異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,469 / 1,861
天空要塞

PHASE-1469【十人張り】

しおりを挟む
「トール。舌戦もいいが――」

「口論だけじゃすまないくらいに、殺意増し増しのようだな」
 ベルへと返しながら城壁全体を見渡せば、デカ頭と話しをしている最中に狭間から鏃が生えてくれば、小塔や壁上からも同様に鏃を向けられる。
 障壁魔法を使用せずに一斉射されてしまえば、瞬時にしてハリネズミみたいな体になることだろう。

「せっかく翼や羽があるというのに、それを活用せず壁に守られる戦い方をするとは」
 鼻で笑うコクリコ。
 ――挑発をしたところで、返事はない。

「この程度の城壁なら私が破壊してあげましょう」
 挑発しても返事がないから更なる挑発とばかりに、コクリコがワンドの貴石を輝かせながら語を継ぐ。

「なら私もちょっとは力を見せようかしら」
 と、これにリンも続く。
 コクリコと同じように口角を上げた笑みだが、リンのは蠱惑なのも混ざっているんだよな。
 俺はその笑みに魅了されそうになっているけど、城壁側からは二人に対してリアクションを返してくることはなく、

「放て」
 抑揚のない短い言葉が出てくるだけ。
 発したのはこの場所で最初に俺達へと話しかけてきたグレートヘルムがデカいヤツ。
 声に従い、城壁のあらゆる場所から矢を一斉に放ってくる。

「プロテクション」

「あ!?」
 半円形状で顕現する障壁はリンによるもの。
 自分が展開するつもりだったのか、先を越されて悔しそうなシャルナ。
 如何に強力で大量な矢であろうも、放つだけ無駄とばかりに、リンが展開した障壁が悉くを防いでいく。

「通路からの戦いから思っていたことだけど、良い矢を使ってるよね」
 地面に力なく落ちて転がる矢を見ながらシャルナが語る。
 エルフという種族だからか、相手の矢の作りの良さに感心し、「ちょっとこの矢を放ってみたい」なんて呟いていた。

「無駄なことが大好きなようで」

「それは私が言うことじゃないかしら……」

「全くだね……」
 プロテクションを展開してくれているリンではなく、コクリコが余裕の発言をするのはいつものこと。
 さも自分が対処しているように見せるのがコクリコだからな。
 リンと声だけ参加のオムニガルは呆れ口調。
 
 だがコクリコが言うように、無駄だというのは本当。
 どれだけ放とうがこちらには届くことはないのに射かけ続けてくる。

「各自、警戒を緩めるなよ」
 と、ここでベルから注意を受ける。
 意味の無い行為を相手がするのには意味があるということ。
 注意を受ける中、

「来るぞ」
 と、継ぐベルの視線は標準サイズより二回り大きいグレートヘルムに向けられる。
 なので俺も視線を追えば、

「よい障壁のようだがこれはどうか?」

「デカッ!」
 頭だけでなく、手にする弓もデカかった。
 弓を縦にすれば下の部分である本弭が地面に触れてしまうからだろう、構え方は弓を横に寝かせての構え。
 三メートルを超える長弓は長いだけでなく、各部も太い。
 
 弦音はキリキリ――といったものではなく、ギチギチと歪さのある音。

「どんだけの強弓だよ」

「ハッ! 聞いて驚け! 十人張りだ!」

「源為朝の倍をいくんじゃねえよ」

「知らん名だ。分かるのは非力だということだな」

「お前より強いっての! 鎮西八郎なめんなよ! 悔しかったらその一矢で船を沈めてみせろ!」

「ほう、矢で船を沈めるか。大した御仁だ。会ってみたいものだな」
 相手よりもベルの方が食いついてしまった……。

「船よりもまず先に、その障壁を砕いてくれる。我が一矢を受けよ!」
 そう言って射れば、ゴヒュンと豪快な音が弓から発せられる。
 
 次には、

「プロテクション!」
 と、若干、焦るリンが次の障壁を展開。
 ドーム状ではなく分厚い一枚からのモノを俺達の前面に展開。

「ふぅ~」
 と、続けて出すのは安堵の息。
 リンが安堵の息を漏らすのも驚きだが……、

「嘘だろ……」
 矢はリンのドーム状のプロテクションを貫通し、続けて顕現させた分厚いのに突き刺さって止まった。
 次のを出していなかったなら、間違いなく俺の頭部に向かってきたルートだった……。
 分厚い障壁が消えると同時に地面へと落下する矢は、ガランとこれまた豪快な音。

「槍じゃねえか……」
 何を人力でバリスタで撃ち出すようなデカい矢を撃ってんだよ……。

「どうだ! チンゼイハチロウなる者も肝を冷やす一矢であろう!」

「やるわね」
 まさか自分の障壁を突破してくるとはリンも思っていなかったようで、称賛を口にしながらも、眉尻がやや上がっているから不愉快でもあるようだ。

「我に続け!」
 デカ頭の声に、壁上、小塔、狭間から次射が無防備になったこちらへと放たれる。

「プロテクション」
 今度は自分がと、シャルナがリンを真似てドーム状で展開。
 並の矢は防ぐんだけども、

「そら!」
 デカ頭の矢となれば、

「冗談じゃないわよ!?」
 リンのプロテクションを貫通したように、シャルナのも貫かれる。
 即座に三重からなるプロテクションを展開するも、ドームを貫き三重の内、二枚まで抜いてきた。
 貫いてきた矢を見るシャルナは、鏃に魔法が付与されていると教えてくれる。
 それでも矢で貫通されるとは思いもしなかったようで、障壁を展開してくれた一人目と二人目は悔しそうでもあり、貫かれることに得心がいかないといったところ。

 こちらが大いに驚く反面、相手側は大いに沸く。
 
 小数でありながら、味方を撃破してきた連中。
 そんな連中が一矢に恐怖しているということで士気が高まっているようだった。

「調子に乗るのもそこまで」
 士気の中心となっているデカ頭に対して不快感を見せるリンは、

「ダークフレイムピラー」
 フィンガースナップと共に発せば、デカ頭の足元から黒炎の柱が立ち上る。
 火炎系魔法とは違う、闇系の炎からなる上位魔法。
 直撃だというのは分かる。

 リンの上位。しかも闇魔法となればデカ頭も――、

「効果は無しだな!」
 体を大の字にして闇の炎を振り払ってみせるデカ頭。

「おお、マジかよ!」
 アレが通用しないってなると、間違いなくやべえヤツだ。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...