思考になってしまったか?」

「下らないですか」

「下らないな」
 そんな事で攻撃のパターンを削るとは下らない。
 戦いに負ければ世界がショゴスの手に落ちるという状況だというのに、その下らない矜持で自身を死の縁に立たせるのは下らない。
 下らないのオンパレードに対し、言葉の応戦が出来ないのも事実。
 実際、矜持だからな。
 デミタス戦での戦いがなんとも情けない背後からの一撃による辛勝――という名の見逃してもらうという幕引き。
 
 そういった経緯があるからこそ、背後を取らなくても相手を倒せるだけの実力を得たいと決意を固めている。
 
 だが眼前の相手はそんなことはお構いなしで、

「さあ背後から狙ってこい。背後を取れるということは、それだけで実力が上回るということだ」
 強者だからこそ背後に回り込め――か。

「じゃあ、お宅は兄ちゃんより実力があるって言いたいんだね」

「――そうだな。この状況が続くようなら負けないだろう」

「兄ちゃん! あいつに圧倒的な実力差ってのを見せてあげなよ!」
 それが出来たら苦労しないよミルモン……。
 使用マナがピリアに限定されていることもあるけども、単純に膂力でも負けている。

「どうした? どうしても自分からは仕掛けづらいか? こちらの方が実力が上と判断していいかな? ならば参ったと言えばいい。ここで止めてやろう」
 両腕を広げて悠々とした姿で発してくれば、俺の代わりに挑発として受け取ったミルモンの顔面は朱の盆の如し。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...