異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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天空要塞

PHASE-1471【走る寒気】

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「それで、タネってのは?」

「お兄ちゃんは前に私達の拠点で目にしたことがあるよ。私達との戦闘の時にね」
 ベルの推測と、リンが拠点としていた廃城の地下都市での戦闘とを結びつければ――、

「ピラミディオンか」

「正解。私達のに比べれば規模は大したことないけど、壁の中に二つ確認できたよ」

「そう。有り難う。ついでにその二つを破壊してくれるかしら。そうすればあの大きな兜も焦ることでしょう」
 ここで口角を吊り上げて悪い笑みをリンが湛えれば、

「させるものか! クレイマン!」
 壁上からこちらへと飛び降りながら魔法を発動すれば、俺達の目の前の地面が隆起し始める。
 飛び降りる最中に、上半身だけを見せるオムニガルに向かってロングソードを振るうも、素早く城壁内部に逃げ込むオムニガル。

「おのれ! 狭間の者達は増進塔を守れ!」

「焦ってるな。一人で降りてくるなんて」

「一人ではない」
 俺達と同じ目線となるタイミングで隆起した地面から現れるのは、粘土状からなる人型――ではなく二足歩行の昆虫タイプからなる粘土人形。
 数は三十ほど。

「一度の発動で中々の数だ。これもお宅が口にした増進塔ってのの恩恵かな?」

「そうだ」

「与えられた力でイキッてるとか」
 笑ってやれば、

「安い挑発だ。与えられるだけの実力があるから与えられるのだ。そこは誇れる美点だろう」

「なるほど。筋は通っている」
 頷きながらベルが返す。

「となれば、この城壁の指揮は間違いなくお前と言うことだな」

「その通りだ白髪! 我が名はジージー・シックヒッカ。南城門の守護統轄である! ここから先へと踏み込めるのは無理と思え!」

「気概はいいけども、相手を選んでから発さないと恥をかくぞ」

「では勇者に発せば恥にはなるまいよ!」

「上等! 降りてきたのを後悔させてやんよ!」

「そちらがな!」
 気概十分とこちらを威圧する意味合いなのか、背中の四枚の翅を広げてみせるジージー。
 翅全体に広がる翅脈。
 既視感を覚える中で、俺の背中に冷たいモノが走る。
 妙な違和感を抱きつつもジージーへとアクセルにて接近。

「ノコノコ達よ!」
 聞き慣れない名前だが、ジージーが発した後に素早い動きで昆虫タイプの二足歩行からなる粘土人形が俺へと迫ってきたから、こいつらに付けた愛称だというのが分かった。
 エルフの国にてダークエルフの集落で戦闘したマッドマンと違い、動きは素早い。
 
 が、

「ファイヤーボール」
 俺への横槍は許さないとばかりにコクリコ。

「じゃあ、私も」
 リンもコクリコを真似てのファイヤーボール。
 やはり大きさは後者が上。
 二つの火球がノコノコと名付けられたクレイマンに直撃すれば、周囲のも含めて簡単に吹き飛ばしてくれる。

「潔く一対一を受け入れるんだな」

「勇者がそう言うのならば、一騎討ちを受けねばなるまいよ!」

「その心意気や良し!」

「上からなのが生意気だ!」

「皆は城壁からの攻撃と残りのクレイマンを頼む」
 肩越しに伝えて首肯が返ってくるのを確認してからまず一刀。

「ブレイズ」
 残火を鞘に収めたままに発動。
 鞘からあふれ出す炎を勢いにしてからの、

「爆刀!」
 神速抜刀による一振り。

「ぬぅおぉぉぉお!」
 一振りを見舞えば簡単に吹き飛んでくれる。
 その勢いで城壁へと叩きつけることを目論んでいたけど、四枚の翅を羽ばたかせて衝突を避けた。

「やってくれる!」
 堪えたところで兜越しに俺を睨むジージー。
 爆刀による一振りを受けてダメージらしいダメージはないようだし、受けたロングソードも無事か。
 拵えも良いから守護統轄としていい業物を賜っているんだろうな。十人張りの弓と矢も特注みたいだし。
 でもって、一振りを受けて吹き飛んだのはわざとのようだな。
 その場で受けきって衝撃によるダメージが入るよりも、後方に吹き飛んだ方が良いと判断したんだろう。

「デカ頭なだけあって、中身は詰まってるようだな」

「本当に生意気な口ぶりだ!」
 感情に連動しているのか、翅を羽ばたかせる。
 それを目にすれば俺の背中にまたも寒いものが走る。

「なんだ……この感覚……」

「どうした? 声が暗いようだが」

「いや、別に……問題ない――さ!」
 一気に詰めてからの得意の上段。

「マッドメンヒル!」
 下方から伸びてくる鋭利な泥の柱。
 俺とジージーの間に割って入るように現れるが、

「それごと叩き斬ってやるよ!」
 有言実行とばかりに泥の柱を叩き斬る中で金属の感触が刀身から伝わってくる。
 鎧兜に一太刀――とはならじ。
 ロングソードの血溝がある平たい部分で防いで刃毀れを避けていた。
 剣術の基礎もちゃんとしているな。
 
 ここの連中は連携は凄く良いけど、実戦経験が浅いのが欠点。
 でもモスマンやこのジージーのように一定の力量のある者は、その実力で実戦の浅さを補えている。
 もしくは、一定の立場にいる者はそれなりの実戦を経験しているんだろうね。

「勇者と名乗るだけあって――強いな」

「底上げしてるだけあって――そっちも大したもんだよ。俺の得意とする上段からの一振りを受けきるんだからね」

「メンヒルが緩衝材にならなければ、防ぐのはもっと難しかっただろう。勇者の剣術は我以上。これは用心せねばならん」
 ちゃんと力量差を見極める事が出来るようだし、素直にそれを受け入れる事も出来るようだ。
 謙虚さは成長に繋がるし、隙もなくなる。
 増長から生じる隙をつくというのが不可能なら、それだけで攻め方の手段も減るってもんだ。
 この辺も蹂躙王ベヘモトの兵達とは違う。翼幻王ジズの兵達の性格は護衛軍に近いかな。
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